クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀

文字の大きさ
22 / 24

第二十二話 魅力

しおりを挟む
 とりあえず、押し倒す。バスローブを羽織り、魔法で髪を乾かしながら悶々と考えます。

 そのとりあえずに至るまでが未知なのです。そもそも、おにいさまが僕のどういうところを性的魅力として捉えていらっしゃるのかも分かりません。

 逆に、考えてみましょう。僕が、具体的におにいさまのどういうところを見たらドキドキするのか。

 まずは……手、でしょうか。おにいさまの手は、僕の苦痛をあっという間に消し去ってくださる、奇跡の象徴。

 凛々しく骨ばっていて、僕の顔を覆ってしまうほど大きく、たゆまぬ鍛錬の証である剣ダコが膨らんでいて、その感触を味わうだけで脳の奥がとろけるような心地になります。無骨さと優美さという、相反する要素を同時に成立させる、絶妙に魅惑的な手なのです。

 そして、次には、鍛え上げられ、どこまでも無駄をそぎ落としたその肢体。均整の取れた筋骨は惚れ惚れするほどに仕上がり切っていて、おにいさまの生命力がその皮膚の下に躍動しているものと思うと、想像しただけでうっとりしてしまいます。

 とどめには、我が国の老若男女問わず虜にしてしまうほどの、涼やかな色気に溢れた怜悧な美貌です。おにいさまのご尊顔には、見るものを圧倒させる迫力があり、一度目にしたら、鮮明に脳裏に焼き付いて、簡単には離れません。

 一言で述べるならば、圧倒的。誰がどう見ても、多少なりとも差はあれ、魅力を感じずにはいられない――そんな強制力こそが、おにいさまの魅力なのです。

 考えれば考えるほどわからなくなってきました。だって、僕が魅力的だと思うおにいさまの特徴は、実に普遍的です。言ってしまえば、ありきたりなのです。だからこそ、おにいさまは万人から支持を受ける、文句のつけようもない美男なのでしょう。

 そんなありきたりで、分かりやすい魅力が、僕にありましょうか。答えは否です。

「直接、聞いてみるしか、ないか……」

 自分の美徳として思いつくものとしては、根気強さと、おにいさまのためなら何でもできるという自負だけです。人よりも時間はかかるかもしれませんが、確実にモノにしてみせるという覚悟なら人一倍です。

 髪を乾かし終え、おにいさまに浴室を譲ります。部屋に一人待機というところ、僕はひとまずトイレに入り、初夜におにいさまが使った洗浄の魔法を再現しようと試みました。

 魔力の流れはある程度覚えています。他人に使うよりも、自分に使う方がまだ容易いはず。

「……っ、は、ぅ」

 想定通り、案外簡単に魔法は発動しました。しかし、おにいさまに使って頂いた時は、おにいさまが僕の気を逸らすように僕の身体を触ってくださっていたことを思い出し、若干の後悔が押し寄せます。

 ひとりでこの感覚に耐えるというのも、それはそれで恥がわしくてたまりません。せっかく入浴したばかりなのに、冷や汗がドッと吹き出しました。

 喉の奥をクツクツと震わせ、しばらくの間、蹲って耐え忍びました。魔法の効果がおさまり、ほうぼうの体でトイレから出れば、時間にして五分程が経っていました。

 今しがたかいてしまった汗をササッとタオルで拭きとり、愛用のボディミストを空中に噴霧し、くぐります。そして、落ち着かない気分で、ベッドに腰掛け、おにいさまの入浴が終わるのをジッと待機しました。

 そう間もなくして、おにいさまは浴室から出ていらっしゃいました。リラックスしておいでか、いつもよりもどこかあどけない雰囲気を纏って、滴るような色気を振り撒いていらっしゃいます。

 たちまち、鼓動が高鳴ります。僕は生唾を飲みながら覚悟を決めて立ち上がり、おにいさまの前に立ちはだかりました。

「リエル? すまない、何か不手際があっただろうか」

「っ、あの、おにいさま……」

「は……」

 気恥ずかしさから、どうしてもおにいさまから目を逸らしたくなって、少しばかり俯きつつ、羽織っていたバスローブを床に落としました。

 入浴を済ませてからは、下着もつけていません。バスローブの下は、一糸まとわぬ裸一貫。僕からしたら、取り柄など何もないように思える、この身体から、おにいさまが何か見出してくださるのかどうか。

