美人な姉を溺愛する彼へ、最大の罰を! 倍返しで婚約破棄して差し上げます

佐藤 美奈

文字の大きさ
18 / 29

第18話

しおりを挟む
あの地獄のような夜が明けた世界は、目まぐるしい速さで動き出した。
私のたった一度の反逆は、まるで巨大なダムに生じた小さな穴のように、長年停滞しきっていた貴族社会の常識を、凄まじい勢いで崩壊させていったのだ。

まず、フレッド様――いや、もう付けで呼ぶ必要すらないわね。

フレッドは、当然のことながら大神官の座を、即日解任されるという厳しい処分が下された。神殿の公的な立場と信頼を大きく傷つけた罪は重く、それだけでは済まなかった。

我がアルンハイム家からの婚約破棄に伴う莫大な慰謝料請求。それに加えて、式のキャンセル料。彼の後ろ盾だったサザーランド侯爵家は、我が家の剣幕と、何より動かぬ証拠の前に早々に白旗をあげ、すべての支払いに応じた。

だが、本当の破滅はそこからだった。
大神官の地位を失ったフレッドの屋敷に、王家の監査が入ったのだ。すると、出るわ出るわ、神殿に寄せられた寄付金を横領し、私的に流用していた事実が明るみに出た。その額は、常識では考えられないほど巨額に膨れ上がっていたという。

そして、彼の書斎の隠し金庫から発見されたものが、すべての元凶を物語っていた。
曰く付きの、禁断の魔道具。
人の精神に干渉し、好意や愛情といった感情を、持ち主の意のままに操ることができるという『セイレーンの涙』と呼ばれる、希少で、そして邪悪な代物だった。

その事実を知らされた時、私は父様の書斎で、ヒューゴ様と向かい合っていた。数日のうちに、彼の顔には明らかな疲れがにじみ出ていたが、その瞳だけは、真実を追い求める強い光を失っていなかった。

「……つまり、姉様は、あの男に操られていた、と?」

「断定はできない。だが、可能性は極めて高い。カミーユの、ここ数ヶ月の不可解な行動、そのすべてが、この魔道具の存在で説明がつく」

ヒューゴ様の言葉に、私は言葉を失った。
姉様は、被害者だった……?
私の脳裏に、あの浴室での姉の見るに耐えない姿が、いまも脳裏に焼きついている。
私を裏切り、フレッドと親しげに振る舞い。そして、すべてが明るみに出たときに、見苦しい言い訳を並べていた、あの姿が思い出される。

断罪した。私は、この手で姉を地獄に突き落とした。そのことに、後悔はない。でも、もし、彼女の心の一部でも、誰かに操られていたのだとしたら……?
新たな悩みが、ようやく落ち着いたはずの私の心に、再び小さな波を起こした。

そして、カミーユ姉様。
彼女は、ヒューゴ様から正式に離縁状を突きつけられた。もちろん、子供たちの親権も、面会権すらも失った。不貞行為は、この国ではそれほどまでに重い罪なのだ。
彼女は今、実家であるこのアルンハイム家の、離れの塔の一室に、事実上幽閉されている。誰とも会うことを許されず、ただ静かに、自らの過ちを見つめ直す日々。

ヒューゴ様と姉様は、私の憧れであり、目標でもある理想の夫婦そのもの。最高の輝かしい夫婦は、あの一夜を境に、音を立てて転がり落ちていった。

「カミーユと向き合って、きちんと話をしてみる」

しかし、姉様がフレッドに心を操られていたのなら、まだ関係をやり直せるかもしれない。
私は、ヒューゴ様の言葉を、冷静に聞いて見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きだった幼馴染みに再会→婚約者を捨ててプロポーズした侯爵令息

星森
恋愛
侯爵家の令息エドモンドは、幼い頃に結婚を誓い合った幼馴染コレットへの執着を捨てられずにいた。 しかし再会した彼女は自分を避け、公爵令息アランと親しくする姿ばかりが目に入る。 嫉妬と焦燥に駆られたエドモンドは、ついに“ある計画”に手を染めてしまう。 偶然を装った救出劇、強引な求愛、婚約破棄── すべてはコレットを取り戻すためだった。 そして2人は……? ⚠️本作はAIが生成した文章を一部に使っています。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。 最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。 とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。 しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。

婚約破棄されてしまいましたが、全然辛くも悲しくもなくむしろスッキリした件

瑞多美音
恋愛
真面目にコツコツ働き家計を支えていたマイラ……しかし、突然の婚約破棄。そしてその婚約者のとなりには妹の姿が…… 婚約破棄されたことで色々と吹っ切れたマイラとちょっとしたざまぁのお話。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...