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第14話
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忘れ物のブローチなど、もうどうでもよかった。
私は一度、誰もいない自室へと戻り、鏡の前に立った。
鏡に映る私の顔は、青ざめてはいたが、その瞳は、情熱に燃えて輝いていた。
もう、泣き虫で、おどおどした伯爵令嬢マリアはどこにもいない。
私は、復讐の女神になったのだ。
涙は一滴も出なかった。
悲しみよりも、怒りよりも、もっと冷たい何かが、私の心を支配していた。
明日の朝には、すべてを終わらせる。
この茶番を、私の手で。
何事もなかったかのように、私は屋敷の談話室へと向かった。そこでは、両親とヒューゴ様が、まだ起きて最後の打ち合わせをしていた。
扉を開けた私に、母様が尋ねる。
「あらマリア、忘れ物は見つかったの?」
「ええ、母様。見つかりましたわ。それどころか、もっと〝素晴らしいもの〟を見つけてしまいましたの」
私は、聖女のような微笑みを浮かべて言った。
「皆様、明日の結婚式の前に、今一度、最終確認をいたしませんこと? 大神官様と、姉様にも、ぜひお越しいただいて」
私のただならぬ気配に、両親とヒューゴ様は、どこか納得のいかない表情を浮かべつつ、無言で頷いた。
◇
数時間後。
アルンハイム家の談話室には、異様な緊張感が漂っていた。
私の両親、そしてヒューゴ様。突然の呼び出しに応じることになった。フレッドの両親である侯爵夫妻と、神殿の重鎮たち。
そして、少し遅れて、フレッドとカミーユ姉様が、何食わぬ顔で部屋に入ってきた。二人とも、身なりを整え、完璧な笑顔を貼り付けている。姉様は、私と目が合うと、少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。その完璧な演技に、吐き気すら覚える。
全ての役者が、この断罪の舞台に揃った。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。明日の晴れやかな日を前に、皆様にぜひともご覧いただきたいものがございます」
部屋中の視線が、私に集まる。
「それは、私の婚約者である大神官フレッド様の、そして、私が心の底から敬愛しておりました、姉カミーユの、偽りのない真のお姿ですわ」
私がそう宣言すると、フレッドと姉様の顔が、さっとこわばった。
私は構わず、ドレスの懐から、あの記憶水晶を取り出した。そして、迷いなく魔力を注ぎ込む。
水晶は、まばゆい光を放ち、部屋の中央の空間に、くっきりと立体的な映像を投影し始めた。
『……それにしても、あいつは、可愛げがない。話していても退屈でさ。大神官の妻としては無難だが、やはり君のような刺激が欲しかった』
『だって私、あの子よりずっと美人だし……ふふっ』
『明日の式が終われば、あいつは、用済みだ。あとは君と二人で……』
談話室に、甘ったるい声が響き渡る。
そこに映し出されたのは、先ほどの浴室での、二人のあられもない姿だった。
「なっ……!?」
「こ、これは……!」
「嘘でしょう……」
誰もが息を呑み、混乱のざわめきが巻き起こった。
フレッドの両親は腰を抜かし、神殿の重鎮たちは青ざめて顔を覆った。私の父様と母様は、怒りと悲しみで言葉を失い、ただ映像を呆然と見つめている。
映像は続く。
『妹は、昔から地味で、いつも私の引き立て役でね』
『カミーユと比べられること自体、気の毒だな』
『華がないっていうのかしらね、まあ、私の隣にいるには都合がよかったわ』
『ひどい姉だな、あはははは!』
フレッドの、下劣な声。
カミーユ姉様の、皮肉混じりの優越感。
「いや……いや……」
カミーユ姉様は、真っ青な顔で、首を振っている。フレッドは、自分の罪が暴かれた恐怖で、わなわなと震えていた。
そして。
それまで、信じられないという顔で映像を見ていたヒューゴ様が、すべてを理解した瞬間。
彼の顔から、すっと表情が消えた。
能面のような、無の表情。
次の瞬間、地獄の底から響くような、絶叫が空気を震わせた。
