神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

文字の大きさ
30 / 70
第2章 ギースの塔

第30話 記憶の深淵

しおりを挟む
◆オフィスの違和感

――見慣れたモニターが目に映る。

モニターには数字と文字の羅列。
書類のデータか、システムのログか。
画面の内容を眺めながら、指が勝手に動く。

(……この作業、慣れているな)

周囲を見渡すと、広々としたオフィスフロア。
白い蛍光灯の光が天井から降り注ぎ、無機質な明るさを生んでいた。

「……おかしい」

なぜだろう?

――この光景は確かに見覚えがある。
でも、どこかが違う。

左隣に目をやると、矢部部長が新聞を広げて座っている。
いつもの朝の風景。

俺はデスクの上の時計を見る。

8時50分。

出勤直後の時間。

……何かが、引っかかる。

違和感の正体が分からないまま、積み上がった書類を眺める。

いつも通り、処理すべき業務が山のようにある。
この光景も、慣れたものだったはずなのに――

(……いや、俺は、本当に“ここ”にいたのか?)

疑問が浮かびかけた、その時。

「おはようございます!」

――懐かしい声がした。

俺はハッとして振り向く。

◆彼女の声

そこには、黒髪のショートヘアの女性が立っていた。
すっきりとした釣り目の美しい瞳。
キリッとした表情の中に、小動物のような愛嬌を持つ笑顔。

(……俺は、彼女を知っている)

でも、なぜか 名前が出てこない。

懐かしい。
それだけでは説明できないほどの愛おしさが胸の奥から込み上げてくる。

「そうだ!レン君!今週の土曜日、レン君もハイキングに行くんだってね!」

彼女は嬉しそうに手を合わせる。

「あぁ、そうだよ。開発部の井上に誘われたんだ。……なんで知ってるの?」

「そのハイキング、私とさおりんも行くんだよ! せっかくだから、一緒の班になろうよ!」

「そうなんだ!じゃあ、是非、よろしくお願いします」

俺は快諾する。
けれど、次の瞬間――

視界が暗転した。

◆ハイキングの記憶

気がつくと、俺は深い森の中を歩いていた。

夏の太陽に照らされ、木々の緑が生き生きと輝いている。
森の独特の香りが心地よく、遠くで鳥のさえずりが聞こえた。

(……俺は、ハイキングに来ている?)

「やっぱり、気持ちいいねぇ!」

俺の前を歩く黒髪ショートの彼女が振り返る。

灰色のTシャツにジーンズのホットパンツ。
黒いタイツを履いたシンプルな服装なのに、不思議と色気を感じる。



俺は、無意識に彼女の後ろ姿に視線を落とした。

すると――背筋がゾワッとする。

「ウフフ……レン君、いいお尻しているわねぇ」

背後から、ねっとりとした低い声。

俺はハッとして振り返る。

――そこには、筋肉 がいた。

血走った目、荒い息遣い、ピンクのタンクトップ、白いハーフパンツ。
丸太のような腕と、裂けそうな太もも。

(……獣か?)

俺は恐る恐る距離を取る。
だが、彼女の後をついていけば安全圏だ。

そう思った矢先――

「きゃあ!」

前方で彼女の悲鳴が響いた。

彼女は川の岸辺で足を滑らせた。

「危ない!」

俺は反射的に空間を歪める。

――え?

何かが おかしい。

しかし、考えるよりも先に身体が反応していた。

俺は一瞬で彼女の元へ移動し、彼女の手を掴んでいた。

「あ、ありがとう、レン君!」

彼女の小さな手の温もり。
黒い瞳が、俺を見つめる。

(……俺は、なんでこんな動きができる?)

戸惑う俺をよそに、彼女は屈託なく笑う。

「水辺は滑りやすいから、気をつけないと」

「ごめんね。でも、レン君ってすごい運動神経だね! ビックリしちゃった!」

彼女は俺の手をじっと見つめた。

俺はまだ彼女の手を握ったままだったことに気づき、慌てて離す。

「あっ……」

彼女は少し残念そうに、自分の手を見つめる。

その時――

「うわぁああああ!」

背後で、筋肉が転んだ。

「あ~ん! レン君~! 私も助けて~! 立てない~!」

俺と彼女は遠巻きに見守る。

(……お前、絶対わざとだろ)

筋肉は苦しげに呻いていたが、俺たちは距離を詰めなかった。

そして、筋肉は諦めたようにスクッと立ち上がった。

余裕で立てるじゃねぇか。

呆れながら彼女を見ると、彼女の黒い瞳と目が合った。



木漏れ日が差し込み、彼女の笑顔が眩しい。

――この瞬間が、ずっと続けばいいのに。

そう思った、その時――

「きゃあああ!」

筋肉の叫びが背後で響いた。

またかよ……。

俺は振り返ろうとした、その瞬間。

「っ!?」

左腕をがっちりと掴まれる。
強烈な力が俺を引きずる。

バランスを崩し、目の前に水面が近づく。

水面には、俺を道連れにしながら転げ落ちる 筋肉の姿 が映っていた。

「レン君! さおりん!」

彼女の叫びが聞こえる。

――だが、次の瞬間。

俺の身体は、水の中へと沈んでいった。

◆深い闇へ

冷たい水が全身を包み込む。
意識が沈んでいく。

(……俺は、何を思い出しかけていた?)

ハイキング? 彼女?
あの 筋肉?

いや、それよりも――

――この記憶の正体は?

俺の意識は、深い水の中へと沈んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...