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父娘の寄り道旅
第379話 カトリーナダムの見学
しおりを挟む案内役のお兄さんはドワーフで この建築に携わった内の一人だという。
他の職人たちは あちこちにダムを作るため派遣されたけど お兄さんはこのダムが好きすぎて ここの管理をするために残ったんだって。
ドワーフのスリンズさんによる案内で私たちは町を出てダムに向かう。
貴族の視察は ダムを楽しむのではなく 自領地に取り入れるかという観点での見学だから 放水の時間ではなく 内部見学もできるように別時間に視察をしているんだって。
「この時間は早朝でしょう? 一番人気は昼便なんですよ。この時期だと温かいですからね、放水で起きる水しぶきも気持ちが良いと 予約はいつも満員です」
ダムの放水は 朝の八時、昼の十二時、夕方の十六時、この三回だった。
見学の集合時間は其々一時間前、昼便はスリンズさんが言う通り満員御礼だったので 朝便で予約したんだけど、こんなに少ないとは思ってなかった。
だけど 人目を気にせず楽しめるなら良いよね。
七時集合なんて全然早起きでもないし。
「其方は子供であるのに 随分早起きなのだな。私はまだ少し眠いぞ。
それに女児でもダムに興味があるのか?珍しいのではないか?」
ダムまでの道のり、お父さんと【索敵】しながらルンルン歩いていたら 高貴な平民風のおこちゃまが声をかけてきた。
平民は 其方とか言わないんですよ?
「うん、冒険者だから 早起きは得意なの。あなた達は兄弟二人で来たの?
女児でもっていうけど このダムを作った人も女性でしょ? 素敵なものに興味を持つのは男女関係ないと思うわ」
平民のふりをしているなら こちらも普通に喋っていいんでしょ?
そう思って返答したら 一瞬後ろのメイドさんっぽい人が 気色ばんだ。
ちょっと離れて一緒にいるけど 別グループと思わせようとしているのか、よく分からないね。
「ははっ、それはそうだね。ケストネル女公爵は幼い頃から神童と呼ばれ このダムの建築を機に公爵位を賜ったと聞く。女性でも素晴らしい人はいるって事だね」
この兄弟も 後ろで満足そうに頷いている人たちも、貴族であることを隠す気はあるのだろうか。
お父さんも ちょっと困り顔だけど まあ必要以上に関わらなければいいよね。
そう思ったのに 同年代を見つけたのが嬉しかったのか 弟君が絡んでくるんですよ。
「其方は女児なのに冒険者をしているのか? 父親は確かに強そうだが 其方はひょろりとしておるのに戦えるのか?」
「冒険者とは干し肉を齧って数週間過ごすのであろう? あれはそんなに美味しい物なのか? 私は食べたことがないのだ」
「冒険者とはダンジョンにも行くのだろう? 其方はダンジョンに行ったことがあるか?魔獣とも戦ったことがあるのか?」
お兄さんも興味があるのか 弟君の暴走を軽く窘めてくれるんだけど 軽いから聞きやしない。
「ん~、冒険者を知らないのに兄弟二人でこんなところに来るなんて 貴族様みたいだね」
思わず面倒過ぎてポロリとそんな事を呟けば、あからさまに動揺し始めた弟君。
「お、な、そん、わた、俺が貴族だなど、そんなわけないぞ。
ほら、どう見ても平民だろ?
ぼ、冒険者の事を知らないのは ちちう、父さんが まだ早いって言うからだぞ」
動揺が過ぎるのではなかろうか。
もしかしたらお忍びがバレたら終了とかなのかな?
洋服を引っ張りながら「平民だろ?」と平民は言いません。
お付きの人たちも ちょっと動揺しているけど 助けに入れば仲間だとバレるのが困るのか 何やらメモを書いてお兄さんに手渡している。
「我々は 別の町から来た商人なんだ。商人として色々な町の勉強をしているところでね、冒険者を護衛に雇うことはあるけど 私たちが登録するのは学園に行ってからとなるんだ。
それで 弟は色々興味があるんだ、君は弟と同じ年くらいだろう?
同年代の者と接する事はあまりないので 弟は少し興奮しているようだ、迷惑なようだったらすまないね」
「兄上?商人って……むぐ!」
ああ、そういう設定にしたんですね?
