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Side カイル
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膝をつき、深く頭を垂れた貴族たちに向かって、俺は淡々と述べた。
「忠誠を誓ってくれているところ悪いが、俺はこの国の王になるために来たわけじゃない」
え、と貴族たちが驚きのあまり顔を上げる。
「さっきも言ったが、俺は悪政により歪んでしまったこの国の有り様を、本来あるべき正しい姿に戻す手助けをしたいと思っている。だが、それだけだ。仇討ちは望むものの、王位を得たいと思っているわけじゃない。取り合えず、皆立って席についてくれ」
「お待ち下さい」
国王の最も近くに座っていた初老の男が声を上げた。
「わたしは宰相を務めております、前バルロセナ公爵ハンフリーと申す者です。伺いたい。なぜ王位を望まないのですか。あなたにはその資格がある。お血筋も正統なるものですし、なにより聖獣様のご契約者でもある。あなた様以上に、この国の次期国王に相応しい者は存在しないでしょう」
「宰相、か。お前には今後しばらく、なにかと苦労を掛けることになると思うがよろしく頼む」
宰相が恭しく頭を下げる。
俺は小さく頷くと話を続けた。
「質問を受けた次期王位についてだが、そのことについても今から話そうと思う。取り合えず、全員席についてくれ」
宰相を含めた貴族たち全員が一礼した後、元の席に着いた。俺は彼らを見回しながら言った。
「俺が望むのは、即座に戦争をやめて内政に全力を注ぐこと。大まかにはそれだけだ。そのために邪魔になるならば、俺の手で今すぐ国王と王太子を殺すことはやぶさかではない。生かしておいた方が利用価値があるのなら、このまま生かしておくが……俺としては、これほど悪評の高い王はさっさと切り捨て、正しい考えができる新しい王に立って欲しい。できるだけ国民が混乱しない形でな」
そのためにも、国民が抵抗なく受け入れられる人間として、国王代理の席には第二王子に座って欲しいと俺は伝えた。正式に王位を誰が継ぐのかを決定するのは、もう少し国が落ち着いてから決めればいい。急ぐ必要はどこにもないのだから。
他にも、俺はロルフと二人で考えて決めたことを彼らに伝えた。
現国王の悪政の中、率先してその政策に参加した者もいれば、命惜しさに嫌々参加させられた者もいるだろう。しかし、結果的には全員が国王を窘めることができず、その悪政に力を貸してきたことには違いがない。
よって全員を同罪とし、ヴァルトーシュにおける全高位貴族は、その爵位を一段階下げるものとする。これから先、国を良くするための努力を惜しまず、その結果を出した者は、すぐに陞爵して元の爵位に戻すことを約束する。
努力とその結果は、妖精たちが領地に戻ってきたかどうかで判断する。
妖精たちが戻るためには、その土地に住む者たちが、どれだけ幸せを感じ、どれだけ笑顔でいるかに由来することが多いという。それをふまえて、各貴族たちには自分たちの領地の改変を真剣に行って欲しい。
低位貴族については、爵位はそのままとする。しかし、一定の期間が過ぎても領地に妖精が戻る気配が見られない場合、爵位を一つ下げることとする。男爵は当然、領地を治める才がないと判断し、平民に落ちてもらうことになる。
「勿論、散々努力した上で結果に結びつかない場合もある。そういう時は相談してきて欲しい。一緒に領地が良くなる方法を考えたい。周辺の貴族同士も協力し合って欲しい。今後少なくとも五年間は、この国の貴族はお互いを蹴落とす敵同士のような関係ではなく、俺に国を滅ぼされないよう協力し合う仲間だと認識を変えてくれ」
「今のご命令に対し、反論する権利が我々にございますか?」
宰相に問われ、俺は笑いながら首を振った。
「いや、ないな。滅ぼされるか、俺の希望に従うかの二つに一つだ。ただし、意見はなんでも一応は聞く。助言も大歓迎だ」
他の貴族からも質問が上がる。
「爵位を降格され、妖精が戻ることで陞爵していただく件ですが、期限はあるのでしょうか」
「さっきも言ったが、五年を考えている。それ以上はもう待てないし、五年経っても少しも改善が見られないとなると、その地の領主はやる気がないか、あるいは為政者として不適格かのどちらかだと言わざるを得ないからな」
「し、しかし、褒美がなくなってしまうと増々やる気が無くなり、その後の領地改善が進まなくなるのでは……?」
五年後、俺はシャルロタ王国の侯爵家の領地から、このヴァルトーシュの地へとレオを連れて来るつもりでいる。その日のために、ここを安心して俺たちが暮らせる良い国にしておきたいというのが本音だ。
精霊の愛し子たるレオが定住を決めれば、それだけでこの地は妖精の溢れる地になることは分かっている。だからこそその前に、ヴァルトーシュの貴族たちの本気を俺は見ておきたかった。
もしも彼らが国を良くするための努力をしようとはせず、私利私欲を得ることばかりを考える愚か者の集団ならば、俺はレオをこの地に連れてくることはしない。そんな国は、本当に滅ぼしてしまうのもいいかもしれない。
逆に、彼らが誠心誠意努力を重ね、国のため、領地領民のために努力を惜しまない姿勢を見せるならば、俺がなにも言わなくても、レオならばきっと自分からこの国のためになにかしたいと言ってくれるはずだ。
やる気のない奴はそれで構わない。そういう奴を助けるつもりはない。
いずれレオが来さえすれば妖精は戻る。
そうなると、やる気のある領主の治める土地には更に妖精が増え、逆にやる気のない領主の治める土地からは妖精が消え去る速度が増すだろう。妖精がいなくなった土地は更に寂れ、財政難が続いて借金がかさみ、結局は家を潰すことになるに違いない。
すべては自業自得、因果応報なのだと俺は思う。
そんなことを思いながら、俺は質問してきた貴族に簡潔に答えた。
