ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ウミユ遺跡ダンジョン 後半

第364話 ウミユ その31

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夕食を食べたらすっかり復活したトンガお兄ちゃん、クルトさんの回復魔法を受けて「僕の失敗が皆の成功につながったって事だね」と神対応。
私だったらグヌヌとなりそうなのに 凄いなと感心してたら、クルトさんから「強がってんだよ」とのツッコミが。

「でも気持ちを押さえて 良かったって言えるトンガお兄ちゃんは格好良いと思う」

私だったら自分のお陰だからって言っちゃうと思うもん。褒められて伸びるタイプなのです。
トンガお兄ちゃんにギュウギュウ抱きしめられるけど、お夕食後ですからね、あんまり強いと出てきちゃうので控えめにお願いします。


「そういえば ヴィオは聖魔法を使えるのよね? アンテッドへの攻撃も出来るの?」

私たち家族のイチャコラを笑いながら眺めていた土竜の皆さんだったけど、ここでネリアさんからの質問が。
聖魔法の勉強はしたけど アンテッドにお会いしたことがないから練習はしたことがないんだよね。
メイドさんたちが写本してくれた聖属性魔法の本も持ち歩いているから 復習はいつでもできるようにしている。
今回21階以降に来たかったのも 聖魔法の攻撃魔法を練習したかったというのが大きいのだ。

「そうなのね、じゃあ やっと 私が教えることが出来そうね。
ここまで私たち良いところなかったし、挽回しちゃうわよ」

拳を握りしめて気合を入れるネリアさん。
土竜の人たちは 何かあれば良いところを見せれてないというけれど、そんなこと全くないのに 強い人たちって謙遜するんだね。
中途半端な人ほどオラオラして 周囲を威嚇する必要があるのかね。

「けどネリアさん、セフティーゾーンって魔獣が避けるでしょう? どうやってアンテッドと交戦するの?」

「アンテッドは 街道でも廃村とか 盗賊の元住処とか、そういう瘴気が溜まりやすい場所なんかに現れることがあるのね。だから 慣れておいた方がいいと思うの」

「夜にセフティーゾーンの外に出るっちゅうことか?」

ネリアさんの提案に お父さんが待ったをかける。
でもこの中にいたら 近づいても来ないから練習にならないんだよね。

「お父さん、外向きの壁にしておけば中から魔法は使えるでしょ? それでセフティーゾーンが見える場所くらいで待機するのは駄目?」

むぅぅぅと悩み始めるお父さん。壁の頑丈さは分かっているけど、それがアンテッドにも効果的なのかが心配なんだろう。

「アルクさん、ヴィオの壁って 広くもできるでしょう? 私とオトマンも一緒に入るわ。だったら安心じゃない? それにセフティーゾーンから見える場所なら 危険な時にすぐ駆けつけられるでしょう?」

「確かに、父さんとヴィオの二人旅の途中でアンテッドに初対面するよりは安全じゃない?」

ネリアさんとトンガお兄ちゃんの援護でお父さんが折れて許可をくれたよ。
ふふっ、こうやって心配してもらえるのはやっぱり嬉しいんだよね。
そして許可が貰えたところで 聖魔法の復習です。

「まず 瘴気に一番効果があるのは浄化魔法ね、
我らが聖なる神ピュアンクスよ 悪しき魂を清める力をお与えください【ピュリフィケーション】」

両手を組んだ状態で神様にお願いし始めたネリアさん、多少習った呪文よりは短縮されているけど 他がもっと短い詠唱で使っているから 長々しく感じるね。
ネリアさんがプリヒ、ピリフィ……【浄化】を唱える時には 組んでいた両手を前に突き出した。
両手からは白っぽい光が飛び出したので か○はめ波を打ったのかと思ってびっくりした。

「ふふっ、久しぶりにしたから ちょっと魔力が多く出ちゃったかも。
汚染された場所を浄化するときは範囲を決めて 流すと良いわ。
アンテッドが出るようなダンジョンではセフティーゾーンでも浄化してからでないと体調が悪くなることがあるのよ」

なんと、それは聖属性持ちがいないパーティーは詰みませんか?

「アンテッドがいることが分かってるダンジョンに行くのは 聖属性持ちがいるパーティーが殆どだな。あとは貴族がいるところ。あいつらは金も伝手もあるから 教会で聖水買ってくるかんじだな」

聖水……。それはどういう原理の水なのでしょうね。
まさか 大人の小説に出てくるイケナイ聖水の方ではないですよね……ゲフンゲフン。

「聖水は魔素を抜いた水に 聖属性魔力を溶かしたお水ね、教会の収入源のひとつよ」

それって水生成魔法で作った水に聖魔力を入れたら作れるんじゃないの?
ちょっと試してみよう。
という事で 空の水桶をお兄ちゃんから1つもらって水生成魔法でお水を作る。魔素を引き寄せて抜けば純水の出来上がりだ。

「マジカ……。完全無詠唱だし、早えし、水の量が多い」

「そりゃ この魔法を考えた本人だもの。それより 聖水がこの量出来たら大変なことになるわよ?」

コソコソと土竜の人たちが話しているけど、実験が楽しくて聞こえない というか聞いてない。
この純水に 聖魔力を入れたらいいんだよね?
自分の中の白い魔力だけを人差し指に集めるようにして、水に色が付くわけじゃないんだけど 魔力視をしながらだと 水にミルクが溶けるみたいにクルクルと渦を巻いて魔力が混ざっていくのが分かる。
あれ?これどれくらい入れたらいいのかな。

