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彩の気づき。
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彩と海に行ってから数日が経ったある日の昼過ぎ、彩のお父さんがうちを訪ねてきた。
今日は仕事は休みのようでポロシャツにチノパンというラフな格好だ。
「悪いね、雄介くん。」
表用の応接間にお通しし、俺たちは湯飲みに入った茶をすすっていた。
「いえ、うちは構いませんが・・・もう一回確認しますけどうちがどこなのかわかってますよね?」
「わかってるよ?」
どう考えてもお互いに意識する職業なのにこうやってテーブルを挟んでることが違和感だらけだ。
「今日はどういった御用で・・・?」
何の用事もないのにうちに来るなんて考えられずに聞くと、おじさんは優しく微笑んで一言言った。
「雄介くんと取引しようと思って。」
「・・・はい?」
一体何を言い出すのかと思ってると、おじさんの顔から笑みが消えた。
「警察は九条組の行動を監視することになった。」
「監視・・・?」
「最近の仕事ぶり、結構酷いんじゃないかい?目に余りだしてるから締める目的で監視することになったんだよ。・・まぁ、逮捕もあるだろうね。」
「!!」
こんな情報を漏らしていいのかと思いながらも聞いてると、おじさんは急に表情を緩めた。
「もうちょっと取り立てを緩くはしてもらえないかい?だいぶ『船』に乗せてるだろう?それで行方不明届も出てる。」
「それは・・うちのやり方に口を挟むってことですか?」
「そうじゃないよ、口は挟まない。ただもうちょっと緩めてもらわないと九条組にとっても厄介なことになるんじゃないかい?」
「・・・。」
確かに警察に張られると行動が制限されてしまう。
ガサ入れなんてされたらもっと面倒くさいことになるだろう。
「・・・うちから金を借りるやつは暴利を納得したうえで借金してますよ?」
「それは法外だろう?」
「合意の下です。」
「・・・。」
彩の父親といえど警察官に色々話すわけにいかない。
そう思って話していたけど、おじさんは予想の斜め上の言葉を俺に言った。
「・・・『彩の収入を九条組に。』と、言ったら暴利を少し下げてくれるかい?」
「・・・は?」
「今、彩の絵は原価代だけ頂いて売ってる状態なんだけど、本気で売り出したら『船』よりも稼げると思うよ?どうだい?」
「え?・・は?」
おじさんがなぜ俺に彩の絵の話をしてきたのかわからずにぽかんと口を開けてると、おじさんはテーブルの上の茶をすすった。
「彩は『約束』をずっと覚えてる。雄介くんにも責任があるんじゃないかい?」
「それってどういう・・・・」
彩との『約束』の意味が分からなかった俺だったけど、おじさんに聞こうとしたときに応接間の扉の向こうから声が聞こえてきた。
「若、そろそろ時間ですが・・・」
その言葉に腕時計を見ると、家を出る時間になっていた。
今日はホストクラブに出向かないといけないのだ。
「あ・・すみません、おじさん。俺、仕事が・・・」
「あぁ、ごめんね?忙しいのにお邪魔してしまって。・・・雄介くんが昔のままみたいで安心したよ。」
そう言っておじさんは応接間から出て行った。
「『約束』って・・・なんだ?」
ーーーーー
ーーーーー
雄介が『約束』について悩みながら仕事に向かったころ、彩は大学が早く終わり、ホスト街を歩いていた。
画材がたくさん入ったリュックを背負い、絵の具まみれのジーパン姿でスタスタと歩いて行ってる。
「この前、夕陽見れなかったし、今日は時間も早いから絵も描けそう。」
雄介に邪魔されたリベンジをしようと歩いて行く彩に、客引きをする『キャッチ』が声をかけに行く。
「ねぇねぇ!おねぇさん!今日、これからどこ行くのー?」
「陽が暮れるまでだから時間が少ないかなぁ。」
「よかったら俺とLINE交換しないー?」
「あ、また明日来ればいいのか。」
『公園に行く』ことしか頭にない彩は、隣で声をかけられていても気づいていなかった。
夕陽の色を想像し、どの色をどれくらい混ぜ合わせて描くかしか頭にないのだ。
「オレンジと赤と黄色と・・・紫とピンクとかなぁ。何を一緒に描くかで変わりそう・・・やっぱりオレンジのセットかなぁ。」
「おねぇさーん?聞いてるー?・・・てか、おねぇさん、めっちゃ可愛いね!稼げるお店で働かない?」
「噴水を描くなら・・うーん・・・」
