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第1章 世界の終焉
第3話 至高の二度寝
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◆至高の二度寝
チッチッチ…カチ
時計の針が6時を指す。
ジリリリリリリリリリリ!!!
ガンッ!!!
目覚まし時計の無慈悲な警報音は、上段からの手刀によって沈黙させられた。
だが、それは敗北ではない。
5分後、彼女が再び襲いかかることを見越し、スヌーズはセットされる。
これは、単に「一回では起きられない」からではない。
安心して二度寝するためだ。
二度目のチョップが放たれた後、彼女はようやく目を開いた。
気分は爽快……とは言えないが、気怠さはない。
妙に歪んだ時計に目をやると、針は6時06分。
所々跳ねている黒髪を手櫛で直しながら、ベッドから起き上がる。
肩に触れそうで触れない、その艶のある黒髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。
◆朝の準備
30分ほどで朝の支度を終え、食卓へ向かう。
木製の円卓テーブルには、
バタートーストと目玉焼き、コンビニのサラダ、野菜ジュース。
彼女の髪は、櫛を通し、さらに艶を増していた。
水色のワイシャツに紺色のスカート、黒タイツに包まれた足がすらりと伸びる。
お気に入りの服のひとつだ。
彼女は、背筋の伸びた、美しい姿勢で椅子に座る。
ジャケットは椅子の背に掛けたまま。
「いただきます。」
小さく呟く。
向かいの席には、誰もいない。
両親は田舎の研究所で働いており、彼女は単身で上京していた。
ここ数年、彼氏もいない。
言い寄ってくる男はいたが、結婚を意識するとどうしても妥協できなかった。
少し肌寒い空気の中、静まり返った部屋で黙々と食事を終え、皿を洗い、家を出た。
◆会社の朝
時刻は8時半。
オフィスの奥に目をやると、二つの人影があった。
一番奥の席でふんぞり返りながら朝刊を広げているのは、矢部部長。
前任の部長の代わりに親会社から来た男だ。
前任と違って細かいことを言わず、仕事を任せてくれる。
だが、そのバーコード頭で自虐ネタを披露してくるので、反応に困ることが多い。
(……一度、風の強い日に一緒にランチへ行ったら、バーコードがファッサーと持ち上がった時は窒息しそうになったっけ……)
そして、もう一人。
フロアの端で、静かにパソコン画面を凝視する男。
経理主任の神谷練――通称レン君。
彼は私の3つ下の後輩だが、全く後輩らしくない。
生意気で、図々しくて、自信満々。
何でも知っているような顔をして仕事をする。
しかも、悔しいことに、仕事ができる。
◆レンの異常な能力
レン君が入社して半年後、経理部長が急遽辞めることになった。
皆で引き止めたが、結局10月末には退職。
その後、親会社から矢部部長が来たが、実務は全くできない。
戦力外通告だった。
仕方なく、社長がダメ元で「一人で決算をやってくれないか」とレン君に頼んだ。
すると、彼はこう答えた。
「そうですか、分かりました。大丈夫です。」
――そして、本当に完璧にやってのけた。
その裏には多大な努力があったことを、私は知っている。
監査時には、前任者のミスや管理不足が次々と発覚し、それをレン君が一人で対応した。
そのついでに、彼は業務システムまで改修し、効率化まで成し遂げた。
結果、毎月の業務負担は3分の2に減り、経理部はほぼ定時帰りが可能になった。
私も、契約管理のシステムを見直してもらったことがある。
今では頭が上がらない。
◆社内でのレンの評判
彼は誰よりも早く仕事を終わらせ、誰よりも正確に処理する。
しかも、どんなに仕事を頼まれても、必ず定時で帰る。
そのため、社内では男女問わず評判が良い。
若くして昇進しても、不満を言う者は誰もいなかった。
ただ、彼には浮いた話が一切ない。
**「彼はホモなのでは?」**という噂すらあるくらいだ。
レン君自身は「結婚するつもりはない」と公言しているが……。
実際、彼はギャンブルもせず、女遊びもせず、ただ仕事と酒だけを楽しんでいる。
本当に20代なのだろうか?
◆朝の違和感
私は席につき、挨拶をする。
すると、レン君が妙に視線を低くしているのが気になった。
(……タイツ、伝線してないよね?)
そんな不安を抱いていると――。
「おはようございます!!!!」
耳をつんざく大声が響いた。
経理部の新人、小川大樹。
典型的な体育会系で、声が大きく、派手好きで、頭を使わない。
目覚まし時計と同じようにチョップをお見舞いしてやりたい。
◆“さおりん”の恋愛相談
しかし、私にはもっと大きな悩みがあった。
――さおりんだ。
先週の土曜日、同じ部署の**吉田早織(さおりん)**に飲みに誘われた。
そして、驚くべきことに、恋愛相談を持ちかけられたのだ。
相談の相手は――レン君。
私は胸の奥がもやもやするのを感じながら、彼女の話を聞いた。
結局、「オシャレをしてレン君の気を引こう!」という作戦に落ち着いた。
次の日、一緒に服を選びに行き、彼女が選んだのは――
私とまったく同じコーディネートだった。
◆今日の朝の出来事
そして今日。
さおりんは、私と同じ服を着て出社してきた。
私は気を取り直し、彼女を褒める。
さおりんは、照れながらレン君をチラ見。
しかし、レン君の反応は――。
「……逆方向に気を引いた。」
私は嬉しいような、嬉しくないような、もやもやした気持ちを抱えたまま、仕事を始めた。
時計の針は9時を指していた。
チッチッチ…カチ
時計の針が6時を指す。
ジリリリリリリリリリリ!!!