「ネリアさん、聖水ってどれくらいの濃さが普通なの?」

「少しでも聖力が入っていれば聖水として販売されるわね。そう考えれば 効果が強いものと弱いものがあったのは籠めた魔力の量が関係してたのね……」

じゃあ 全体に白墨を混ぜたみたいになったから良いかな?
魔力を止めて 鑑定眼鏡で見てみる。

〈上級聖水:聖魔力がふんだんに含まれている。〉

「……うん、出来たみたい」

聖水の上に上級とかついているけど、まあ成功だろう。

「僕も見てみて良い?」

トンガお兄ちゃんも鑑定眼鏡で確認してみたいと 眼鏡片手にウキウキで桶を覗き込む。

「は?上級?」

「ヴィオ、眼鏡借りていいか?」

トンガお兄ちゃんが固まってしまったからか、テリューさんも見てみたいと希望したので眼鏡を貸し出しすれば 同じように固まった。

「ふぅ~~~~。
ヴィオ、これは他の人たちに見せちゃ駄目よ。
聖水を作れることも言わない方が良いわ。
上級聖水なんて 私初めて見たもの。
これ、聖属性魔力をかなり籠めてる事になるわ。多分これを浴びれば アンテッドもイチコロね」

とんだ殺戮兵器を作ってしまったようです。
けど、結構な量があるので ガラス瓶に移し替えて お一人様2本ずつお配りしましょう。
どうぞどうぞ、遠慮なさらず。返品不可ですよ。
皆上級ダンジョンに行く人たちなんだし、時間停止機能ありの鞄でしょう? 何かの時に役立ててくださいませ。

それでも樽の2/3以上残っている。
飲んでも問題なさそうだけど、私の魔力だし 私以外が飲めば魔力酔いするだろう。

「お父さん、首からかけられるくらいの これくらいの樽を作ってもらってもいい?」

良いことを思いついたのでお父さんにお願い。
ポップコーンバケットくらいの樽を作ってもらい それに聖水を移して残りは鞄へ。おたまを片手にいざ!

「ちょっ、ヴィオ……プフフ、それ、どういうこと?」

「聖魔法が上手くいかなかったときに こうやって撒けばいけそうかなって」

おたまに水を汲んで 打ち水のようにバシャっとして見せたら、ネリアさんと お父さん以外の大人たちが大爆笑。
なんで? 
だって 効果があるっていうなら持って行った方が安心じゃない?

「ごめんごめん、だって、プフフ、アンテッドって 冒険者にとっては結構死活問題っていうかさ、できれば会いたくない相手なんだよ?」

ムスリとふくれっ面になった私を ヨシヨシと撫でながら 言い訳するトンガお兄ちゃん、だけどまだ笑ってんじゃんか。
プイっとそっぽ向けば ゴメンと謝ってくれるけど、別に謝ってほしい訳じゃない。

「もういい、今日はもう行かない」

折角作った聖水があれば 安全に倒せるかもしれないし、それが分かればお兄ちゃんたちに樽で持たせておけば安心かと思ったけど、そもそもアンテッドのいるダンジョンに行かなきゃいいだけの話だもんね。
笑われたのが恥ずかしいのと、自分の空回りが恥ずかしいのと、何に怒ってるのか分からなくなってきたら 段々悲しくなってきた。

「……もうねる。ネリアさん今日は行かない、ごめんね」

「ヴィオ……、聖属性の練習はいつでもできるもの、また明日にしましょう。おやすみ」

なんか本当に子供みたいで嫌になるけど、今はちょっと無理だ。
折角教えてくれると言ってくれたネリアさんには謝罪したけど、皆におやすみも言わずにテントに入る。
あ~~~、すごい格好悪い!
こんなん完全に拗ねてるだけじゃん。だけど モヤモヤの気持ちが溢れて涙がポロポロ零れてくる。

グスッ、ズビッ、ヒック……。

お父さんがテントを捲る気配がしたので慌てて毛布をすっぽり被って寝たふりをする。
そっと近づいてきたお父さんがゴロリと隣に寝転がった気配がして 背中を優しくトントンしてくれる。

「ヴィオは色々考えられて凄いなぁ。
あの方法がもし成功すれば 聖属性持ちがいるパーティーだと かなり安全にアンテッドのダンジョンも入れるかもしれん。
その分休憩は多く取る必要があるとは思うが ええと思うぞ。
ちょっと今夜大人たちで実験をしてみようと思ってな、今 ネリアが頑張って聖水を作っておるぞ。
明日実験の結果がどうじゃったか 楽しみにしておればええ。
あいつらも笑ったことは反省しとるが ヴィオが傷ついたんなら許さんでもええ。
驚いたのと 可愛らしいので 笑ってしもうたんじゃろうが あれは儂も叱っておいたからな。
ただ 許してやってもええと思うなら 明日は笑っておはようを言ってやってくれるか?
おやすみを言ってもらえんで かなりショックを受けておったからな。
じゃが今夜のあれは自業自得じゃからな、今日はそのままショックを受けさせとくつもりじゃ。
儂はちょっと見てくるからな、ゆっくり寝ればええ。おやすみヴィオ」

「ズビッ……おやずみなざい」

最後に頭を優しく撫でて お父さんはテントを出て行った。
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