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閑話
〈閑話〉サマニアンズ 4
しおりを挟む〔サマニアンズ〕トンガ視点
「オトマン結界を」
ギルマスの声で防音結界が張られたところで、フードの男がマントを脱いだ。
「ふ~、ギルマス 久しぶりだ。それにテリュー、アン、レス、シエナ、オトマン、ネリア、俺の依頼を受けてくれてありがとう」
灰白色の髪は短く切り揃えられており、思っていたよりも若い男が顔を出した。再会を喜ぶ男はテリューたち男性陣と抱き合い、喜びを分かち合っている。
そして顔を上げた男が僕たちの姿を捉え、クシャリと泣き笑いのような表情になった。ああ、本当にこの男がヴィオの父親なんだなとストンと納得できた。
「俺の、アイリスの……」
『俺の娘』と言えないのは、自分にそんな資格がないと思っているからなのだろうか。
確かにヴィオの中では知らない人扱いになっていたけど、きっと会えば違うと思う。父さんのことが大好きなヴィオだけど、この人の話を聞いて、自分の本当の父親がいるという事を知って、驚いてはいたけど嫌がってはいなかった。
ヴィオは賢い子だから、喜んでしまえば父さんが悩むと思って態度に出さないようにしていたんだと思う。だって、ヴィオの事を愛しているからとテリューたちが言った時、嬉しそうだったんだから。
「ヴィオは今、うちの親父と一緒に金ランク冒険者になりたいって、大陸中のダンジョンに入ってからドラゴンに会いに行くんだって、滅茶苦茶鍛えまくってますよ。
もうすぐ村に戻る筈ですが、戻れば銀ランクになります。10歳には金ランクになるからって、メネクセス王国のダンジョンに来るつもりですよ」
そう伝えれば、ヴィオとお揃いの優しい薄紫色の瞳からボロボロと大粒の涙を流しながらありがとうと礼を言われた。
ヴィオ、ヴィオの親父さんは本当に忘れてなんかいなかったぞ。
フィルさんの状態が落ち着いたところで改めて自己紹介をした僕たちは、ヴィオが拾われてから父さんと過ごしてきた日々について説明した。
ヴィオ自身が結構覚えてくれていた事で、何があったのか、空白の期間の事も伝えられたのは良かったと思う。
「そうか、王妃がそのような行動に出たのは完全に俺の失言が原因だな。俺のせいでアイリスが殺されて、ヴィオがそんな大変な目に遭ったんだな……」
絞り出すような声に、誰も何も言えなかった。誰だって急に家族と離されて結婚しろなんて言われたら、しかもそれが期間限定だというのなら、言ってしまっても仕方がなかったのではないだろうか。
「まあけど、眼鏡がヴィオたちに護衛を付けてなかったのは事実だし、せめて国を出る時に〔土竜の盾〕に護衛依頼を出していれば安全に国を移動出来ただろ?
そうさせないような言い方をしたのは眼鏡のせいだし、その後の依頼の出し方のせいでヴィオの母ちゃんは隠れるように移動するしかなかっただろ? それが無かったらリズモーニに移動した可能性の方が高かったんじゃねえの? 王様はさ、その眼鏡と王妃とその実家だっけ、どうするつもりなんだ?」
「ルンガ……」
我が弟ながら思ったことを真っすぐに聞き過ぎじゃないか? 一応この国で一番偉い人なんだぞ?