「やる気のない奴のことなど俺は知らない。ただ、お前たちに教えておく。俺には今、この世で誰よりも愛している人がいる。その人は精霊王の加護を付与された精霊の愛し子だ」
これまでで一番大きな驚きの声が室内に響いた。
「精霊の愛し子様が?!」
「そんな話は上がってきておらんぞ」
「一体どこの国にいらっしゃるのだ?!」
「信じられん。精霊王様がお姿を現したのか」
「何百年振りのことだ!!」
彼らが驚くのも無理はない。この世界に精霊の愛し子が現れたのは数百年振りのことらしいからな。そして、精霊王の加護を持つ愛し子の能力の有用性は、この世界では計り知れない。
だからこそ、己の国に愛し子が現れたら、その国の王は何をもってしても愛し子を囲い込もうとする。過去には城内に死ぬまで監禁しようとする王もいたそうだ。勿論、そんなことをすると精霊王の逆鱗に触れるので、その王の治める国は早々に滅びることとなる。雨が降らず日照りが続き、農作物は枯れ果てる。更に疫病は流行り、その土地は死の臭い蔓延る不毛の大地となるそうだ。
そして、長い歴史の中、数々の失敗から人類は学んだ。
精霊の愛し子がこの世に現れたら、本人にそうとは気付かれないくらい好待遇で軟禁すること。あるいは、愛し子には余計な手を出さず、ただただ跪き、慈悲を乞い、良い関係を築くことでその地に留まってくれるよう願う。
一方、精霊王から幸運にも加護を付与された大抵の人間は、その喜びに精霊王に会えたことを周囲の人間に吹聴し、自慢することにより、その存在はすぐにその地を治める領主の耳に入る。そうなると、必ずどこかから情報は洩れ、国王の耳にまで入るのだ。
王城に届いた愛し子の情報は、城内にて暗躍する各国の間諜の知るところとなり、瞬く間に情報は世界各国に広がることになる。
そのような話をロルフから聞いていた俺は、レオに精霊王に会ったことを人に話すことを禁じた。レオは俺の頼みはなんだって聞いてくれる。だから、レオが精霊王の加護を付与され、その愛し子になったという情報は、未だどこにも漏れていない。
「俺が聖獣と契約し、愛し子が精霊王の加護を得てから、既に三年が過ぎている」
「三年も?!」
「よくここまで誰にも知られずに……」
「俺がこれまでずっと、このロルフと二人で守ってきた。そもそも、俺が聖獣の契約者となったのは、愛し子を守るためだ。愛し子をありとあらゆる災厄から守るため、精霊王の計らいで俺はロルフの契約者になった。さっき俺は言ったな、もうこの国には後がない。皆で必死に立て直すか、あるいは滅ぶしかないと」
全員が真摯に頷く中、俺は話を続けた。
「皆が頑張って国を立て直した場合、俺はこの地に精霊の愛し子を連れてきて永住するつもりでいる。俺はこの国の立て直しをお前たちに命じたが、真の目的は愛し子が安心して暮らせる地を作ることにある。お前たちにとっても、これは最高の褒美になるのではないか。五年間、死に物狂いで頑張れば、その後の繁栄が約束されているようなものなのだから」
『他領の領主を蹴落とす暇があれば、助けてやるがよい。この地に住まう者たちに安寧を与え、笑顔を取り戻し、妖精たちを呼び戻せ。さすればおぬしら自身、この先の人生を安けく過ごせよう』
「聖獣の契約者と精霊の愛し子の存在については他言無用だ。家族にも、最も信頼している従者たちにさえ話すことを禁ずる。今日、この場に顔を出していない各領の領主たちにも、この話はしっかりと伝えておくように」
宰相に目を向けると、神妙な面持ちで頷いた。
「俺たちの存在が外に漏れた場合、問答無用でこの国は滅ぼさせてもらう。お前たちが五年間碌な努力をしなかった場合もそうだが、その時は俺と愛し子はこの国を見捨てることになるだろう。あるいは、ここを滅ぼして、真っ新な状態に戻した上で、俺がこの地にあの子のための優しい国を作るよ」
室内にいたヴァルトーシュ貴族たちの顔つきが変わった。恐らく、今までは俺という人間を観察していたのだろう。聖獣を従え、力を得たことで増長し、父を殺したこの国の人間をいたぶって楽しんでいるだけの残虐な男なのか。それともこの国の未来を本気で憂い、真剣にこの国を正しい政の行われる善き国にしようとする故王弟の息子なのか。はたまた本当の理由が別にあるのか。
精霊の愛し子の話をしたことにより、俺の本意が伝わったのだろう。なぜ俺がこの国の改善を命じるのか。それは精霊の愛し子にとっての安息の地を作るためだと。そして、それが自分たちにとっても、どれほどの恩恵をもたらすことになるのか。そのことが彼らには十二分に理解できたらしい。
その後は順調に話し合いは進んだ。
宰相の案により、国王と王太子は眠らせた状態のまま、暗部の者の手によって、この場で俺たちの目の前で毒殺することにした。
死因は公務に向かう途中の崖から転落死。同じ馬車に乗っていたため、二人は同時に死亡したことにできた。
「事故死であれば、特に国内に混乱はなく王位は次代に引き継がれるでしょう」
宰相の言葉に、他貴族たちが頷いた。
国王や王太子に対し、惜しむ思いや慕う気持ちがないのか尋ねてみた。すると、皆一様に首を横に振った。
自分の命や家門の存続のために従ってきたものの、国王のやり方には皆不満を持っていたらしい。些細なことで国王の怒りを買って殺された者の多くは、ここにいる貴族たちの身内や友人であったらしく、恨む気持ちの方が大きいとのことだった。
しんみりした雰囲気を、宰相が次の議題に変えることで一新させた。
「それでは、次に考えるべきは王位の問題がですが……」
「順当な流れで考えれば、第二王子のエイルレイン殿下になるかと」
「殿下は今、シャルロタに留学中であろう」
「早急に呼び戻さねば」
「カイル様は、やはり王位に就くおつもりはないのですか?」
宰相に問われ、俺は肩を竦めて答えた。
「本音を言えば皆無だ。そもそも、俺が反乱を起こして王の首を取ったならいざ知らず、王が事故死したという状況で、ずっと行方知れずだった王弟の息子が、急に次の王の座につくのはおかしいだろう。ただ、もし俺の恋人がそれを望めば、俺も考えるが……まあ、あの子は望まないだろうな」
