私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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婚約者の家族の態度

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顔合わせの日、私は母と一緒に伯爵家を訪れた。ハリントン伯爵邸の門をくぐった瞬間、私は違う世界に迷い込んだような気持ちになった。磨き上げられた大理石の床、天井からは宝石のようなシャンデリアが吊るされ、壁には金縁の見事な絵画が何枚も飾られている。私の家の古びた木製の扉とは、すべてが異なっていた。

「ようこそ、フェルナンド男爵、エリザベート嬢」

出迎えてくださったのは、ヴィクトル様のお父様であるジェラルド・ハリントン伯爵と、お母様のイザベラ夫人だった。お二人は上質な絹の衣装に身を包む。その後ろには優しく微笑むヴィクトル様が立っていた。

「本日はお招きいただき、光栄ですわ」

母が優雅にカーテシーをした。その仕草を見て、私は思わず胸を撫で下ろした。しかし、その安堵の気持ちは、次の瞬間には氷のように凍りついてしまった。

母の姿を見たハリントン伯爵夫妻の顔から、すっと笑みが消えたのだ。

それも、そのはずだった。

母は、今日はなぜか? いつもの仕事着の古くて色あせたの服を着てきた。髪は無造作に後ろで束ねられ、その手には帳簿のインクが少しつき、服には掃除後の汚れが少しついていた。

「……まさか、これほどまでに貧しい家だとは、思いませんでしたわ」

イザベラ夫人は扇で口元を隠しながら、意地の悪い声で言った。その目は、まるで汚らわしい虫を見るように、母を頭のてっぺんからつま先までじろりと見下ろしていた。

「あなたが、フェルナンド男爵家の……当主? これは驚いた。まるで、裏口から入ってきた下女のようだ」

ジェラルド伯爵は、隠そうともせずに鼻でふん、と笑った。

私は、かあっと顔に血がのぼるのがわかった。母に向かってなんて、ひどいことを言うのだろう。

「お、お母様は!」

私が何か言おうとする前に、母が私の腕をそっと掴んだ。大丈夫よとでも言うように、にこりと微笑んだ。

「申し訳ありません。仕事着のままで、着替える暇もございませんでしたの。この度、息子様と我が娘のご婚約、誠に喜ばしく……」

「黙りなさい! 卑しい者め!」

イザベラ夫人の声が、鞭のようにしなった。

「誰があなたに口を開くことを許しました? ああ、汚らわしい。ヴィクトル、あなた、本当にこんな家の娘を伴侶にするつもりなの?」

「母上……」

ヴィクトル様は、困ったように眉を寄せ、私とお母様と、ご両親の顔を交互に見ている。

(何か言って、ヴィクトル様。私の婚約者でしょう? この人たちは、私の大切なお母様を馬鹿にしているのよ)

けれど、ヴィクトル様の口から出たのは、期待していた言葉ではなかった。

「……父上、母上、まあ落ち着いてください。こんな貧乏で汚らしい母と娘でも、一応は客人なのですから」

彼は、私を守ろうとはしなかった。母を庇おうともしなかった。それどころか、私と母を侮辱した。彼から、そんなことを言われるなんて思わなかった。
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