「フレッドォォォォォッ!!!!」
怒りに我を忘れたヒューゴ様が、獣のようにフレッドに掴みかかろうとする。
私は一度、誰もいない自室へと戻り、鏡の前に立った。
鏡に映る私の顔は、青ざめてはいたが、その瞳は、情熱に燃えて輝いていた。
もう、泣き虫で、おどおどした伯爵令嬢マリアはどこにもいない。
私は、復讐の女神になったのだ。
涙は一滴も出なかった。
悲しみよりも、怒りよりも、もっと冷たい何かが、私の心を支配していた。
明日の朝には、すべてを終わらせる。
この茶番を、私の手で。
何事もなかったかのように、私は屋敷の談話室へと向かった。そこでは、両親とヒューゴ様が、まだ起きて最後の打ち合わせをしていた。
扉を開けた私に、母様が尋ねる。
「あらマリア、忘れ物は見つかったの?」
「ええ、母様。見つかりましたわ。それどころか、もっと〝素晴らしいもの〟を見つけてしまいましたの」
私は、聖女のような微笑みを浮かべて言った。
「皆様、明日の結婚式の前に、今一度、最終確認をいたしませんこと? 大神官様と、姉様にも、ぜひお越しいただいて」
私のただならぬ気配に、両親とヒューゴ様は、どこか納得のいかない表情を浮かべつつ、無言で頷いた。
◇
数時間後。
アルンハイム家の談話室には、異様な緊張感が漂っていた。
私の両親、そしてヒューゴ様。突然の呼び出しに応じることになった。フレッドの両親である侯爵夫妻と、神殿の重鎮たち。
そして、少し遅れて、フレッドとカミーユ姉様が、何食わぬ顔で部屋に入ってきた。二人とも、身なりを整え、完璧な笑顔を貼り付けている。姉様は、私と目が合うと、少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。その完璧な演技に、吐き気すら覚える。
全ての役者が、この断罪の舞台に揃った。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
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部屋中の視線が、私に集まる。
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私がそう宣言すると、フレッドと姉様の顔が、さっとこわばった。
私は構わず、ドレスの懐から、あの記憶水晶を取り出した。そして、迷いなく魔力を注ぎ込む。
水晶は、まばゆい光を放ち、部屋の中央の空間に、くっきりと立体的な映像を投影し始めた。
『……それにしても、あいつは、可愛げがない。話していても退屈でさ。大神官の妻としては無難だが、やはり君のような刺激が欲しかった』
『だって私、あの子よりずっと美人だし……ふふっ』
『明日の式が終われば、あいつは、用済みだ。あとは君と二人で……』
談話室に、甘ったるい声が響き渡る。
そこに映し出されたのは、先ほどの浴室での、二人のあられもない姿だった。
「なっ……!?」
「こ、これは……!」
「嘘でしょう……」
誰もが息を呑み、混乱のざわめきが巻き起こった。
フレッドの両親は腰を抜かし、神殿の重鎮たちは青ざめて顔を覆った。私の父様と母様は、怒りと悲しみで言葉を失い、ただ映像を呆然と見つめている。
映像は続く。
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『華がないっていうのかしらね、まあ、私の隣にいるには都合がよかったわ』
『ひどい姉だな、あはははは!』
フレッドの、下劣な声。
カミーユ姉様の、皮肉混じりの優越感。
「いや……いや……」
カミーユ姉様は、真っ青な顔で、首を振っている。フレッドは、自分の罪が暴かれた恐怖で、わなわなと震えていた。
そして。
それまで、信じられないという顔で映像を見ていたヒューゴ様が、すべてを理解した瞬間。
彼の顔から、すっと表情が消えた。
能面のような、無の表情。
次の瞬間、地獄の底から響くような、絶叫が空気を震わせた。
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