「愛し子様は権力には興味のない方なので?」
「全くないな。他国の高位貴族の子弟なんだけど、金や権力にほとんど興味を示さず、ただ俺の幸せのためだけに生きているような、そんな子なんだ」
「大切な……方なのですか?」
「俺の命よりも大切に想ってる」
きっぱりと言い切った俺に、宰相の目が、なにか懐かしいものを見るような色を浮かべた。俺が怪訝そうにすると、宰相は小さく頭を下げた。
「遠い昔、わたしは一時期、あなた様のお父上の教育係を拝命していたことがあります。シャルロタの留学から帰国したお父上が、大切に想う人ができた、とお話し下さった時のことを思い出しました。あの時のお父上と、全く同じ表情をしておられたのでな、つい懐かしく思った次第です。残念なことに、お子ができたことは聞いておりませんでした」
「そうか……」
「あなた様とお父上は、見た目がとても似ていらっしゃる。――――あの時、お父上をお助けできず、申し訳ありませんでした」
心痛な面持ちで、宰相が頭を深く下げた。気にするな、と俺は簡潔に告げた。
俺としては、父のことを話されても「へー、そうだったのか」くらいの気持ちにしかならない。一度も会ったことのない相手だし、母からも特に詳しく話を聞いたことがあるわけでもない。そんな相手に思いを馳せる暇があれば、一秒でもレオのことを考えていたい。
ああ、ほら、ほんの少しレオのことを考えただけで、あの可愛くも美しい姿をほんの少し心に思い浮かべるだけで、こんなにも心に幸せが溢れ出す。この場にいなくても、ただこの世に有ってくれるだけで、レオは俺を幸せにする。幸せにできてしまう。
レオにとって、俺もそういう存在であればいいと心から願わずにはいられない。
そんなことを思っていたせいか、レオに会いたくて会いたくてたまらなくなった。
「くそっ、会いたくなったな。ちょっと戻って、一目だけでも見て来るか」
俺のその呟きを拾った貴族たちが騒ぎ立てた。
「帰る? どうやってですか?」
「聖獣様に騎乗してですか?!」
「え! 転移の魔法で?! それは伝説級の魔法の一つではありませんか!」
「会うというのは、精霊の愛し子様のことですか?」
「わ、わたしたちがお会いするワケにはまいりませんか」
「ほんの少しだけでも……」
期待に満ちたような視線が俺に集まった。
俺は少し考えてみた。
レオをこいつらに会わせる? まだ信用もできないのに? 危険じゃないだろうか。
いやしかし、一度会わせてみた方が、こいつらにも精霊の愛し子の存在が本当だと分かるだろう。そうなると、今後の努力の度合いも違ってくるかもしれない。
危険の有る無しで言えば、ロルフがいる以上、レオを傷つけることができる人間がいようはずもない。
「……分かった。ここに愛し子を連れてきてやる」
「おお!!!」
「ただし、顔は見せない。安全を考えてのことだ。それと、愛し子は眠った状態で連れてくるからな、静かにしろよ」
「わ、分かりました」
「絶対に騒ぎませぬ!!」
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
俺はすぐに転移魔法により、領主館のレオの眠る寝室へと移動した。ベッドの布団の中で、レオはあどけない顔をして安らかに眠っていた。
愛しい。レオの姿を一目見ただけで、俺の体のすべてが歓喜に震えているような気がしてくる。
レオに少し強めのスリープを掛けた。額にキスし、頬にキスし、薄く愛らしい唇にもキスを落とした。それから大切に大切にシーツで全身をフワリと包み込み、両腕でしっかりと抱きあげた。
最後に顔が隠れていることを確認してから、俺はヴァルトーシュ王城の会議室へと転移した。
その瞬間。
空気が変わったのが分かった。
多くの妖精たちが見捨てたヴァルトーシュは、余程空気が淀んでいたのだろう。レオがこの地に現れた瞬間、まるで空気が瞬時に浄化されたかのごとく澄み渡り、清廉な雰囲気に周囲が包まれた。
見ると、少し離れたところからこちらを見ている貴族たちが、両膝を床に付き、涙を流して拝んでいる。感激のあまり、言葉も出ないらしい。
精霊の愛し子とは、それほどこの世界の人間にとって大切で、愛され、崇められるべき存在なのだと、俺も改めて思い知らされた。
俺にとっては、レオは昔から何物にも代えがたい、この世の貴宝のような存在だったからな。特にそれ以上を意識したことがなかった。
愛するレオが皆から崇拝されている様は、俺としてもとても気分のいいものだった。
精霊の愛し子になる以前、レオは長い間、侯爵領の皆から蔑まれてきた。けれど、もうあんな思いは二度とさせるつもりはない。
五年後、この土地に越してきたレオが皆から先入観なくただひたすら愛され、大切にされる様を想像するだけで、俺もとても幸せな気持ちになってくる。
「俺はこの子をいずれこの地に連れてきたい。皆で一緒に幸せになりたい。そうなるよう、皆努力を怠らず、この国の復旧に励んで欲しい!」
貴族たちが頭を深々と下げ、強い決意を滲む瞳を輝かせた姿を確認し、俺は満足して転移の魔法をかけた。
レオの寝室に戻った俺は、レオをそっとベッドに横たわらせた。綺麗に寝かせて、ふわりと布団を体に掛けてやる。
「幸せになろうな、レオ。俺にとって、レオ以上に幸せになるべき人間は他に思いつかないよ」
指の甲で優しくレオの頬を撫でてから、俺はまたヴァルトーシュの城内に戻った。
そこからの貴族たちの奮闘ぶりは、本当に凄まじかった。国に蔓延る様々な問題を、片っ端から次々と解決していく。
膨れ上がった軍の始末のつけ様、周辺国家への賠償問題、疲弊しきった国民たちへの補填、数年間の減税とそれを補う財源について。
即座に解決できることは即決し、文官を交えて時間を掛けて話し合うべきことは、今後の議題として紙に纏めていく。
レオの姿を見る前と後とでは、その働き方は雲泥の差だった。
俺とレオがヴァルトーシュに住むことになった場合、俺たちの立場や住む場所については、少し時間を掛けて検討してもらうことになった。
