幼馴染がヤクザに嫁入り!?~忘れてなかった『約束』~

すずなり。

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約束。

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彩と約束した日曜日。

朝10時になると同時にうちにやってきた彩を連れ、俺は海に来ていた。

彩はジーパンに長袖のTシャツ、それに白いキャップをかぶってる。


「海だぁ!」

「ちゃんと約束は果たしたからな?」


波打ち際ではしゃぐ彩にそう告げると、彩は嬉しそうに俺を見ていた。


「うんっ!」

「ほんとにわかってんだか・・・。」


俺の心配を他所に、彩は石を集めたり貝殻を拾ったりして遊んでいた。

忙しく動き回る彩を見ながら俺は砂浜に腰を落とし、その様子をじっと見ていた。


(しかし大きくなったなぁ・・・。)


彩が10歳の時で俺の記憶は止まってるけど、雰囲気は変わってなかった。

少し顔立ちが大人っぽくなったくらいだけど、かわいさに磨きがかかったような感じだ。


(どこかのモデルかアイドルって言われても納得しそう・・・。)


小さい顔に大きな目。

俺から見たら小柄だけど、身長もそこそこある。

手足も長くて、キャバ嬢でもさせたら秒でナンバーワンになれそうだ。


(まぁ、あの性格じゃ務まらないだろうけど。)


気配りなんて微塵も考えない彩は、その性格が絵に活かされてる。

彩が変わればあの絵も変わってしまうのだ。


(それはもったいない。彩の描く絵は絶対後世に残る。)


彩が幼いころから彩の描く絵を見てきた俺は、その将来性を見出していた。

別れる時に、『また会えたら・・』と思いながら別れたけどきっと有名になると思っていたのだ。

どこかで彩の絵を見つけたらきっとすぐに分かると思った。


(まさか彩が隣に引っ越してくるとはなぁ・・・。)


挨拶に来たおじさんが言った言葉も気になるところだが、今は彩が砂浜に描き始めた絵を見ていたかった。

流れ着いた木の枝を見つけ、踊るようにして絵を描いてるのだ。


「あー・・・きれいだな。」


鼻歌を歌いながら楽しそうに描いてる姿は昔を思い出せていく。

庭で絵を描いていたり、学校帰りに地面に絵を描いていたりしてたのをよく見ていたものだ。

彩が模写にハマっていた時はコピーかと思うくらいの出来映えだったし、新しい絵の道具をおじさんに買ってもらったときはその道具を使っていろんな描き方をしていたものだ。


(ははっ・・懐かしいな。)


懐かしい記憶は楽しかったものばかりではない。

彩が誘拐されかけた何件もの記憶も一緒に蘇ってくる。


(・・・。)


おじさんは前に『守れない時がある』と言っていた。

それは彩の身が危ない時が多いということだ。


(警察のほうで彩を守れないのか?おじさんは仕事があるから個人的に守れなくなってきてるってことか?)


うちの隣に住んでるってことで彩の家の周りをうろつく奴はいないだろう。

でも大学に行く時や帰り道、買い物に出たときなんかは狙われるということになる。


(・・・一応『約束』を取り付けとくか。)