びっくりしてポカンとした弟君が 尋ねようとしたところで お兄さんに口を塞がれていますけど、まあそういう事にしておきましょう。
「商人さんだったら 色んな知識を持っていれば 会話のきっかけにもなっていいですもんね。
お二人の貴族様っポイ雰囲気も きっと大きなお店のご子息だからなんですね」
そう言ってみたら 満足げに笑うお兄さんと そんな兄をキラキラした目で見つめる弟がいた。可愛いかよ。
お兄さんはジェイド君 11歳、弟はジャック君 8歳だそうで、私より年上だったことに驚いた。
「私はヴィオ 6……、あれ? お父さん年越ししたから もう7歳?」
「そうじゃな、ギルドカードはこないだ書き換えされたはずじゃが 変わっとらんか?」
そう言われてカードを見れば 確かに7歳になっていた。
「冒険者のヴィオ、7歳だよ」
カードを鞄に入れてから 改めて自己紹介をしたんだけど、二人の兄弟が固まってます。
「な、なな……、とし、した?」
「ジャックより年下だとは思わなかったけど、そうか 獣人は成長が早いというものね。
ジャック、お前も同年代の中では大きな方だから大丈夫だ、種族の違いは多少あるのは仕方がない。悔しかったら好き嫌いを止めて なんでもしっかり食べるようにすればいいさ」
あ~、これはくまさん帽を絶対脱げないように気を付けないとですね。
男児のプライドがズタズタになりそうですよ。
ジェイド君に慰められたジャック君は 私とお父さんを見比べて 何かに納得したらしく「好き嫌いはやめる」と宣言してました。
後ろのメイドさんらしき人が ガッツポーズをしていたのは見なかったことにしておきます。
「さあ 坊ちゃんに お嬢ちゃん、ここが放水場所の真上ですよ。この柵にしっかり捕まっておいてください。絶対に身を乗り出さないようにお願いしますよ。
保護者の方は 出来れば腰の辺りを押さえておいてあげてください」
ドワーフのスリンズさんの案内で ダムの上を歩いていたんだけど、あまりにも広い道だし、安全の為に 大人の胸くらいの高さの壁があったから 私たち子供は外の様子が見えなかった。
だからダムの上にいる感じは全くしなかったし、退屈になったジャック君に絡まれていたのだ。
だけど スリンズさんに指定された場所は 壁が等間隔にくりぬかれており、柵が設置されていて下を覗くことができる。
ここまでなにも見えなかったところからの 急斜面と下に流れる川の景色。
これは凄い!
三人とも大興奮で 空いてる柵に掴まった。
私の後ろにはお父さんが、二人の後ろには護衛騎士っぽい人が其々ついて 柵に体重をかけ過ぎないように支えてくれている。
二人は気付いていないのか、設定を忘れたのか 「水はいつ流れるのか」とワクワク全開である。
「では そろそろお時間ですよ。鐘の音が鳴ったら放水です」
カラ~ン カラ~ン
ザッパ~~~~~~~ン‼‼‼‼
町の方から小さく鐘の音が響いたと思えば それをかき消すほどの音量で 水が壁から噴き出した!
壁が壊れるんじゃないかと思うほどの勢いで ブシャ~~~と出る水は大迫力すぎる。
「「おぉぉぉぉ!」」
「水、お父さん、水が凄いよ!ブシャーってドワーってなってる」
「おぉ、これは凄いな」
「兄上、水が来ますよ!」
「これは凄いな。父上はこちら側には来ないと仰っていたが 体験された方がいい。これは凄い!」
風で巻き上げられた水しぶきが 私たちにも降り注ぎ、それがまた気持ちが良い。
「お父さん見て! 虹がかかってる」
「わぁ!妖精の橋だ! 兄上、妖精の橋ができてます!」
子供三人は虹に大興奮。
そういえばドゥーア先生も妖精の橋って言ってたよね。久しぶりに聞いたけど 中々メルヘンで良いのではないでしょうか。
五分ほどで放水は終わり、私たちの見学も終了となった。
「ヴィオ、ちょっと濡れすぎたな【ドライ】」
細かい霧状の水しぶきで しっとり全身が濡れていました。
お父さんの乾燥魔法を見て メイドさんたちが 二人に【ドライ】をしてあげてるけど もう隠さないんですね。
「凄かったな!ヴィオ 其方は この町を出たらどこに行くのだ?」
興奮冷めやらぬジャック君は 帰り道もお喋りしてくれるようです。もう周囲の大人も 止めることも気色ばむ事も無いようなので 普通で良いですかね。
「う~ん、ここのダムを見に来るのが目的だったから 特に決まってないけど、あとは寄り道しながら村に帰るだけかな」
「ヴィオはどこの村出身なんだい?」
「サマニア村だよ」
「「「サマニア村‼」」」
どうりでなんて声が聞こえるけど ここではそんな事を言われるような事何もしてないけどな。
二人はサマニア村を知らなかったので プレーサマ辺境伯領地の北西部だよと伝えたら 驚かれた。
「あそこは竜が出るのだろう?」
「えぇっ、出ないよ!? 出てもヒュージボアくらいだよ。
竜はね、お山の上の方にいるらしいんだけど、私はお父さんと二人で金ランクになって 大陸のダンジョン全部回って、それから竜に会いに行くのが夢なの」
「ヴィオ、其方 竜に会いに行くのか!?」
男の子はやっぱり竜が好きですか?
キラッキラの目になってますが、ジェイド君も少し気になっているご様子ですね。
「会えるかどうかは分からないんだけどね、でも会えるように強くなりたいの。ね、お父さん」
「ああ、そうじゃな。色んなダンジョンで経験を積んで、会いに行けるように頑張ろうな」
「すっげぇ~」
どうやら 何かしらの尊敬を勝ち取ったようです。
30分ほどで町に戻り 私たちは このまま出発すると告げれば 少し寂しそうな顔をされたけど、君たちお貴族様でしょう?普通は平民と慣れ合うとか無いですからね?
「ヴィオが金ランクになるようだったら 余裕で魔導学園に入学できるだろう。
私は学年が離れることになるが ジャックは一学年しか変わらない。その時には 是非また会おう」
「そっか、そうだな。学園はダンジョンに行くこともあるんだぞ。その時は一緒に組んでやってもいいぞ」
別れ際にそんな事を言われたけど、私が学園に行くことはない。
既に見学は楽しんだし、習うべきことは習ったから。
でも その時はよろしくお願いします。と社交辞令だけ告げて 手を振って別れた。
お貴族様だけど、平民のふりは全然できてなかったけど、いい子達だった。
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