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第3話
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「そういえばマリア。フレッド様とは、うまくいっているの?」
姉様が、ふと真面目な顔で尋ねてきた。私の痩せたことを気にしていたらしい。
「ええ、もちろん! フレッド様は、とても素敵な方よ」
「そう……。でも、なんだかあなた、少し元気がないように見えるわ。無理、してない?」
鋭い。姉様には、いつもこうだ。私の小さな心の揺らぎも、すぐに見抜かれてしまう。
「ううん、そんなことないわ。ただ、フレッド様はお忙しい方だから……少し、寂しいだけ」
そう言って笑ってみせると、姉様はそれ以上は何も言わず、ただ私の頭を優しく撫でてくれた。そう、とだけ呟いたその声には、どこか寂しそうな雰囲気がにじんでいるように思えた。
◇
大神官フレッド様がアルンハイム伯爵家を訪れたのは、その日の午後だった。
突然の来訪に、屋敷はにわかに活気づいた。私も慌てて身なりを整え、姉様たちと一緒に応接室で彼を待つ。心臓がどきどきと高鳴る。久しぶりに会える嬉しさと、姉様たちに紹介する緊張が入り混じる。
「やあ、マリア。急に来てしまってすまない」
扉が開かれ、現れたフレッド様は、いつもと変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべていた。純白の祭服が、彼の清廉さを際立たせている。ああ、やっぱり素敵だ。会えなかった間の寂しさなんて、この笑顔ひとつで吹き飛んでしまいそう。
「フレッド様! いいえ、お越しいただけて嬉しいですわ。こちら、紹介します。私の姉のカミーユと、義兄のヒューゴ様です」
私がそう言うと、フレッド様は姉様の方へ一歩進み出た。
「お姉様、初めまして。大神官のフレッドと申します。あなたのことは、いつもマリアから――いえ、それ以上に、その美しさと気品に満ちたご活躍の噂で、かねがね耳にしておりました」
その目が、まるで光を追う蝶のように、うっとりと姉を見つめていた。
おだやかな微笑み。上品な言葉遣い。けれど、私にはわかってしまった。
――なにか、おかしい。
いつものフレッド様じゃない。彼の瞳には、私が今まで見たことのない種類の熱が、ギラギラと宿っていた。それは聖職者の慈愛の光ではなく、もっと俗世的な、欲望の色だった。
ヒューゴ様が、面白くなさそうに片眉を上げる。
「これはご丁寧に、大神官殿。妻がいつもお噂になっております」
表面上は丁寧ながらも、どこか刺すような皮肉がにじんでいた。ヒューゴ様の挨拶にも、フレッド様は気づかない。いや、気づいていても、気にしていない。彼の意識は、すべてカミーユ姉様に注がれていた。
「お姉様のように気品ある方こそ、神の御前にふさわしい。ああ、このような美しさは、本当に、神様からの贈り物のようですね。あなたのような方が妹君を支えてくださるなら、私も安心してマリアを妻に迎えられます」
私の隣で、ヒューゴ様がわざとらしく苦笑した。けれど、私はもう笑うことすらできなかった。心臓が、嫌な音を立てて脈打っている。
それでも信じたかった。フレッド様は、たまたま緊張しているだけかもしれない。姉様のあまりの美しさに、少し舞い上がってしまっただけかもしれないって。私が愛した彼は、こんな人じゃないはずだ。
お願い、フレッド様。いつものあなたに戻って。
だが、私の必死の願いは、次の言葉で無慈悲に打ち砕かれた。
彼は私の方をちらりと見て、まるで汚いものでも見るかのような目を、一瞬だけ向けた。
「マリア、お前ももう少し……そうだな、姉上のように気を遣ってみたらどうだ? 服装も髪型も、少しは見習えよ」
大神官フレッド様の丁寧さに欠ける、粗雑な言葉遣い。
しん、と応接室が凍りついたような沈黙に包まれた。メイドが運んできたティーセットのカップが、ソーサーの上でかちゃりと小さな音を立てたのが、やけに大きく響いた。
姉様が、ふと真面目な顔で尋ねてきた。私の痩せたことを気にしていたらしい。
「ええ、もちろん! フレッド様は、とても素敵な方よ」
「そう……。でも、なんだかあなた、少し元気がないように見えるわ。無理、してない?」
鋭い。姉様には、いつもこうだ。私の小さな心の揺らぎも、すぐに見抜かれてしまう。
「ううん、そんなことないわ。ただ、フレッド様はお忙しい方だから……少し、寂しいだけ」
そう言って笑ってみせると、姉様はそれ以上は何も言わず、ただ私の頭を優しく撫でてくれた。そう、とだけ呟いたその声には、どこか寂しそうな雰囲気がにじんでいるように思えた。
◇
大神官フレッド様がアルンハイム伯爵家を訪れたのは、その日の午後だった。
突然の来訪に、屋敷はにわかに活気づいた。私も慌てて身なりを整え、姉様たちと一緒に応接室で彼を待つ。心臓がどきどきと高鳴る。久しぶりに会える嬉しさと、姉様たちに紹介する緊張が入り混じる。
「やあ、マリア。急に来てしまってすまない」
扉が開かれ、現れたフレッド様は、いつもと変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべていた。純白の祭服が、彼の清廉さを際立たせている。ああ、やっぱり素敵だ。会えなかった間の寂しさなんて、この笑顔ひとつで吹き飛んでしまいそう。
「フレッド様! いいえ、お越しいただけて嬉しいですわ。こちら、紹介します。私の姉のカミーユと、義兄のヒューゴ様です」
私がそう言うと、フレッド様は姉様の方へ一歩進み出た。
「お姉様、初めまして。大神官のフレッドと申します。あなたのことは、いつもマリアから――いえ、それ以上に、その美しさと気品に満ちたご活躍の噂で、かねがね耳にしておりました」
その目が、まるで光を追う蝶のように、うっとりと姉を見つめていた。
おだやかな微笑み。上品な言葉遣い。けれど、私にはわかってしまった。
――なにか、おかしい。
いつものフレッド様じゃない。彼の瞳には、私が今まで見たことのない種類の熱が、ギラギラと宿っていた。それは聖職者の慈愛の光ではなく、もっと俗世的な、欲望の色だった。
ヒューゴ様が、面白くなさそうに片眉を上げる。
「これはご丁寧に、大神官殿。妻がいつもお噂になっております」
表面上は丁寧ながらも、どこか刺すような皮肉がにじんでいた。ヒューゴ様の挨拶にも、フレッド様は気づかない。いや、気づいていても、気にしていない。彼の意識は、すべてカミーユ姉様に注がれていた。
「お姉様のように気品ある方こそ、神の御前にふさわしい。ああ、このような美しさは、本当に、神様からの贈り物のようですね。あなたのような方が妹君を支えてくださるなら、私も安心してマリアを妻に迎えられます」
私の隣で、ヒューゴ様がわざとらしく苦笑した。けれど、私はもう笑うことすらできなかった。心臓が、嫌な音を立てて脈打っている。
それでも信じたかった。フレッド様は、たまたま緊張しているだけかもしれない。姉様のあまりの美しさに、少し舞い上がってしまっただけかもしれないって。私が愛した彼は、こんな人じゃないはずだ。
お願い、フレッド様。いつものあなたに戻って。
だが、私の必死の願いは、次の言葉で無慈悲に打ち砕かれた。
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「マリア、お前ももう少し……そうだな、姉上のように気を遣ってみたらどうだ? 服装も髪型も、少しは見習えよ」
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