例えば、俺の王族としての出自を公表すべきかどうかとか、レオの立場を縛らないために平民としておくか、それとも強固な後ろ盾があった方がいいと考えて王家の養子に入れるかなど。
俺としては、住むところは田舎を望む。田舎じゃなくても、領主が没落して荒れ果てたままになっている領地や、王家直轄領で手のいき届いてない寂れた土地など。
レオが住めば、その地はあっと言う間に生き返る。そこで俺とレオ、そして侯爵領の孤児たちや、仲間と認めた人たちと共に移り住み、ゆっくりと楽しみながら発展させていきたい。
働き手として、仕事がなく燻っている貧民街の人間を引き取ってもいい。
レオとの満ち足りた未来を考えるだけで、俺は楽しくてたまらなくなる。間違いなく、俺たちの未来には幸せが溢れていると信じられた。
そんな風に、俺たちは夜になるまで多くの問題について話し合い、解決策を考えたりしていたのだが、その途中、扉の前で眠らされている兵士たちを見つけた城の使用人たちが通報し、賊が入ったと勘違いした近衛騎士たちが扉前で大騒ぎしたのをロルフが風系魔法で吹き飛ばしたという話を聞いたのは、会議がすべて終わってからのことだった。
同様に、城内の情報が外に漏れないよう城全体に結界を張っていたために、何事かが起こったと判断した軍が国王を助けようと城を取り囲み、これまたロルフが重力魔法で地面に縫い付けにしたまま、暴れていた兵士たちの体力がなくなって動けなくなるまで放っておいた、などという話も後になって聞いたことだった。
ロルフが軍にしたことに対する王都民たちへの上手い言い訳は、悪いと思いつつ、面倒だから宰相に一任してしまった。
きっとあの宰相なら上手い言い訳を考えて、丸く収めてくれるだろう。今日一日一緒にいただけで、かなり頭の切れる人間であることが分かったことだしな。
国王の横暴により無秩序に政治が行われていた中で、この国がなんとか立ち行いてきたのは宰相の采配のお陰であるらしい。あの場にいた何人もの貴族が口を揃えて言っていたのだから、間違いないだろう。
そういった面倒事の後始末や国王と王太子の葬儀、国王代理の任命など、それらを宰相をはじめとした貴族たちに任せ、俺は一旦レオの元に戻ることにした。次は十日後、同じ会議室に朝から集まることを約束し、俺は転移魔法でレオの待つ領主館へと帰ったのだった。
人気のなさそうな中庭の茂みの中にひとまず転移し、そこから歩いてレオの寝室に向かった。ドアを開けた俺の姿を認めたレオは、輝かんばかりに嬉しそうな顔をした。両手を広げた俺の胸の中に、走って飛び込んできたレオの可愛さといったら、もう!! 筆舌に尽くしがたい!
「お帰りなさい、カイル。カイルがいなくて、すごく寂しかった」
俺をギュッと抱きしめ、胸に頬をスリスリしてくるレオ。
うー、可愛すぎて、どうしたらいいか分からない!
俺は強くレオを抱きしめた。
「俺だって、レオに会えなくて寂しかったよ」
俺はまだ体力の戻っていないレオを横抱きにし、その可愛らしい顔にキスをしながらベッドへと向かった。キスを嬉しそうに、くすぐったそうに受けながらレオが聞いてくる。
「どこに行ってたの?」
「ちょっとヴァルトーシュ王国まで行ってきた」
「え!」
驚くレオをベッドで裸に剥き、体中にキスをしながら、俺はヴァルトーシュでしてきたことをレオに報告した。
五年後にヴァルトーシュに移住することは、今はまだ内緒にしておく。レオにはこの慣れ親しんだ領地で、しばらくはのんびり俺とイチャイチャしていてもらいたい。
俺の予想では、恐らく三年以内には、侯爵家からレオに縁談の話がくることだろう。どんな相手と結婚させようとするかは分からないが、それを機に、レオには侯爵家との縁を完全に切ってもらうつもりだ。
縁談が理由なら、レオも迷うことなくきっぱりと侯爵家と縁を切り、領地から離れることを決断をしてくれるに違いない。
触ると、まだレオのアナルは少し柔らかかった。俺はベッドの上に座り、膝の上に対面にレオを座らせた。俺の猛ったペニスがずぷずぷとレオのアナルに突き刺さっていく。
「あっ、ん、ああ!」
「愛してるよ、レオ」
「ぼっ、僕も……ああっ!」
レオ自身の重みで、俺のペニスが奥の深いところまで入っていく。体が倒れないよう、レオが俺の首に両腕を回した。俺はレオの唇を吸い、両乳首を指で捏ね回しながら、下から激しくレオの体を突き上げた。
膝の上でレオの体が上下するたび、俺の亀頭がレオの結腸をごりごり削るように刺激する。俺の突き上げる体の動きに合わせて、レオのペニスの先端からはぴゅっぴゅっと薄い精子が飛び出した。
しがみつくように俺に抱き着いているレオの体が、ビクッビクッと快感に震えているのが分かる。
「ん……あ、ああ……ンあっ!!」
「すごいな、レオ。動かすたびに軽くイッてるのか? いやらしいな」
「あっ、変になるっ、頭変になっちゃ……よぉ! ああ」
「いいぞ、いっぱい変になれ。俺がいるから大丈夫だ!」
「あああ、カイル、奥がすごいっ! 奥が熱くて溶けそう、ああっ……んうっ……」
じゅるじゅるっとレオの舌と唾液を吸い上げた。その刺激で、また軽くレオが達してアナルがぎゅっと締まる。
俺は人差指の腹でレオの亀頭の平らな部分を、円を描くように優しく撫でてあげた。
「あっ……そ、それっ、それダメ! あーっ、気持ちいいっ!」
大きく目を瞠り、涙をぼろぼろ流しながら感じるレオはたまらなく淫靡だ。
「レオが感じると俺も気持ちいい。だから、いっぱい感じて、レオ」
「か、感じてるっ、はぁっ、すごく感じてるからっ……感じすぎ、て、頭おかしくなっ……ああっ」
この後、何度も何度もレオをイかせながら、俺はヴァルトーシュでの出来事を話せることだけ抜粋してレオに聞いてもらった。
思った通り、レオは俺が王になることを望んではいなかった。そして、俺とこれからも一緒に暮らしたいと言ってくれた。前世からずっと俺を好きだったとも教えてくれた。