「ははっ、まあ国王なんてやりたくてやってるわけじゃないからな、この場ではただの銀ランク冒険者のフィルでいいさ。
そうだな、宰相に関しては、やってもらわなければならない仕事が多くあるし、次期国王になるシュクラーンの為にはいてもらわないと困るからな。
あいつは貴族としての仕事は出来るんだ。ただ、アイリスとヴィオが俺にとってどれだけ大切で、かけがえのない相手だったのかを理解してなかっただけで……」
そうか、既にこの人の中では眼鏡に対しての線引きは行われているんだな。
王妃に関しては 既に隔離済み、実家の侯爵家の影が出入りしていたことは確認済みだけど、既に本人への見切りをつけたのか、侍女の補充もなし、影もこの数か月出入りしなくなっているとの事だった。
「物的証拠は無くて尋問までは出来なかったが、今回のこの手紙と偽造カードは非常にありがたい。これで侯爵家にも聞き取り調査をさせてもらう。ヴィオに手出しをすることがどれだけ愚かな事か、理解させておくさ」
優し気な眼差しのフィルさんだったけど、その雰囲気が一変してブルリと寒気を感じるほどの殺気を纏わせる。それは本当に一瞬で消えたけれど、この人の感情コントロールが並外れている事を示している。
そうか、そうだよな。本当だったら自分の足で探しに行きたいし、自分の目で見て、自分の腕で抱きしめたいよな。
「クルト、あれ、フィルさんに渡してあげれば?」
「素人の描いた絵だぞ?」
クルトに声をかければ 直ぐに気付いたようだけど、フィルさんには必要だと思う。
不思議そうな顔で首を傾げる様はまさにヴィオとそっくりで、一緒に過ごした記憶が無くても、親子で似る不思議を感じた。
クルトがマジックバッグから取り出したのは一冊のノート。
僕とルンガがお願いして、ヴィオを描いてもらったノートだ。父さんと2人の絵もあるし、ドゥーア先生達と一緒にいる絵もある。途中の港町で色鉛筆を買ってからは、色付きになって益々可愛いヴィオで溢れている。
「クルトが描いたヴィオです。 僕たちが言うのもなんですが、まさに今のヴィオですよ」
「いいのか?」
クルトと僕が頷いたことで、フィルさんは震える手で受け取ったノートの表紙を撫でた。それはまるで小さなヴィオを撫でているようで、僕たちの胸が少し苦しくなった。
最初の頁は肉串を口いっぱいに頬張るところ
出会ったばかりのまだ小さかったヴィオが森の散策をしているところ
クルトの姪っ子を抱っこしているところ
同級生たちと戦って勝った時に飛び跳ねて喜んでいるところ
父さんに髪を乾かしてもらっているところ
冒険者装備に着替えて僕たちに自慢気に見せてくれたところ
ボアを吊り下げて嬉々として解体しようとしているところ
大きな抱き枕を抱えてスヤスヤ眠っているところ
美味しい料理が完成した時の嬉しそうに喜んでいるところ
〔土竜の盾〕の皆と一緒に桶の聖水を撒いているところ
ドゥーア先生のところで 難しい勉強をしているところ
貴族のお姫様みたいなドレスでおめかししたところ
クルトの絵が上手いから、僕とルンガでどんどんリクエストしていったから増えた絵。食べている絵が一番多いんだけど、食いしん坊だと言われることを恥ずかしがっていたヴィオだから、フィルさんに渡す用には食べている絵は少なめにしたんだよね。
だけどフィルさんは、ノートを大切に、ゆっくりとめくりながら、愛おしそうに見つめている。
「おお、俺らが知ってる今より小っせえな。こん時からヒュージボア狩ってたんだろ? やっべえな」
「おおっ、これがヴィオなのか? 熊耳が……、ああ帽子なのか。うまい事作ってるなぁ。こっちなんかはアイリスを小さくしたまんまだな」
フィルさんの後ろから覗き込むギルマスたちの声も聞こえていないのか、静かに涙を流しながら、だけど雫で汚さないように気を付けながら、ノートをめくっている。
最後の頁まで確認したフィルさんは、もう一度ノートを優しく撫でてから僕たちに向き直った。
「クルト君、トンガ君、ルンガ君、本当にありがとう。
ヴァイオレット、いや、ヴィオがこんなに大きく育っている事を知れて本当に嬉しい、ありがとう。
そして素性も分からない娘を拾って育ててくれたアルク殿には何と礼を言っていいのか分からないが、王位を譲渡した時には俺自身の足で感謝を伝えに伺いたい。ヴィオが、元気に、元気に育ってくれていて……ほんとうに良かった」
不安だったんだろうな……。
僕たちだって、父さんと一緒にいる今、何を心配することがあるんだって思うけど、それでもあの付きまとい犯が側にいるかもしれないと思ったら不安になる。
この人は奥さんが死んだと聞かされて、その場所が全然知らない遠くの国で、理由も生存も分からない状態だったんだ。どれだけ心配で駆けだしたかったんだろうか。愛娘はまだ5歳、そんな状態でどうやって生きているんだろうって不安で押しつぶされそうになっていたんだろう。
ヴィオ、想像してた以上に、親父さんはヴィオの事を愛していたぞ。
※ごめんなさい!!! 投稿ミスでおかしなことになっておりました!!!!
教えてくれた皆様ありがとうございます!
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