神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

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第2章 ギースの塔

第29話 野営の夜

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水のせせらぎが心地よく耳に響く。
肌に冷たい水が触れ、汗と共に疲れを洗い流していく。

――今、私は30階の湖で水浴びをしていた。

湖の深さはちょうど腰のあたりまで。
周囲は背の高い草木に囲まれており、外からの視界を遮ってくれている。

静寂に包まれた湖面に、美しい自分の姿が反射する。
水面が揺らめくたびに、映る自分の身体も歪んでいく。



「……気持ちいい。水浴びなんて、本当に久しぶりね」

私は両手で水をすくい、肩や胸に掛ける。
澄んだ水が肌を滑り落ちていく感触が、とても心地よい。

――水は、この世界では貴重な資源だ。
飲み水を得られるのは、ギースの塔の中だけ。
上層から下層へと流れる水は、階を下るごとに少なくなり、下層では小さな川がある程度。
こうして、自由に水浴びを楽しめる場所は、30階まで登らなければなかなか見つからない。

だからこそ、この瞬間を存分に味わいたい。

◆水浴びの後、野営地へ

たっぷりと30分ほどかけて身体を清め、私は湖から上がった。
タオルで濡れた身体を拭き、髪を乾かす。

ある程度乾いたところで、白い長袖のワイシャツと紺色のワンピースを身に纏う。
胸元には、いつもの赤いリボン。
支度を整えた私は、野営地へ向かうため、歩き出した。

3分ほど歩くと、開けた場所に出た。

そこには、皮のテントが張られ、その近くには枯れ枝が集められている。

……きっと、レンが準備してくれたのね。

私は、そっと目を細めた。

レンには、驚かされてばかりだ。
まさか、こんなに早く上層に行けるとは思っていなかった。

最初は剣の扱いも素人同然で、戦い方も雑だったのに……
わずか数回の戦闘で、まるで別人のように成長していく。

今では、そこらのA級冒険者と遜色ないレベルに達している。
……いいえ、それ以上かもしれない。

何よりも異常なのは、魔力の扱い方。

「魔法のことなんて、全く知らない」と言っていたのに……
使い始めたら、あっという間に私よりも上手くなってしまった。

本当に、何者なのかしら?

私は近くの木にタオルをかけ、ため息をつく。

「……まあ、私としては、レンが魔物を倒してくれるおかげで、魔力を温存できるし、助かるんだけどね」

そう呟いた瞬間――

◆怪しい物音

ズルズル……ズルズル……ズルズル……。

突然、何かを引きずるような音が聞こえてきた。

「……魔物?」

私は反射的に身構える。
右手に魔力を集中し、いつでも魔法を放てる状態にする。

音は、徐々に近づいてくる。

ズルズル……ズルズル……ズルズル……。

そして――

「よお!ミーナ!もう水浴びは済んだのか?」

草むらから現れたのは、レンだった。

「……なんだ、レンか。驚かせないでよ!危うく攻撃するところだったわ!」

私は魔力を解放し、安堵のため息をつく。

「悪い悪い」

レンは笑いながら、左腕を草むらから引き出した。

――巨大な足を握りながら。

「……何それ?」

私は、少し冷たい口調で問いかける。

「何って、今日の晩飯だけど?美味そうだろ?」

レンが満面の笑みで引きずり出したのは、巨大なイノシシの魔物。

全長20メートル以上。
立派な牙を2本持つその魔物は、首筋に深い斬撃を受けて倒れていた。

一撃で仕留めたらしい。

「……はぁ」

呆れた私は、肩をすくめるしかなかった。

◆イノシシ鍋

レンが料理の準備を始める。
鍋、ナイフ、火打石、塩、胡椒、よく分からない黒いソース、ネギ、キノコ、薬草、根野菜……
一通りの材料が揃った。

レンは手際よく巨大なイノシシを捌き、骨から出汁を取る。
その間に、具材を切り分け、香辛料を加えた。

焚き火の上で、鍋がぐつぐつと煮立つ。

しばらくすると、辺りは夜の闇に包まれていった。
天井の光が消え、闇が広がる。

ギースの塔の中なのに、昼と夜がある。
……不思議な場所だ。

「どうした?お腹が空いたか?」

レンが微笑みながら私に声をかける。

「べ、別にお腹は空いてないけど……せっかく作ってくれたんだし、しょうがないから食べてあげるわ!」

私は、そっぽを向きながら答えた。

「……グー」

……お腹が鳴った。

一瞬、レンが吹き出すのが見えた。

「ははは、素直じゃないな」

「うぅ……」

――恥ずかしい。

いただきます

イノシシ鍋が完成した。
濃厚な香りが鼻をくすぐり、食欲をそそる。

レンが私の茶碗に、スープと具材をよそってくれた。

「いただきます!」

レンが元気よく手を合わせ、スープを啜る。

「うまい!」

彼の満足げな表情を見て、私もスープを一口飲んでみた。

「……美味しい」

――レンの料理、意外と上手いのね。

結局、私とレンは、鍋の中身をすべて平らげてしまった。

◆交代の見張り

「そろそろ寝るか。今日は、どっちが先に見張りをやる?」

レンが聞いてくる。

「そうね……レンは料理で疲れたでしょ? 今日は、私が先に見張りをやるわ」

「そ、そうか? じゃあ、お言葉に甘えて……」

レンはテントに入り、すぐに寝息を立て始めた。

――私は、焚き火の前で、夜の闇を見つめる。

「……レンとなら、きっと――」

そう呟いたあと、自分の言葉に驚き、そっと口をつぐんだ。

……今は、考えるのはやめておこう。
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