俺は最高に嬉しくて、最高に幸せで、レオの顔中に何度も何度もたくさんキスの雨を降らしたのだった。
「忠誠を誓ってくれているところ悪いが、俺はこの国の王になるために来たわけじゃない」
え、と貴族たちが驚きのあまり顔を上げる。
「さっきも言ったが、俺は悪政により歪んでしまったこの国の有り様を、本来あるべき正しい姿に戻す手助けをしたいと思っている。だが、それだけだ。仇討ちは望むものの、王位を得たいと思っているわけじゃない。取り合えず、皆立って席についてくれ」
「お待ち下さい」
国王の最も近くに座っていた初老の男が声を上げた。
「わたしは宰相を務めております、前バルロセナ公爵ハンフリーと申す者です。伺いたい。なぜ王位を望まないのですか。あなたにはその資格がある。お血筋も正統なるものですし、なにより聖獣様のご契約者でもある。あなた様以上に、この国の次期国王に相応しい者は存在しないでしょう」
「宰相、か。お前には今後しばらく、なにかと苦労を掛けることになると思うがよろしく頼む」
宰相が恭しく頭を下げる。
俺は小さく頷くと話を続けた。
「質問を受けた次期王位についてだが、そのことについても今から話そうと思う。取り合えず、全員席についてくれ」
宰相を含めた貴族たち全員が一礼した後、元の席に着いた。俺は彼らを見回しながら言った。
「俺が望むのは、即座に戦争をやめて内政に全力を注ぐこと。大まかにはそれだけだ。そのために邪魔になるならば、俺の手で今すぐ国王と王太子を殺すことはやぶさかではない。生かしておいた方が利用価値があるのなら、このまま生かしておくが……俺としては、これほど悪評の高い王はさっさと切り捨て、正しい考えができる新しい王に立って欲しい。できるだけ国民が混乱しない形でな」
そのためにも、国民が抵抗なく受け入れられる人間として、国王代理の席には第二王子に座って欲しいと俺は伝えた。正式に王位を誰が継ぐのかを決定するのは、もう少し国が落ち着いてから決めればいい。急ぐ必要はどこにもないのだから。
他にも、俺はロルフと二人で考えて決めたことを彼らに伝えた。
現国王の悪政の中、率先してその政策に参加した者もいれば、命惜しさに嫌々参加させられた者もいるだろう。しかし、結果的には全員が国王を窘めることができず、その悪政に力を貸してきたことには違いがない。
よって全員を同罪とし、ヴァルトーシュにおける全高位貴族は、その爵位を一段階下げるものとする。これから先、国を良くするための努力を惜しまず、その結果を出した者は、すぐに陞爵して元の爵位に戻すことを約束する。
努力とその結果は、妖精たちが領地に戻ってきたかどうかで判断する。
妖精たちが戻るためには、その土地に住む者たちが、どれだけ幸せを感じ、どれだけ笑顔でいるかに由来することが多いという。それをふまえて、各貴族たちには自分たちの領地の改変を真剣に行って欲しい。
低位貴族については、爵位はそのままとする。しかし、一定の期間が過ぎても領地に妖精が戻る気配が見られない場合、爵位を一つ下げることとする。男爵は当然、領地を治める才がないと判断し、平民に落ちてもらうことになる。
「勿論、散々努力した上で結果に結びつかない場合もある。そういう時は相談してきて欲しい。一緒に領地が良くなる方法を考えたい。周辺の貴族同士も協力し合って欲しい。今後少なくとも五年間は、この国の貴族はお互いを蹴落とす敵同士のような関係ではなく、俺に国を滅ぼされないよう協力し合う仲間だと認識を変えてくれ」
「今のご命令に対し、反論する権利が我々にございますか?」
宰相に問われ、俺は笑いながら首を振った。
「いや、ないな。滅ぼされるか、俺の希望に従うかの二つに一つだ。ただし、意見はなんでも一応は聞く。助言も大歓迎だ」
他の貴族からも質問が上がる。
「爵位を降格され、妖精が戻ることで陞爵していただく件ですが、期限はあるのでしょうか」
「さっきも言ったが、五年を考えている。それ以上はもう待てないし、五年経っても少しも改善が見られないとなると、その地の領主はやる気がないか、あるいは為政者として不適格かのどちらかだと言わざるを得ないからな」
「し、しかし、褒美がなくなってしまうと増々やる気が無くなり、その後の領地改善が進まなくなるのでは……?」
五年後、俺はシャルロタ王国の侯爵家の領地から、このヴァルトーシュの地へとレオを連れて来るつもりでいる。その日のために、ここを安心して俺たちが暮らせる良い国にしておきたいというのが本音だ。
精霊の愛し子たるレオが定住を決めれば、それだけでこの地は妖精の溢れる地になることは分かっている。だからこそその前に、ヴァルトーシュの貴族たちの本気を俺は見ておきたかった。
もしも彼らが国を良くするための努力をしようとはせず、私利私欲を得ることばかりを考える愚か者の集団ならば、俺はレオをこの地に連れてくることはしない。そんな国は、本当に滅ぼしてしまうのもいいかもしれない。
逆に、彼らが誠心誠意努力を重ね、国のため、領地領民のために努力を惜しまない姿勢を見せるならば、俺がなにも言わなくても、レオならばきっと自分からこの国のためになにかしたいと言ってくれるはずだ。
やる気のない奴はそれで構わない。そういう奴を助けるつもりはない。
いずれレオが来さえすれば妖精は戻る。
そうなると、やる気のある領主の治める土地には更に妖精が増え、逆にやる気のない領主の治める土地からは妖精が消え去る速度が増すだろう。妖精がいなくなった土地は更に寂れ、財政難が続いて借金がかさみ、結局は家を潰すことになるに違いない。
すべては自業自得、因果応報なのだと俺は思う。
そんなことを思いながら、俺は質問してきた貴族に簡潔に答えた。
「やる気のない奴のことなど俺は知らない。ただ、お前たちに教えておく。俺には今、この世で誰よりも愛している人がいる。その人は精霊王の加護を付与された精霊の愛し子だ」
これまでで一番大きな驚きの声が室内に響いた。
「精霊の愛し子様が?!」
「そんな話は上がってきておらんぞ」
