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第13話
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「ふふ、フレッド様、くすぐったいわ」
「はは、カミーユ。君は本当に、水に濡れても美しいな」
頭が、真っ白になる。
信じてたのに。
お姉様、信じてたのに……!
絶望が、喉までせり上がってくる。悲鳴をあげて、今すぐこの場から逃げ出したかった。しかし、次の瞬間、フレッドが吐き捨てた言葉が、まるで足が床に貼りついたように、その場に立ち尽くした。
「ほんっとうに君は綺麗だな……カミーユ。まるで光の女神が舞い降りたようだ」
フレッドの、甘ったるい声だった。ぞくりと背筋が凍りつき、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「もう、そんな大げさな……。でも嬉しいわ、フレッド」
姉の、カミーユの声。
その瞬間、脳が真っ白になった。
立っていられないほどの衝撃。壁に手をつかなければ、そのまま崩れ落ちてしまいそうだった。
どうして。なぜ。
私の結婚式の、前夜に。
涙が溢れそうになる。叫び出してしまいそうになる。
でも――。
不思議と、心のどこか冷静な部分が、私にささやいていた。
“ここで騒いではだめ。泣いても、何も解決しない”
そうだ。泣いてどうなる。ここで私が泣き崩れたら、この人たちはきっと『マリアが可哀想だから』なんて言いながら、うまく言いくるめて、結局は何も変わらないまま明日を迎えるだけだ。
それだけは、絶対に嫌だ。
――ブツン。
私の中で、何かが切れる音がした。
悲しみも、絶望も、一瞬でどこかへ消え去った。代わりに、体の芯から、氷のように冷たい、燃え盛るような激しい怒りが湧き上がってきた。
涙は、一滴も出なかった。
よくも、そんなことが言えたものだ。私の純情を、私の家族を、私たちの思い出を、何もかも踏みにじっておいて。
姉様も、ヒューゴ様を裏切って……許せない!
私は、無言で懐から小さな魔道具――記録用の小型水晶球(レコード・クリスタル)を取り出した。手のひらサイズの水晶で、見た光景を映像と音声付きで、寸分違わず記録できるという代物だ。ヒューゴ様が、万が一のためにと、護身用に持たせてくれた。
こんな形で、これを使うことになるなんて。
震える指で起動スイッチを押す。水晶が、かすかな光を放った。
私はそれを、そっとドアの磨りガラスの、少しだけ透けて見える部分に向けた。
そこには、湯気にけむる中、濡れた肩を寄せ合いながら笑い合うフレッドと姉様の姿が、確かにあった。フレッドの腕が、姉の腰に回されている。
映像だけではない。声も、はっきりと拾っていた。
「……それにしても、あいつは、可愛げがない。話していても退屈でさ。大神官の妻としては無難だが、やはり君のような刺激が欲しかった」
「だって私、あの子よりずっと美人だし……ふふっ」
「明日の式が終われば、あいつは、用済みだ。あとは君と二人で……」
「妹は、昔から地味で、いつも私の引き立て役でね」
「カミーユと比べられること自体、気の毒だな」
「華がないっていうのかしらね、まあ、私の隣にいるには都合がよかったわ」
「ひどい姉だな、あはははは!」
“あいつ” “引き立て役”
地味で、可愛げがない?
用済み?
それは、私のことだった。
指先が氷のように冷たくなった。でも、私は泣かなかった。叫びもしなかった。
フレッドの甘い声も。姉の楽しそうな声も。二人が交わす、私を貶める言葉も。
すべてが、この中に。
十分な証拠が記録できたことを確認し、私は魔道具を懐にしまうと、静かにその場を立ち去った。
「はは、カミーユ。君は本当に、水に濡れても美しいな」
頭が、真っ白になる。
信じてたのに。
お姉様、信じてたのに……!
絶望が、喉までせり上がってくる。悲鳴をあげて、今すぐこの場から逃げ出したかった。しかし、次の瞬間、フレッドが吐き捨てた言葉が、まるで足が床に貼りついたように、その場に立ち尽くした。
「ほんっとうに君は綺麗だな……カミーユ。まるで光の女神が舞い降りたようだ」
フレッドの、甘ったるい声だった。ぞくりと背筋が凍りつき、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「もう、そんな大げさな……。でも嬉しいわ、フレッド」
姉の、カミーユの声。
その瞬間、脳が真っ白になった。
立っていられないほどの衝撃。壁に手をつかなければ、そのまま崩れ落ちてしまいそうだった。
どうして。なぜ。
私の結婚式の、前夜に。
涙が溢れそうになる。叫び出してしまいそうになる。
でも――。
不思議と、心のどこか冷静な部分が、私にささやいていた。
“ここで騒いではだめ。泣いても、何も解決しない”
そうだ。泣いてどうなる。ここで私が泣き崩れたら、この人たちはきっと『マリアが可哀想だから』なんて言いながら、うまく言いくるめて、結局は何も変わらないまま明日を迎えるだけだ。
それだけは、絶対に嫌だ。
――ブツン。
私の中で、何かが切れる音がした。
悲しみも、絶望も、一瞬でどこかへ消え去った。代わりに、体の芯から、氷のように冷たい、燃え盛るような激しい怒りが湧き上がってきた。
涙は、一滴も出なかった。
よくも、そんなことが言えたものだ。私の純情を、私の家族を、私たちの思い出を、何もかも踏みにじっておいて。
姉様も、ヒューゴ様を裏切って……許せない!
私は、無言で懐から小さな魔道具――記録用の小型水晶球(レコード・クリスタル)を取り出した。手のひらサイズの水晶で、見た光景を映像と音声付きで、寸分違わず記録できるという代物だ。ヒューゴ様が、万が一のためにと、護身用に持たせてくれた。
こんな形で、これを使うことになるなんて。
震える指で起動スイッチを押す。水晶が、かすかな光を放った。
私はそれを、そっとドアの磨りガラスの、少しだけ透けて見える部分に向けた。
そこには、湯気にけむる中、濡れた肩を寄せ合いながら笑い合うフレッドと姉様の姿が、確かにあった。フレッドの腕が、姉の腰に回されている。
映像だけではない。声も、はっきりと拾っていた。
「……それにしても、あいつは、可愛げがない。話していても退屈でさ。大神官の妻としては無難だが、やはり君のような刺激が欲しかった」
「だって私、あの子よりずっと美人だし……ふふっ」
「明日の式が終われば、あいつは、用済みだ。あとは君と二人で……」
「妹は、昔から地味で、いつも私の引き立て役でね」
「カミーユと比べられること自体、気の毒だな」
「華がないっていうのかしらね、まあ、私の隣にいるには都合がよかったわ」
「ひどい姉だな、あはははは!」
“あいつ” “引き立て役”
地味で、可愛げがない?
用済み?
それは、私のことだった。
指先が氷のように冷たくなった。でも、私は泣かなかった。叫びもしなかった。
フレッドの甘い声も。姉の楽しそうな声も。二人が交わす、私を貶める言葉も。
すべてが、この中に。
十分な証拠が記録できたことを確認し、私は魔道具を懐にしまうと、静かにその場を立ち去った。
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