「聞いてる!?ねぇ!聞いてる!?」
ガン無視しながら歩いて行く彩を見送ることしかできないキャッチ。
法に触れるから言葉でしか足止めすることしかできないキャッチは諦めるしかなかった。
「ちっ・・・!聞けよ・・・!」
ある程度声をかけたあと諦めたキャッチ。
彩はどの道を通ったら公園に辿り着くのか悩んで足を止めた。
「公園・・どっちだっけ?」
きょろきょろと辺りを見回すと、道路の向こうに見知った顔を見つけた彩。
幼いころ、毎日会っていたその姿は・・・雄介だ。
「ゆうちゃんっ!・・・あ、そうだ!ゆうちゃんなら場所知ってるかも!」
雄介に道を聞こうと思った彩は、右左を確認して道路を渡っていった。
雄介が入っていったであろう場所に迷いなく入っていく。
「地下・・・?なんだか薄暗いなぁ。」
彩が階段を降りると、短い廊下の先に大きな扉が一つあった。
彩はその扉を力いっぱい押して店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ。・・・初めてのご来店でしょうか?」
店の中にいたナビゲーターの黒服男に声をかけられた彩。
その問いかけに答えようとしながらも、目線は雄介を探していた。
「あの、ゆうちゃんがここに来たと思うんですけど・・・」
「『ゆうちゃん』?うちのホストの源氏名でしょうか?」
「えと・・それはちょっとわからない・・・・あ!」
彩の視界に雄介の姿が入り、彩は店の中をずんずん進みだした。
「あ・・!お客さま・・!お待ちください!!」
黒服が追いかけてくるのを他所に、彩は雄介のところに向かって行った。
「ゆうちゃん!」
そう声をかけると雄介は驚いた顔をして彩を見ていた。
「彩!?おまっ・・・なんでここに!?」
「ゆうちゃんの姿が見えたから追いかけて来たー!あのね?ゆうちゃんに聞きたいことが・・・・」
彩が公園の場所を聞こうとしたとき、雄介の周りを3人の女が囲ってることに気がついた彩。
それは向こうも同じで、急に入って来た彩に敵対心を出していた。
「ちょっとー!この女、なんなのー?」
「雄介さんは私たちが指名したんだから邪魔しないでくれる!?」
「そうよ!さっさと出て行ってよ!!」
そう言われ、彩は意味が分からずその女たちをじっと見つめた。
「え?」
「『え?』じゃないわよ!お金払って雄介さん指名してるんだから邪魔すんなって言ってんのよ!」
「お金?」
「滅多に来ない雄介さんとの時間を買ってるんだからさっさと出て行けよ!おい!黒服!」
雄介との時間を邪魔された女たちはだんだん口が悪くなり始めていた。
そんな言葉を聞いたことない彩は自分の頭の中で状況を整理していた。
(ゆうちゃんとの時間をお金で買う?時間って買えるの?)
彩はよくわからずに女たちを見てると、女たちが雄介の体に手を這わせ始めたのが目に入った。
頬や首、肩に背中、それに太ももなんかを撫でまわしてるのが目に入り、彩はその行動が無性に『嫌』だと思った。
「・・・お金があればゆうちゃんを返してくれるの?」
そう女たちに聞くなり、彩はリュックのポケットから財布を取り出した。
そして持っていた2435円をテーブルに出していった。
「あっはっは!そんなはした金で雄介さんを指名なんてできるわけないじゃない!」
「足りないの?」
「足りないもなにも話にすらならないわよ!ばっかみたい!」
持っていたお金じゃ足りないことを知り、彩は踵を返して店から出て行った。
薄暗くて短い廊下を抜け、階段を駆け上がっていく。
「お金・・・お金・・・」
たくさんの金が欲しいと思った彩は一旦家に帰ろうと、足を向けていた。
父親に相談しようと思っていたのだ。
「お父さん・・・帰ってきてるかなぁ。」
そんな不安を感じながら歩き出したとき、彩を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あれ?彩ちゃん?こんなところでどうしたの?」
その声がする方を見ると、そこに『東郷』の姿があったのだ。
「おじさん・・!」
「彩ちゃんがホストにハマるとは思えないんだけど・・・」
車の中から窓を開けて声をかけていた東郷。
彩は藁をもすがる思いでその窓に手をかけた。
「おじさん!私の絵を買って!!」
「お・・おぉ・・?どうしたの?急に・・・」
「お金が欲しいの!ゆうちゃんが取られちゃう!」
「?・・・どういうことか順番に聞かせてくれる?」
彩はさっき見たことと聞いたことを東郷に話していった。