「一体どこの国にいらっしゃるのだ?!」
「信じられん。精霊王様がお姿を現したのか」
「何百年振りのことだ!!」
彼らが驚くのも無理はない。この世界に精霊の愛し子が現れたのは数百年振りのことらしいからな。そして、精霊王の加護を持つ愛し子の能力の有用性は、この世界では計り知れない。
だからこそ、己の国に愛し子が現れたら、その国の王は何をもってしても愛し子を囲い込もうとする。過去には城内に死ぬまで監禁しようとする王もいたそうだ。勿論、そんなことをすると精霊王の逆鱗に触れるので、その王の治める国は早々に滅びることとなる。雨が降らず日照りが続き、農作物は枯れ果てる。更に疫病は流行り、その土地は死の臭い蔓延る不毛の大地となるそうだ。
そして、長い歴史の中、数々の失敗から人類は学んだ。
精霊の愛し子がこの世に現れたら、本人にそうとは気付かれないくらい好待遇で軟禁すること。あるいは、愛し子には余計な手を出さず、ただただ跪き、慈悲を乞い、良い関係を築くことでその地に留まってくれるよう願う。
一方、精霊王から幸運にも加護を付与された大抵の人間は、その喜びに精霊王に会えたことを周囲の人間に吹聴し、自慢することにより、その存在はすぐにその地を治める領主の耳に入る。そうなると、必ずどこかから情報は洩れ、国王の耳にまで入るのだ。
王城に届いた愛し子の情報は、城内にて暗躍する各国の間諜の知るところとなり、瞬く間に情報は世界各国に広がることになる。
そのような話をロルフから聞いていた俺は、レオに精霊王に会ったことを人に話すことを禁じた。レオは俺の頼みはなんだって聞いてくれる。だから、レオが精霊王の加護を付与され、その愛し子になったという情報は、未だどこにも漏れていない。
「俺が聖獣と契約し、愛し子が精霊王の加護を得てから、既に三年が過ぎている」
「三年も?!」
「よくここまで誰にも知られずに……」
「俺がこれまでずっと、このロルフと二人で守ってきた。そもそも、俺が聖獣の契約者となったのは、愛し子を守るためだ。愛し子をありとあらゆる災厄から守るため、精霊王の計らいで俺はロルフの契約者になった。さっき俺は言ったな、もうこの国には後がない。皆で必死に立て直すか、あるいは滅ぶしかないと」
全員が真摯に頷く中、俺は話を続けた。
「皆が頑張って国を立て直した場合、俺はこの地に精霊の愛し子を連れてきて永住するつもりでいる。俺はこの国の立て直しをお前たちに命じたが、真の目的は愛し子が安心して暮らせる地を作ることにある。お前たちにとっても、これは最高の褒美になるのではないか。五年間、死に物狂いで頑張れば、その後の繁栄が約束されているようなものなのだから」
『他領の領主を蹴落とす暇があれば、助けてやるがよい。この地に住まう者たちに安寧を与え、笑顔を取り戻し、妖精たちを呼び戻せ。さすればおぬしら自身、この先の人生を安けく過ごせよう』
「聖獣の契約者と精霊の愛し子の存在については他言無用だ。家族にも、最も信頼している従者たちにさえ話すことを禁ずる。今日、この場に顔を出していない各領の領主たちにも、この話はしっかりと伝えておくように」
宰相に目を向けると、神妙な面持ちで頷いた。
「俺たちの存在が外に漏れた場合、問答無用でこの国は滅ぼさせてもらう。お前たちが五年間碌な努力をしなかった場合もそうだが、その時は俺と愛し子はこの国を見捨てることになるだろう。あるいは、ここを滅ぼして、真っ新な状態に戻した上で、俺がこの地にあの子のための優しい国を作るよ」
室内にいたヴァルトーシュ貴族たちの顔つきが変わった。恐らく、今までは俺という人間を観察していたのだろう。聖獣を従え、力を得たことで増長し、父を殺したこの国の人間をいたぶって楽しんでいるだけの残虐な男なのか。それともこの国の未来を本気で憂い、真剣にこの国を正しい政の行われる善き国にしようとする故王弟の息子なのか。はたまた本当の理由が別にあるのか。
精霊の愛し子の話をしたことにより、俺の本意が伝わったのだろう。なぜ俺がこの国の改善を命じるのか。それは精霊の愛し子にとっての安息の地を作るためだと。そして、それが自分たちにとっても、どれほどの恩恵をもたらすことになるのか。そのことが彼らには十二分に理解できたらしい。
その後は順調に話し合いは進んだ。
宰相の案により、国王と王太子は眠らせた状態のまま、暗部の者の手によって、この場で俺たちの目の前で毒殺することにした。
死因は公務に向かう途中の崖から転落死。同じ馬車に乗っていたため、二人は同時に死亡したことにできた。
「事故死であれば、特に国内に混乱はなく王位は次代に引き継がれるでしょう」
宰相の言葉に、他貴族たちが頷いた。
国王や王太子に対し、惜しむ思いや慕う気持ちがないのか尋ねてみた。すると、皆一様に首を横に振った。
自分の命や家門の存続のために従ってきたものの、国王のやり方には皆不満を持っていたらしい。些細なことで国王の怒りを買って殺された者の多くは、ここにいる貴族たちの身内や友人であったらしく、恨む気持ちの方が大きいとのことだった。
しんみりした雰囲気を、宰相が次の議題に変えることで一新させた。
「それでは、次に考えるべきは王位の問題がですが……」
「順当な流れで考えれば、第二王子のエイルレイン殿下になるかと」
「殿下は今、シャルロタに留学中であろう」
「早急に呼び戻さねば」
「カイル様は、やはり王位に就くおつもりはないのですか?」
宰相に問われ、俺は肩を竦めて答えた。
「本音を言えば皆無だ。そもそも、俺が反乱を起こして王の首を取ったならいざ知らず、王が事故死したという状況で、ずっと行方知れずだった王弟の息子が、急に次の王の座につくのはおかしいだろう。ただ、もし俺の恋人がそれを望めば、俺も考えるが……まあ、あの子は望まないだろうな」
「愛し子様は権力には興味のない方なので?」
「全くないな。他国の高位貴族の子弟なんだけど、金や権力にほとんど興味を示さず、ただ俺の幸せのためだけに生きているような、そんな子なんだ」
