神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

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第2章 ギースの塔

第31話 漆黒の戦士

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◆900階層・深き闇の森

 幾重にも生い茂る巨大な樹々が、冷たい風にざわめいていた。
 この森には、陽の光が一切届かない。塔の魔力によって保たれる僅かな光が、黒々とした樹皮に鈍く反射するだけだった。
 森を覆う濃密な霧が、まるで生き物のように揺らめく。
 闇の奥から響く低い唸り声――それは、ここに生息する魔物たちの警告であり、縄張りを示す威嚇の音だった。

 この900階層は、**“超深層”**と呼ばれる領域。
 そこに足を踏み入れることができるのは、数えるほどの冒険者だけ。
 常人では、この空気に触れるだけで命を奪われるとさえ言われている。

 そんな闇の世界の中、ただ一人の影が静かに歩を進めていた。

◆漆黒の騎士

 黒い全身鎧に包まれた男――超越者オーバーロード
 その身の丈は、2メートルを超える。
 しかし、歩く音は極めて静か。
 まるで彼がこの世界に溶け込んでいるかのように、足元の草すらも揺らがない。

 背には、二本の巨大な剣。
 右手には、血を吸う魔剣**《赤月の断罪》。
 左手には、全てを断つ大剣《虚空の残響》**。

 その漆黒の兜の奥――
 彼の瞳は、決してこの世界には存在しない色を宿していた。

◆森に潜む魔物

 彼の足が止まる。
 空気が変わった。

 森の奥に潜む、“何か”がこちらを伺っている。

 次の瞬間――

 ズルズルズル……ズシン……ズシン……

 木々の隙間から、“それ”が姿を現した。

 30メートル近い巨体。
 灰色の鱗に覆われた八本の鉤爪。
 爬虫類のような顔には、鋭い赤い目が三つ光っている。
 吐き出される息が、霧となり、地を這っていく。

 その霧に触れた草木は――瞬く間に石へと変わっていく。

 ――石化の魔眼を持つ最強の魔物、《バジリスク・オメガ》――



 900階層を支配する、“深淵の王”。

◆絶望のブレス

 バジリスク・オメガが口を開く。
 次の瞬間、“それ”は放たれた。

 音もなく、灰色の瘴気が奔流となって押し寄せる。
 見るだけで、肺が凍りつくような死の波動。

 しかし――

 「……愚かな」

 鎧の者は、一歩も動かない。

 “カチリ”

 彼の手に握られた《虚空の残響》が、空気を震わせる。

 斬撃が、世界を裂いた。

 ズバァン!!!!!

 “灰色の瘴気”は真っ二つに分かれ、そのまま後方へと流れ去る。
 地面に着弾した瞬間、辺り一帯が石と化した。

 バジリスク・オメガの三つの目が、大きく見開かれる。
 それは驚愕と――“恐怖”。

 「……なるほど、この階層の魔物も、所詮は”恐怖”を知る程度の存在か」

 黒鎧の者が静かに呟いた、その瞬間――

 彼の姿が、黒い霧と共に消えた。

◆深淵の断罪

 バジリスク・オメガは、視界から敵を見失った。
 それが”何を意味するか”を、知る暇もなかった。

 ――ズバァン!!!!!

 右前脚が、宙を舞う。
 血が霧状に散った。

 「シャアアアアアアア!!!」

 バジリスク・オメガが悲鳴を上げた瞬間――

 ――ズバァン!!!

 今度は、左の後脚が消し飛んだ。
 地に倒れ込むバジリスク。

 そして、最後に彼は見た。

 月光に照らされた漆黒の鎧。
 その手には、赤く染まる魔剣《赤月の断罪》。

 「この剣はな……お前のような”愚者”を裁くためにある」

 黒鎧の者が、静かに剣を振り上げた。

 ――ズバァン!!!!

 バジリスク・オメガの首が、斜めに切断され、地に落ちた。

 900階層の王は、わずか数秒でその座を失った。

◆焚火の夜

 30階層――静寂の森の中、焚火が優しく揺れていた。

 ミーナは、焚火を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。
 胸の奥で、何かが高鳴っている。
 それは、ただの焚火のせいではないと、彼女は気づいていた。



 (……まさか、さっきの鍋のせい?)

 レンが昼間、作ってくれた鍋――あの中に入っていた謎のキノコ。
 塔の中の食材は時折、妙な副作用を持つことがある。

 ミーナは、寝息を立てるレンの顔を見つめた。



 「……なんで、そんなに無防備なのよ」

 小さく呟く。

 彼の呼吸は穏やかで、疲れたのか、深い眠りに落ちていた。
 ふと、胸の奥にじんわりとした感情が湧き上がる。

 (レン……)

 心の中で名前を呼ぶと、頬が熱くなる。
 分かっている。
 こんなこと、普段の自分なら絶対にしない。
 でも――

 焚火の影が揺らめく。

 ミーナは、そっとレンの寝顔に顔を近づけた。

 (……少しだけ、なら)

 彼の静かな寝息を感じる距離まで近づき、そっと目を閉じる。
 唇が、ほんの一瞬、レンの頬に触れる。

 ――キス。

 それは、まるで夢の中の出来事のようだった。

 「……ん」

 レンが微かに動く。

 ミーナは、驚いて体を引き、口元を押さえた。

 「……バカ、何してるのよ……」

 心臓が、耳元で大きく鳴っている。
 ミーナは、その場に立ち尽くしたまま、暗闇の中、そっと自分の唇に触れた。

 ――塔の夜は、いつもより長く感じられた。
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