公園の場所が分からなくなって雄介に聞こうとしたけど、話をする前に女たちに邪魔されたこと。
そして『金を払ってないのだから邪魔するな』と言われたことを。
「なるほど。ホストクラブみたいだね。」
「ゆうちゃん、取られちゃう・・・。」
「取られはしないだろうけど・・・その『ゆうちゃん』は彩ちゃんに取って大事な人なんだね?」
そう東郷に聞かれ、彩はまっすぐ東郷の目を見て答えた。
「ゆうちゃんは私に『彩(いろ)』をくれた人なの。世界で一番大切。」
「・・・わかった。おじさんがお金を出してあげるよ。」
そう言って東郷は車から降りた。
そして車の後ろにあるトランクを開け、アタッシュケースを一つ取り出す。
「これは前払い。」
そう言ってアタッシュケースをパカッと開けた。
「前払い?」
「そう、このお金を払うから今度、うちの壁一面に絵を描いてくれないかい?」
「壁一面・・・」
「必要になりそうなものは用意しておくよ。彩ちゃんが自分で持ってきてくれても構わないし、何日かかってくれてもいい。このお金はその代金ね、わかる?」
東郷の言葉に、彩は首を何度も縦に振った。
「おじさんの家に行って、絵を描けばいいんだよね?」
「そういうこと。・・・っと、これをそのまま渡したんじゃちょっと面白くないな。」
「?」
東郷は空の紙袋を一つ取り、その中に札束を入れていった。
もちろん、帯は切った状態で。
「いいかい?彩ちゃん。これはこうして・・・・」
東郷はちょっとした演出まで彩に伝授し、札束が入った紙袋を彩に手渡した。
「時間ある時に電話して?前に名刺渡したでしょ?」
「わかりました!おじさん、ありがとう・・・っ!」
彩は渡された紙袋を手に持ち、店に駆け戻っていったのだった。
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彩と海に行ってから数日が経ったある日の昼過ぎ、彩のお父さんがうちを訪ねてきた。
今日は仕事は休みのようでポロシャツにチノパンというラフな格好だ。
「悪いね、雄介くん。」
表用の応接間にお通しし、俺たちは湯飲みに入った茶をすすっていた。
「いえ、うちは構いませんが・・・もう一回確認しますけどうちがどこなのかわかってますよね?」
「わかってるよ?」
どう考えてもお互いに意識する職業なのにこうやってテーブルを挟んでることが違和感だらけだ。
「今日はどういった御用で・・・?」
何の用事もないのにうちに来るなんて考えられずに聞くと、おじさんは優しく微笑んで一言言った。
「雄介くんと取引しようと思って。」
「・・・はい?」
一体何を言い出すのかと思ってると、おじさんの顔から笑みが消えた。
「警察は九条組の行動を監視することになった。」
「監視・・・?」
「最近の仕事ぶり、結構酷いんじゃないかい?目に余りだしてるから締める目的で監視することになったんだよ。・・まぁ、逮捕もあるだろうね。」
「!!」
こんな情報を漏らしていいのかと思いながらも聞いてると、おじさんは急に表情を緩めた。
「もうちょっと取り立てを緩くはしてもらえないかい?だいぶ『船』に乗せてるだろう?それで行方不明届も出てる。」
「それは・・うちのやり方に口を挟むってことですか?」
「そうじゃないよ、口は挟まない。ただもうちょっと緩めてもらわないと九条組にとっても厄介なことになるんじゃないかい?」
「・・・。」
確かに警察に張られると行動が制限されてしまう。
ガサ入れなんてされたらもっと面倒くさいことになるだろう。
「・・・うちから金を借りるやつは暴利を納得したうえで借金してますよ?」
「それは法外だろう?」
「合意の下です。」
「・・・。」
彩の父親といえど警察官に色々話すわけにいかない。
そう思って話していたけど、おじさんは予想の斜め上の言葉を俺に言った。
「・・・『彩の収入を九条組に。』と、言ったら暴利を少し下げてくれるかい?」
「・・・は?」
「今、彩の絵は原価代だけ頂いて売ってる状態なんだけど、本気で売り出したら『船』よりも稼げると思うよ?どうだい?」
「え?・・は?」
おじさんがなぜ俺に彩の絵の話をしてきたのかわからずにぽかんと口を開けてると、おじさんはテーブルの上の茶をすすった。
「彩は『約束』をずっと覚えてる。雄介くんにも責任があるんじゃないかい?」
「それってどういう・・・・」
彩との『約束』の意味が分からなかった俺だったけど、おじさんに聞こうとしたときに応接間の扉の向こうから声が聞こえてきた。