「大切な……方なのですか?」
「俺の命よりも大切に想ってる」
きっぱりと言い切った俺に、宰相の目が、なにか懐かしいものを見るような色を浮かべた。俺が怪訝そうにすると、宰相は小さく頭を下げた。
「遠い昔、わたしは一時期、あなた様のお父上の教育係を拝命していたことがあります。シャルロタの留学から帰国したお父上が、大切に想う人ができた、とお話し下さった時のことを思い出しました。あの時のお父上と、全く同じ表情をしておられたのでな、つい懐かしく思った次第です。残念なことに、お子ができたことは聞いておりませんでした」
「そうか……」
「あなた様とお父上は、見た目がとても似ていらっしゃる。――――あの時、お父上をお助けできず、申し訳ありませんでした」
心痛な面持ちで、宰相が頭を深く下げた。気にするな、と俺は簡潔に告げた。
俺としては、父のことを話されても「へー、そうだったのか」くらいの気持ちにしかならない。一度も会ったことのない相手だし、母からも特に詳しく話を聞いたことがあるわけでもない。そんな相手に思いを馳せる暇があれば、一秒でもレオのことを考えていたい。
ああ、ほら、ほんの少しレオのことを考えただけで、あの可愛くも美しい姿をほんの少し心に思い浮かべるだけで、こんなにも心に幸せが溢れ出す。この場にいなくても、ただこの世に有ってくれるだけで、レオは俺を幸せにする。幸せにできてしまう。
レオにとって、俺もそういう存在であればいいと心から願わずにはいられない。
そんなことを思っていたせいか、レオに会いたくて会いたくてたまらなくなった。
「くそっ、会いたくなったな。ちょっと戻って、一目だけでも見て来るか」
俺のその呟きを拾った貴族たちが騒ぎ立てた。
「帰る? どうやってですか?」
「聖獣様に騎乗してですか?!」
「え! 転移の魔法で?! それは伝説級の魔法の一つではありませんか!」
「会うというのは、精霊の愛し子様のことですか?」
「わ、わたしたちがお会いするワケにはまいりませんか」
「ほんの少しだけでも……」
期待に満ちたような視線が俺に集まった。
俺は少し考えてみた。
レオをこいつらに会わせる? まだ信用もできないのに? 危険じゃないだろうか。
いやしかし、一度会わせてみた方が、こいつらにも精霊の愛し子の存在が本当だと分かるだろう。そうなると、今後の努力の度合いも違ってくるかもしれない。
危険の有る無しで言えば、ロルフがいる以上、レオを傷つけることができる人間がいようはずもない。
「……分かった。ここに愛し子を連れてきてやる」
「おお!!!」
「ただし、顔は見せない。安全を考えてのことだ。それと、愛し子は眠った状態で連れてくるからな、静かにしろよ」
「わ、分かりました」
「絶対に騒ぎませぬ!!」
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
俺はすぐに転移魔法により、領主館のレオの眠る寝室へと移動した。ベッドの布団の中で、レオはあどけない顔をして安らかに眠っていた。
愛しい。レオの姿を一目見ただけで、俺の体のすべてが歓喜に震えているような気がしてくる。
レオに少し強めのスリープを掛けた。額にキスし、頬にキスし、薄く愛らしい唇にもキスを落とした。それから大切に大切にシーツで全身をフワリと包み込み、両腕でしっかりと抱きあげた。
最後に顔が隠れていることを確認してから、俺はヴァルトーシュ王城の会議室へと転移した。
その瞬間。
空気が変わったのが分かった。
多くの妖精たちが見捨てたヴァルトーシュは、余程空気が淀んでいたのだろう。レオがこの地に現れた瞬間、まるで空気が瞬時に浄化されたかのごとく澄み渡り、清廉な雰囲気に周囲が包まれた。
見ると、少し離れたところからこちらを見ている貴族たちが、両膝を床に付き、涙を流して拝んでいる。感激のあまり、言葉も出ないらしい。
精霊の愛し子とは、それほどこの世界の人間にとって大切で、愛され、崇められるべき存在なのだと、俺も改めて思い知らされた。
俺にとっては、レオは昔から何物にも代えがたい、この世の貴宝のような存在だったからな。特にそれ以上を意識したことがなかった。
愛するレオが皆から崇拝されている様は、俺としてもとても気分のいいものだった。
精霊の愛し子になる以前、レオは長い間、侯爵領の皆から蔑まれてきた。けれど、もうあんな思いは二度とさせるつもりはない。
五年後、この土地に越してきたレオが皆から先入観なくただひたすら愛され、大切にされる様を想像するだけで、俺もとても幸せな気持ちになってくる。
「俺はこの子をいずれこの地に連れてきたい。皆で一緒に幸せになりたい。そうなるよう、皆努力を怠らず、この国の復旧に励んで欲しい!」
貴族たちが頭を深々と下げ、強い決意を滲む瞳を輝かせた姿を確認し、俺は満足して転移の魔法をかけた。
レオの寝室に戻った俺は、レオをそっとベッドに横たわらせた。綺麗に寝かせて、ふわりと布団を体に掛けてやる。
「幸せになろうな、レオ。俺にとって、レオ以上に幸せになるべき人間は他に思いつかないよ」
指の甲で優しくレオの頬を撫でてから、俺はまたヴァルトーシュの城内に戻った。
そこからの貴族たちの奮闘ぶりは、本当に凄まじかった。国に蔓延る様々な問題を、片っ端から次々と解決していく。
膨れ上がった軍の始末のつけ様、周辺国家への賠償問題、疲弊しきった国民たちへの補填、数年間の減税とそれを補う財源について。
即座に解決できることは即決し、文官を交えて時間を掛けて話し合うべきことは、今後の議題として紙に纏めていく。
レオの姿を見る前と後とでは、その働き方は雲泥の差だった。
俺とレオがヴァルトーシュに住むことになった場合、俺たちの立場や住む場所については、少し時間を掛けて検討してもらうことになった。
例えば、俺の王族としての出自を公表すべきかどうかとか、レオの立場を縛らないために平民としておくか、それとも強固な後ろ盾があった方がいいと考えて王家の養子に入れるかなど。