「え、ぁ、リエ、ル……っ?」

「忘れられなくて……おにいさまと、その、繋がって、たくさん、愛していただいた時間が」

「ヒュ……」

「僕たち、ゆくゆくは、夫婦? に、なるのですよね? だから、不道徳には、当たらないと、思うのですが……王都に帰ったら、そういう時間を取るのも、難しくなるのではないかと、切なくなってしまって」

「まっ、待って、リエル……」

「……それとも、あのように愛していただけるのは、あの夜限りだったのでしょうか。おにいさまは、僕の身体の、どこが良いとお思いになって、僕を抱いてくださったのでしょう……僕、おにいさまに、その気になっていただけるよう、精進いたします。どうか、教えて頂けませんか……?」

 おにいさまは、みるみる、顔色から血の気が引いていっておられました。やっぱり、あの夜は、たまたま幸運に恵まれただけだったのかと、冷たい落胆が広がっていきます。

 僕みたいな貧相な男の身体に食指を動かせという方が酷な話だったのでしょう。ならば、せめて、後ろの穴の具合を良くして、おにいさまの性処理くらいは出来るように、色々と頑張ってみるしかありませんね。

 そうすれば、とりあえず押し倒すというユリウスさまのアドバイスを活かせるかもしれません。いい考えのような気がしてきました。こういった根気のいる努力は得意ですから。

「もうしわけありません、おにいさま……僕、ひどく思い上がっていました。僕なんかの身体に性的魅力があるなんて、勘違いも甚だしい話でした。でも、僕――せめて、この身体で、おにいさまにご奉仕できるようになります。たくさん、練習します。成婚までに、おにいさまにご満足いただけるようになってみせますから……!」

 だから、もし、気が向いた時は、おにいさまの発散に、僕の身体を使ってもらえたら、嬉しい。おにいさまはスッキリして、僕は満たされる。なんということか、一石二鳥です。

 今一度、僕は顔を上げて、おにいさまの顔を真っ直ぐと見つめました。すると、おにいさまはガシリと僕の肩を掴み、そぎ落としたような無表情で、キッと見つめ返してくださいます。

「練習とは、どうやって」

「へ……?」

「俺に奉仕する練習を、誰と、どうやってするおつもりか」

「え、と……それは、その」

 口走ってから何ですが、言われてみれば、どうやって練習すればいいのでしょう。知識のない僕が一人でやみくもに自分の身体をどうこうしても仕方のない話です。

 またもや恥を忍んでユリウスさまに聞いてみましょうか。それとも、高級娼館からプロを呼んで手ほどきをしていただくか……それくらいしか思いつきません。

「俺を練習台にしてくれ」

「はぇ……?」

「どうすれば俺が満足するのかを一番知っているのは俺だ。そうだろう」

「あぁ、確かに……! あ、いや、でも」

「頼む、練習台になりたいんだ。あなたの全てを味わいたい。片時も、他の誰かに譲ってたまるものか」

 なんだか、本末転倒なようにも、結局最初の目的は果たせているので、回り回って首尾一貫なようにも思えて、おかしな気持ちです。チグハグですが、どうあれおにいさまのお言葉は、僕のちんけな煩悶をあっという間に薙ぎ払ってしまうのでした。

「それじゃあ……おにいさま、今から、練習台になってくださいませんか? 僕のこと、誰よりも、おにいさまに満足していただける身体にしてください……♡」

「……すまない、やっぱり今すぐ逃げてくれ。あなたの全てが俺には刺激的すぎる。これでは練習台どころか、あなたを抱き潰してしまう……っ」

「……! え、えと。その、喜んで……♡」

 ブチッと、何かが勢いよく引きちぎれるような音がしました。そして、たちまち、天地がひっくり返り、僕は押し付けられるようにして、ベッドに押し倒されていたのでした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...