「若、そろそろ時間ですが・・・」
その言葉に腕時計を見ると、家を出る時間になっていた。
今日はホストクラブに出向かないといけないのだ。
「あ・・すみません、おじさん。俺、仕事が・・・」
「あぁ、ごめんね?忙しいのにお邪魔してしまって。・・・雄介くんが昔のままみたいで安心したよ。」
そう言っておじさんは応接間から出て行った。
「『約束』って・・・なんだ?」
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雄介が『約束』について悩みながら仕事に向かったころ、彩は大学が早く終わり、ホスト街を歩いていた。
画材がたくさん入ったリュックを背負い、絵の具まみれのジーパン姿でスタスタと歩いて行ってる。
「この前、夕陽見れなかったし、今日は時間も早いから絵も描けそう。」
雄介に邪魔されたリベンジをしようと歩いて行く彩に、客引きをする『キャッチ』が声をかけに行く。
「ねぇねぇ!おねぇさん!今日、これからどこ行くのー?」
「陽が暮れるまでだから時間が少ないかなぁ。」
「よかったら俺とLINE交換しないー?」
「あ、また明日来ればいいのか。」
『公園に行く』ことしか頭にない彩は、隣で声をかけられていても気づいていなかった。
夕陽の色を想像し、どの色をどれくらい混ぜ合わせて描くかしか頭にないのだ。
「オレンジと赤と黄色と・・・紫とピンクとかなぁ。何を一緒に描くかで変わりそう・・・やっぱりオレンジのセットかなぁ。」
「おねぇさーん?聞いてるー?・・・てか、おねぇさん、めっちゃ可愛いね!稼げるお店で働かない?」
「噴水を描くなら・・うーん・・・」
「聞いてる!?ねぇ!聞いてる!?」
ガン無視しながら歩いて行く彩を見送ることしかできないキャッチ。
法に触れるから言葉でしか足止めすることしかできないキャッチは諦めるしかなかった。
「ちっ・・・!聞けよ・・・!」
ある程度声をかけたあと諦めたキャッチ。
彩はどの道を通ったら公園に辿り着くのか悩んで足を止めた。
「公園・・どっちだっけ?」
きょろきょろと辺りを見回すと、道路の向こうに見知った顔を見つけた彩。
幼いころ、毎日会っていたその姿は・・・雄介だ。
「ゆうちゃんっ!・・・あ、そうだ!ゆうちゃんなら場所知ってるかも!」
雄介に道を聞こうと思った彩は、右左を確認して道路を渡っていった。
雄介が入っていったであろう場所に迷いなく入っていく。
「地下・・・?なんだか薄暗いなぁ。」
彩が階段を降りると、短い廊下の先に大きな扉が一つあった。
彩はその扉を力いっぱい押して店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ。・・・初めてのご来店でしょうか?」
店の中にいたナビゲーターの黒服男に声をかけられた彩。
その問いかけに答えようとしながらも、目線は雄介を探していた。
「あの、ゆうちゃんがここに来たと思うんですけど・・・」
「『ゆうちゃん』?うちのホストの源氏名でしょうか?」
「えと・・それはちょっとわからない・・・・あ!」
彩の視界に雄介の姿が入り、彩は店の中をずんずん進みだした。
「あ・・!お客さま・・!お待ちください!!」
黒服が追いかけてくるのを他所に、彩は雄介のところに向かって行った。
「ゆうちゃん!」
そう声をかけると雄介は驚いた顔をして彩を見ていた。
「彩!?おまっ・・・なんでここに!?」
「ゆうちゃんの姿が見えたから追いかけて来たー!あのね?ゆうちゃんに聞きたいことが・・・・」
彩が公園の場所を聞こうとしたとき、雄介の周りを3人の女が囲ってることに気がついた彩。
それは向こうも同じで、急に入って来た彩に敵対心を出していた。
「ちょっとー!この女、なんなのー?」
「雄介さんは私たちが指名したんだから邪魔しないでくれる!?」
「そうよ!さっさと出て行ってよ!!」
そう言われ、彩は意味が分からずその女たちをじっと見つめた。
「え?」
「『え?』じゃないわよ!お金払って雄介さん指名してるんだから邪魔すんなって言ってんのよ!」
「お金?」
「滅多に来ない雄介さんとの時間を買ってるんだからさっさと出て行けよ!おい!黒服!」
雄介との時間を邪魔された女たちはだんだん口が悪くなり始めていた。
そんな言葉を聞いたことない彩は自分の頭の中で状況を整理していた。
(ゆうちゃんとの時間をお金で買う?時間って買えるの?)
