神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

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第3章 魔法大学ザザン

第55話 嘘から始まる出会い

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 先ほどまで美しかった中庭は、今や見る影もなく荒れ果てていた。
 衝撃波で巻き上げられた砂や小石が散乱し、整備されていた芝生は抉れ、大きなクレーターまでできている。

(……やりすぎたか?)

 俺は周囲を見回しながら、心の中でそう呟いた。
 試験には合格したものの、こんなに荒らしてしまって本当に大丈夫だったのか……?

 そんなことを考えていた矢先、突然、地面が盛り上がり始めた。
 土が小さく波打ち、まるで生き物のように蠢きながら、次々と人型を形作っていく。

(……っ!?)

 一瞬、身構える。敵意を持った魔物か何かか?
 しかし、よく見ると、それらは子供ほどの大きさの土人形だった。
 数は30体ほど。トコトコとおぼつかない足取りで中庭を駆け回ると、まるで整備士のように地面の修復を始めた。

「……へぇ、面白いな。どうやって動いているんだろうか? これも魔法ってやつか」

 俺は土人形たちの動きを眺めながら、興味深そうに呟く。
 彼らの働きぶりを観察していると、崩れた地面がみるみるうちに元に戻り、抉れてしまった芝生からは、新しい草がにょきにょきと生え出していた。

 まるで時間を巻き戻しているような光景に、俺は純粋な驚きを覚えた。

「そうよ。ゴーレムを見るのは初めて?」

 突然、背後から女の声がした。

(!? いつの間に……!?)

 俺は驚きつつ、振り返る。

 そこに立っていたのは、一人の黒髪の少女だった。
 肩口で切り揃えられた髪が、風にそよぐ。
 黒曜石のような瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。

(……綺麗な子だな)

 第一印象は、それだった。

 肌は透き通るように白く、均整の取れた顔立ちには、どこか気品のようなものが漂っている。
 しかし、華奢な体躯と相まって、どことなく小動物のような愛らしさも感じさせる。
 そして、何よりも――

(……日本人っぽい?)

 彼女を見つめながら、俺はふと違和感を覚えた。
 この世界の人間にしては、どこか異質な雰囲気だ。

「ゴーレム? へぇ、便利な魔法だね。部屋の掃除とかに使えそうだ。ところで、君は誰かな?」

 俺が問いかけると、彼女は少し微笑みながら答えた。

「掃除にゴーレムを使う人なんて、聞いたことないけどね。
 私の名前は黒鉄遥くろがねはるか。貴方と同じ、一回生よ。よろしくね」

(やっぱり、日本人みたいな名前だ……)

 この世界で、「黒髪」そのものが珍しいことは、さっきのローゼや野次馬たちの反応から分かっていた。
 だとすれば――彼女も、俺と同じ異世界の人間なのか?

「神谷錬……レン君って言うのね。良い名前ね。
 その髪の色……この辺の出身じゃないみたいだけど、レン君はどこから来たの?」

 遥は俺の瞳を覗き込むようにして尋ねてきた。

 彼女の視線は、どこか真剣だった。

(……しまった)

 俺は少し警戒する。

 この世界では、俺が異世界人であることを知られてはいけない。
 それを隠し通すためには、適当な嘘をつくしかない。

「どこからって言われると……難しいな。
 俺の故郷は、今はすごく遠くて、行けない場所にあるから。名前も知らないと思う。
 ……ただ、君と同じ髪の色の人がたくさんいた国だったよ」

 なるべく自然に、当たり障りのない答えを返す。

 すると、遥は一瞬、目を見開いた。

「……やっぱり。レン君も、ジール大陸……魔境の生存者なのね?」

(ジール大陸? 魔境?)

 俺は、初めて聞く単語に戸惑う。

 だが、彼女の瞳に浮かんだ感情を見て――本能的に、これは迂闊に否定してはいけないと悟った。

(……どうする?)

 しばし迷ったが、最終的に俺は、彼女の言葉に合わせることを選んだ。

「そ、そうだよ」

 俺の肯定に、遥の目が潤んだ。

「やっぱり……良かった……私以外にも、生き残った人がいたのね……!」

 次の瞬間――

 遥は俺に飛びつき、そのまま強く抱きしめた。

(……えっ!?)

 いきなりの抱擁に、俺は完全に固まる。

 細い腕が、俺の背中に回される。
 かすかに感じる体温と、耳元で響く彼女の心臓の鼓動。

 ……思った以上に、彼女は必死だった。

(この娘は……どんな地獄を見てきたんだ?)

 俺には分からない。

 だが――彼女の涙だけは、本物だった。

 だから、俺は言う。

「い、いや、俺も……分からないんだ。ごめん」

「そう……ううん、いいの。一人でも、同じ境遇で生き残りがいるって分かっただけで、嬉しいから」

 遥は涙を拭い、俺の顔を見上げた。
 そして――笑った。

 その笑顔が、どうしようもなく眩しくて、俺は少しだけ胸が痛くなった。

(……この嘘、最後まで突き通さなきゃな)

 俺は密かにそう決意する。

「じゃあ、今日一日、私が学内を案内してあげる! いい?」

 遥は、そう言って満面の笑みを浮かべた。

 俺は――
 この世界に来て初めて、誰かに「一緒にいよう」と言われた気がした。

「……ああ、頼むよ」

 俺は、笑って答えた。
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