私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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報告に応える母の笑み

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「まあ、きれい」

私の声が宙に舞った。ヴィクトル様からいただいた青い石の髪飾りを、午後の光に向けて掲げる。光がきらきらと散って、とてもきれいだった。

「ヴィクトル様ったら、私の好きな色、覚えていてくださったのね」

私はエリザベート・フェルナンド。しがない男爵家の娘。けれど、近々ハリントン伯爵家のヴィクトル様と結婚することになっている。本当に夢みたい。伯爵家の嫡男であるヴィクトル様は、それはもう、王子様みたいに素敵で優しくて、私みたいな貧乏貴族の娘にはもったいないくらいの方。

胸に抱えた幸福感を母の部屋へ運ぶ。我が家――フェルナンド男爵邸は、邸というよりは少し大きな田舎家といったほうがしっくりくるくらい。質素で古くてあちこちが軋む。けれど、母と二人で暮らすこの家が、私は大好きだった。

「お母様」

書斎で帳簿を眺めていた母、シャーロット・フェルナンドが顔を上げた。父が亡くなってから、母がこの家の当主だ。女手一つで、傾きかけた家を懸命に支えてくれている。少しごわごわした指先を見るたびに胸がきゅっとする。私の自慢の働き者で優しくて、世界で一番美しいお母様。

「どうしたの、エリザベート。そんなに頬を赤くして」
「あの、ヴィクトル様のこと、なのですけれど」

私は、もじもじしながら切り出した。

「私、やはり、ヴィクトル様と結婚したいです」

母は、ぱちぱちと何度か瞬きをすると柔らかく微笑んだ。その笑顔は、庭に咲く白薔薇みたいに気高かった。

「そう。あなたがそう思うのなら、私は反対しませんよ」
「本当ですか?」
「ええ。あなたの幸せが、私の幸せですもの」

ああ、よかった。私は母に抱きついた。石鹸のようないい匂いがする。

「ありがとうございます、お母様!」
「ふふ。でもね、エリザベート」

母は私の背中を優しく撫でながら、そっと囁くように言った。

「あなたの選んだ相手が、本当にあなたを幸せにしてくれる人なのかどうか。この目で、しっかり見極めさせてちょうだいね」
「え……?」

私は顔を上げた。母の瞳は穏やかなようで、その奥に何があるのか私には少しも読み取れなかった。

「お母様? それ、どういう意味ですか?」
「うふふ。大丈夫。もうすぐ、ハリントン伯爵家の方々と、正式な顔合わせの席を設けることになりましたから」

母は私の疑問には答えず、ただ楽しそうに笑うだけだった。

「その時に、わかりますよ」

その言葉の意味を、私はまだ知る由もなかった。ただ、ヴィクトル様との未来を夢見て、胸をときめかせるばかりだったのだ。
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