彩はよくわからずに女たちを見てると、女たちが雄介の体に手を這わせ始めたのが目に入った。
頬や首、肩に背中、それに太ももなんかを撫でまわしてるのが目に入り、彩はその行動が無性に『嫌』だと思った。
「・・・お金があればゆうちゃんを返してくれるの?」
そう女たちに聞くなり、彩はリュックのポケットから財布を取り出した。
そして持っていた2435円をテーブルに出していった。
「あっはっは!そんなはした金で雄介さんを指名なんてできるわけないじゃない!」
「足りないの?」
「足りないもなにも話にすらならないわよ!ばっかみたい!」
持っていたお金じゃ足りないことを知り、彩は踵を返して店から出て行った。
薄暗くて短い廊下を抜け、階段を駆け上がっていく。
「お金・・・お金・・・」
たくさんの金が欲しいと思った彩は一旦家に帰ろうと、足を向けていた。
父親に相談しようと思っていたのだ。
「お父さん・・・帰ってきてるかなぁ。」
そんな不安を感じながら歩き出したとき、彩を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あれ?彩ちゃん?こんなところでどうしたの?」
その声がする方を見ると、そこに『東郷』の姿があったのだ。
「おじさん・・!」
「彩ちゃんがホストにハマるとは思えないんだけど・・・」
車の中から窓を開けて声をかけていた東郷。
彩は藁をもすがる思いでその窓に手をかけた。
「おじさん!私の絵を買って!!」
「お・・おぉ・・?どうしたの?急に・・・」
「お金が欲しいの!ゆうちゃんが取られちゃう!」
「?・・・どういうことか順番に聞かせてくれる?」
彩はさっき見たことと聞いたことを東郷に話していった。
公園の場所が分からなくなって雄介に聞こうとしたけど、話をする前に女たちに邪魔されたこと。
そして『金を払ってないのだから邪魔するな』と言われたことを。
「なるほど。ホストクラブみたいだね。」
「ゆうちゃん、取られちゃう・・・。」
「取られはしないだろうけど・・・その『ゆうちゃん』は彩ちゃんに取って大事な人なんだね?」
そう東郷に聞かれ、彩はまっすぐ東郷の目を見て答えた。
「ゆうちゃんは私に『彩(いろ)』をくれた人なの。世界で一番大切。」
「・・・わかった。おじさんがお金を出してあげるよ。」
そう言って東郷は車から降りた。
そして車の後ろにあるトランクを開け、アタッシュケースを一つ取り出す。
「これは前払い。」
そう言ってアタッシュケースをパカッと開けた。
「前払い?」
「そう、このお金を払うから今度、うちの壁一面に絵を描いてくれないかい?」
「壁一面・・・」
「必要になりそうなものは用意しておくよ。彩ちゃんが自分で持ってきてくれても構わないし、何日かかってくれてもいい。このお金はその代金ね、わかる?」
東郷の言葉に、彩は首を何度も縦に振った。
「おじさんの家に行って、絵を描けばいいんだよね?」
「そういうこと。・・・っと、これをそのまま渡したんじゃちょっと面白くないな。」
「?」
東郷は空の紙袋を一つ取り、その中に札束を入れていった。
もちろん、帯は切った状態で。
「いいかい?彩ちゃん。これはこうして・・・・」
東郷はちょっとした演出まで彩に伝授し、札束が入った紙袋を彩に手渡した。
「時間ある時に電話して?前に名刺渡したでしょ?」
「わかりました!おじさん、ありがとう・・・っ!」
彩は渡された紙袋を手に持ち、店に駆け戻っていったのだった。
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