俺は下ろしていた腰を上げ、彩に近づいていった。

踊るように描いていた絵はもう終盤のようで、端に自分のサインを入れてるのが見える。


「彩、ちょっといいか?」

「なにー?」

「俺と『約束』してくれ。」


そう言うと彩は描いていた枝を止め、俺をじっと見た。


「俺が彩に『命令』したことは絶対に守れ。・・・それを『約束』してくれ。」


普通に考えたら『どうして?』とか『嫌だ』とか言われる内容だけど、彩はそうは言わない自信があった。

それどころか・・・


「わかったー。」

「!!・・・ははっ、すんなり返事したな。」


深いところで納得しての返事なのか、それとも何も考えずの返事なのかはわからない。

でも彩が俺と『約束』したことで、俺の目の届く範囲なら攫われるなんてことはないだろう。


「ねぇねぇ、ゆうちゃん。」

「ん?」

「これ、なーんだっ?」


踊るようにして描いていた絵を指さす彩。

俺はその絵を見て、すぐにわかった。


「・・・鮪だな。」

「ぴんぽーん!」


砂浜に大きく書かれた鮪の絵。

陰影も上手く描いていて、少し浮いて見えるくらいだ。


「なんで鮪?」

「海だから!」

「海だから鮪なのか・・・・」


よくわからずにいると、彩はその鮪の絵の隣にまた絵を描き始めた。

今度は皿に乗ってる・・・握り寿司の絵だ。


「?・・・寿司食いたいのか?」

「食べたい!お父さんにお願いする!」

「ふーん?・・・なら俺と食って帰るか?」


寿司屋ならうちが経営してるところがある。

高級寿司屋だが彩が食うぶんくらいどうってことない。


「!!・・・食べる!!」

「じゃあトオルが作った弁当食って、どこか景色のいいとこドライブしてから食って帰るか。それでいいか?」

「うんっ!」


彩はポケットからハンカチを取り出して広げ、その上に拾った貝殻をいくつか置いた。

割れないようにそっと包み、それを鞄にしまっていってる。


「それ、どうすんだ?」


一体何に使うのか気になって聞くと、彩は首を傾げながら空を見た。


「うーん・・・レジンでなにかできないかなって思って?」

「レジン?」

「紫外線で固まる液体のやつだよ?キーホルダーとかにできるの。」

「へぇー、いろんなのがあるんだな。」


その拾った貝殻をどう加工するのか楽しみに思いながら、俺たちは車に戻った。

トオルが作ったサンドイッチを海を見ながら頬張り、俺たちは景色のいいところをドライブして回った。

小高い丘の上から景色を見下ろしたり、きれいな川沿いを走ったり。

普段見ることがない景色だからか彩は終始目を輝かせていた。


「うわぁ・・・!」

「彩は昔から景色が好きだもんな。」


公園に行ってジャングルジムのてっぺんから周りを見ていたり、家の屋根に上って住宅街を見ていたこともあった。

その度におじさんや近所の人がハラハラしながら見てたものだけど、本人は真剣に見ていて、その見た景色をよく絵に描いていたものだ。


「ゆうちゃんは私の絵、好き?」


景色を見ながら聞いて来た彩。

俺は素直な意見を彩に伝えた。


「好きだよ?彩の描く絵はどれも好きだな。昔よりもだいぶ上手くなってるからめちゃくちゃ描いてるんじゃないか?」


絵は描けば描くほど上手くなると言われてるものだ。

幼稚園のころや小学生のころから考えたら驚くほどの量を描いていたことがわかる。


「うーん・・いっぱい描いてるのかなぁ?」

「自覚無しか。・・・画材だって安くないだろ?あまりおじさんを困らせるなよ?」


筆は使い回しがきくとしても、種類が山ほどある。

絵の具やキャンバスなんかは使い回しがきかないから一つずつ買っていかないといけないし、その種類もまた山のようにあるのだ。


「あ、画材は東郷さんが買ってくれる時あるから大丈夫ー。」


その言葉を聞いて、俺は引っかかった。

『東郷』なんて名前の知り合いが彩にいたなんて、俺の記憶にはないのだ。


「彩、『東郷』って?」

「東郷さん?おじさまだよ?いつも長い車に乗ってて、60歳過ぎの人。」

「いや、特徴じゃなくて中身を知りたいんだけど?」

「中身・・・多分私と同じものがあると思うんだけど・・・・」

「内臓的な中身じゃないからな?」

「?」


彩の話し方から考えたらそこそこ金持ちのおっさんのようだ。

長い車はおそらくリムジン、60過ぎてるならもう現場をリタイアしてるのかもしれない。


(経営者か?彩の絵を気に入って画材をプレゼントしてるのか?)


情報が少なすぎて確証が持てない俺はもっと彩から聞き出すことにした。


「彩、その東郷ってやつのこと、おじさんは知ってるのか?」

「知ってるよ?時々なんか話してるー。」

「画材以外になにかもらったりしてるのか?」

「お父さんはお金もらってるー。」

「金・・・。」


これで合点がいった。


「おじさんは彩の絵を売ってるんだな?」

「そうだよ?」

「ちっ・・・」


自分の娘が描いた絵を金に換えるなんてこと、おじさんはしないと思っていた。

警察官っていうこともあるけど、彩の絵が引き金でおばさんが自殺してしまったようなものだからだ。


「無理矢理描かされたりしてないか?描いた絵を売られて嫌だとか思わないか?」


絵を大切にする彩から無理矢理手放させてたとしたら、彩は酷く傷つくだろう。

普段怒ることなんてない彩のことだから、怒らなかったとも考えられる。


「うーん・・嫌ではないよ?東郷さん、私の絵が大好きみたいで『どうしても欲しい』ってお父さんに何度も言うから仕方なく売ってるもん。」

「・・・え?仕方なく?」

「うん。だから画材代をもらって、描いた絵をあげてるー。お父さんはいつも『だめ』って言ってるけど、東郷さんしつこいんだもん。」

「・・・。」


どうも東郷ってやつは彩の絵を気に入り、売って欲しいと頼み込んできたのをおじさんが折れて売ってるらしい。

利益を出さない為に原価である画材代だけもらって渡してるようだ。


「ちなみにいくらで売ってるのか知ってるのか?」

「え?知らない。」

「だろうな・・・。」

「数字はわかるんだけど、金額の大きさがわからないんだもん。だから知らない。」

「あー・・・。」


金に無頓着な彩は、大金を見ようが小銭を見ようがそれを『金』と認識してるだけで他には何も感じないようだった。

必要な分だけあればそれでいいと思ってるタイプだ。


(東郷・・・待てよ?東郷って聞いたことある名前だな・・・。)


そんなことを思いながらドライブをし、陽が暮れたころに俺たちは寿司屋に立ち寄った。

彩が満足するまで寿司を食わせ、帰路につく。


「この後、絵を描くんだろ?ほどほどにしてちゃんと寝ろよ?」


寿司を食べた後から目がずっと輝いてる彩。

もう描きたくて描きたくて仕方なさそうだ。


「ちゃんと寝る!いっぱい描く!」

「ほどほどな。」

「じゃあ、ゆうちゃん、ばいばい!またね!」

「あぁ。・・・もうあの店の周り歩くなよ?」


そう言ったものの、彩の耳には届いてなさそうだった。

『ばいばい!』と言った直後からもう歩き出してしまっていたのだ。


「一応『彩』って名前の女の子はスカウトするなって通達しとくか・・・。」


念には念を入れて置こうと思い、俺は自分の家に帰ったのだった。










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