ガンッ!!!
目覚まし時計の無慈悲な警報音は、上段からの手刀によって沈黙させられた。
だが、それは敗北ではない。
5分後、彼女が再び襲いかかることを見越し、スヌーズはセットされる。
これは、単に「一回では起きられない」からではない。
安心して二度寝するためだ。
二度目のチョップが放たれた後、彼女はようやく目を開いた。
気分は爽快……とは言えないが、気怠さはない。
妙に歪んだ時計に目をやると、針は6時06分。
所々跳ねている黒髪を手櫛で直しながら、ベッドから起き上がる。
肩に触れそうで触れない、その艶のある黒髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。
◆朝の準備
30分ほどで朝の支度を終え、食卓へ向かう。
木製の円卓テーブルには、
バタートーストと目玉焼き、コンビニのサラダ、野菜ジュース。
彼女の髪は、櫛を通し、さらに艶を増していた。
水色のワイシャツに紺色のスカート、黒タイツに包まれた足がすらりと伸びる。
お気に入りの服のひとつだ。
彼女は、背筋の伸びた、美しい姿勢で椅子に座る。
ジャケットは椅子の背に掛けたまま。
「いただきます。」
小さく呟く。
向かいの席には、誰もいない。
両親は田舎の研究所で働いており、彼女は単身で上京していた。
ここ数年、彼氏もいない。
言い寄ってくる男はいたが、結婚を意識するとどうしても妥協できなかった。
少し肌寒い空気の中、静まり返った部屋で黙々と食事を終え、皿を洗い、家を出た。
◆会社の朝
時刻は8時半。
オフィスの奥に目をやると、二つの人影があった。
一番奥の席でふんぞり返りながら朝刊を広げているのは、矢部部長。
前任の部長の代わりに親会社から来た男だ。
前任と違って細かいことを言わず、仕事を任せてくれる。
だが、そのバーコード頭で自虐ネタを披露してくるので、反応に困ることが多い。
(……一度、風の強い日に一緒にランチへ行ったら、バーコードがファッサーと持ち上がった時は窒息しそうになったっけ……)
そして、もう一人。
フロアの端で、静かにパソコン画面を凝視する男。
経理主任の神谷練――通称レン君。
彼は私の3つ下の後輩だが、全く後輩らしくない。
生意気で、図々しくて、自信満々。
何でも知っているような顔をして仕事をする。
しかも、悔しいことに、仕事ができる。
◆レンの異常な能力
レン君が入社して半年後、経理部長が急遽辞めることになった。
皆で引き止めたが、結局10月末には退職。
その後、親会社から矢部部長が来たが、実務は全くできない。
戦力外通告だった。
仕方なく、社長がダメ元で「一人で決算をやってくれないか」とレン君に頼んだ。
すると、彼はこう答えた。
「そうですか、分かりました。大丈夫です。」
――そして、本当に完璧にやってのけた。
その裏には多大な努力があったことを、私は知っている。
監査時には、前任者のミスや管理不足が次々と発覚し、それをレン君が一人で対応した。
そのついでに、彼は業務システムまで改修し、効率化まで成し遂げた。
結果、毎月の業務負担は3分の2に減り、経理部はほぼ定時帰りが可能になった。
私も、契約管理のシステムを見直してもらったことがある。
今では頭が上がらない。
◆社内でのレンの評判
彼は誰よりも早く仕事を終わらせ、誰よりも正確に処理する。
しかも、どんなに仕事を頼まれても、必ず定時で帰る。
そのため、社内では男女問わず評判が良い。
若くして昇進しても、不満を言う者は誰もいなかった。
ただ、彼には浮いた話が一切ない。
**「彼はホモなのでは?」**という噂すらあるくらいだ。
レン君自身は「結婚するつもりはない」と公言しているが……。
実際、彼はギャンブルもせず、女遊びもせず、ただ仕事と酒だけを楽しんでいる。
本当に20代なのだろうか?
◆朝の違和感
私は席につき、挨拶をする。
すると、レン君が妙に視線を低くしているのが気になった。
(……タイツ、伝線してないよね?)
そんな不安を抱いていると――。
「おはようございます!!!!」
耳をつんざく大声が響いた。
経理部の新人、小川大樹。
典型的な体育会系で、声が大きく、派手好きで、頭を使わない。
目覚まし時計と同じようにチョップをお見舞いしてやりたい。
◆“さおりん”の恋愛相談
しかし、私にはもっと大きな悩みがあった。
――さおりんだ。
先週の土曜日、同じ部署の**吉田早織(さおりん)**に飲みに誘われた。
そして、驚くべきことに、恋愛相談を持ちかけられたのだ。
相談の相手は――レン君。
私は胸の奥がもやもやするのを感じながら、彼女の話を聞いた。
結局、「オシャレをしてレン君の気を引こう!」という作戦に落ち着いた。
次の日、一緒に服を選びに行き、彼女が選んだのは――
私とまったく同じコーディネートだった。
◆今日の朝の出来事
そして今日。
さおりんは、私と同じ服を着て出社してきた。
私は気を取り直し、彼女を褒める。
さおりんは、照れながらレン君をチラ見。
しかし、レン君の反応は――。
「……逆方向に気を引いた。」
私は嬉しいような、嬉しくないような、もやもやした気持ちを抱えたまま、仕事を始めた。
時計の針は9時を指していた。
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