俺としては、住むところは田舎を望む。田舎じゃなくても、領主が没落して荒れ果てたままになっている領地や、王家直轄領で手のいき届いてない寂れた土地など。
レオが住めば、その地はあっと言う間に生き返る。そこで俺とレオ、そして侯爵領の孤児たちや、仲間と認めた人たちと共に移り住み、ゆっくりと楽しみながら発展させていきたい。
働き手として、仕事がなく燻っている貧民街の人間を引き取ってもいい。
レオとの満ち足りた未来を考えるだけで、俺は楽しくてたまらなくなる。間違いなく、俺たちの未来には幸せが溢れていると信じられた。
そんな風に、俺たちは夜になるまで多くの問題について話し合い、解決策を考えたりしていたのだが、その途中、扉の前で眠らされている兵士たちを見つけた城の使用人たちが通報し、賊が入ったと勘違いした近衛騎士たちが扉前で大騒ぎしたのをロルフが風系魔法で吹き飛ばしたという話を聞いたのは、会議がすべて終わってからのことだった。
同様に、城内の情報が外に漏れないよう城全体に結界を張っていたために、何事かが起こったと判断した軍が国王を助けようと城を取り囲み、これまたロルフが重力魔法で地面に縫い付けにしたまま、暴れていた兵士たちの体力がなくなって動けなくなるまで放っておいた、などという話も後になって聞いたことだった。
ロルフが軍にしたことに対する王都民たちへの上手い言い訳は、悪いと思いつつ、面倒だから宰相に一任してしまった。
きっとあの宰相なら上手い言い訳を考えて、丸く収めてくれるだろう。今日一日一緒にいただけで、かなり頭の切れる人間であることが分かったことだしな。
国王の横暴により無秩序に政治が行われていた中で、この国がなんとか立ち行いてきたのは宰相の采配のお陰であるらしい。あの場にいた何人もの貴族が口を揃えて言っていたのだから、間違いないだろう。
そういった面倒事の後始末や国王と王太子の葬儀、国王代理の任命など、それらを宰相をはじめとした貴族たちに任せ、俺は一旦レオの元に戻ることにした。次は十日後、同じ会議室に朝から集まることを約束し、俺は転移魔法でレオの待つ領主館へと帰ったのだった。
人気のなさそうな中庭の茂みの中にひとまず転移し、そこから歩いてレオの寝室に向かった。ドアを開けた俺の姿を認めたレオは、輝かんばかりに嬉しそうな顔をした。両手を広げた俺の胸の中に、走って飛び込んできたレオの可愛さといったら、もう!! 筆舌に尽くしがたい!
「お帰りなさい、カイル。カイルがいなくて、すごく寂しかった」
俺をギュッと抱きしめ、胸に頬をスリスリしてくるレオ。
うー、可愛すぎて、どうしたらいいか分からない!
俺は強くレオを抱きしめた。
「俺だって、レオに会えなくて寂しかったよ」
俺はまだ体力の戻っていないレオを横抱きにし、その可愛らしい顔にキスをしながらベッドへと向かった。キスを嬉しそうに、くすぐったそうに受けながらレオが聞いてくる。
「どこに行ってたの?」
「ちょっとヴァルトーシュ王国まで行ってきた」
「え!」
驚くレオをベッドで裸に剥き、体中にキスをしながら、俺はヴァルトーシュでしてきたことをレオに報告した。
五年後にヴァルトーシュに移住することは、今はまだ内緒にしておく。レオにはこの慣れ親しんだ領地で、しばらくはのんびり俺とイチャイチャしていてもらいたい。
俺の予想では、恐らく三年以内には、侯爵家からレオに縁談の話がくることだろう。どんな相手と結婚させようとするかは分からないが、それを機に、レオには侯爵家との縁を完全に切ってもらうつもりだ。
縁談が理由なら、レオも迷うことなくきっぱりと侯爵家と縁を切り、領地から離れることを決断をしてくれるに違いない。
触ると、まだレオのアナルは少し柔らかかった。俺はベッドの上に座り、膝の上に対面にレオを座らせた。俺の猛ったペニスがずぷずぷとレオのアナルに突き刺さっていく。
「あっ、ん、ああ!」
「愛してるよ、レオ」
「ぼっ、僕も……ああっ!」
レオ自身の重みで、俺のペニスが奥の深いところまで入っていく。体が倒れないよう、レオが俺の首に両腕を回した。俺はレオの唇を吸い、両乳首を指で捏ね回しながら、下から激しくレオの体を突き上げた。
膝の上でレオの体が上下するたび、俺の亀頭がレオの結腸をごりごり削るように刺激する。俺の突き上げる体の動きに合わせて、レオのペニスの先端からはぴゅっぴゅっと薄い精子が飛び出した。
しがみつくように俺に抱き着いているレオの体が、ビクッビクッと快感に震えているのが分かる。
「ん……あ、ああ……ンあっ!!」
「すごいな、レオ。動かすたびに軽くイッてるのか? いやらしいな」
「あっ、変になるっ、頭変になっちゃ……よぉ! ああ」
「いいぞ、いっぱい変になれ。俺がいるから大丈夫だ!」
「あああ、カイル、奥がすごいっ! 奥が熱くて溶けそう、ああっ……んうっ……」
じゅるじゅるっとレオの舌と唾液を吸い上げた。その刺激で、また軽くレオが達してアナルがぎゅっと締まる。
俺は人差指の腹でレオの亀頭の平らな部分を、円を描くように優しく撫でてあげた。
「あっ……そ、それっ、それダメ! あーっ、気持ちいいっ!」
大きく目を瞠り、涙をぼろぼろ流しながら感じるレオはたまらなく淫靡だ。
「レオが感じると俺も気持ちいい。だから、いっぱい感じて、レオ」
「か、感じてるっ、はぁっ、すごく感じてるからっ……感じすぎ、て、頭おかしくなっ……ああっ」
この後、何度も何度もレオをイかせながら、俺はヴァルトーシュでの出来事を話せることだけ抜粋してレオに聞いてもらった。
思った通り、レオは俺が王になることを望んではいなかった。そして、俺とこれからも一緒に暮らしたいと言ってくれた。前世からずっと俺を好きだったとも教えてくれた。
俺は最高に嬉しくて、最高に幸せで、レオの顔中に何度も何度もたくさんキスの雨を降らしたのだった。
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