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第18話
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あの地獄のような夜が明けた世界は、目まぐるしい速さで動き出した。
私のたった一度の反逆は、まるで巨大なダムに生じた小さな穴のように、長年停滞しきっていた貴族社会の常識を、凄まじい勢いで崩壊させていったのだ。
まず、フレッド様――いや、もう様付けで呼ぶ必要すらないわね。
フレッドは、当然のことながら大神官の座を、即日解任されるという厳しい処分が下された。神殿の公的な立場と信頼を大きく傷つけた罪は重く、それだけでは済まなかった。
我がアルンハイム家からの婚約破棄に伴う莫大な慰謝料請求。それに加えて、式のキャンセル料。彼の後ろ盾だったサザーランド侯爵家は、我が家の剣幕と、何より動かぬ証拠の前に早々に白旗をあげ、すべての支払いに応じた。
だが、本当の破滅はそこからだった。
大神官の地位を失ったフレッドの屋敷に、王家の監査が入ったのだ。すると、出るわ出るわ、神殿に寄せられた寄付金を横領し、私的に流用していた事実が明るみに出た。その額は、常識では考えられないほど巨額に膨れ上がっていたという。
そして、彼の書斎の隠し金庫から発見されたものが、すべての元凶を物語っていた。
曰く付きの、禁断の魔道具。
人の精神に干渉し、好意や愛情といった感情を、持ち主の意のままに操ることができるという『セイレーンの涙』と呼ばれる、希少で、そして邪悪な代物だった。
その事実を知らされた時、私は父様の書斎で、ヒューゴ様と向かい合っていた。数日のうちに、彼の顔には明らかな疲れがにじみ出ていたが、その瞳だけは、真実を追い求める強い光を失っていなかった。
「……つまり、姉様は、あの男に操られていた、と?」
「断定はできない。だが、可能性は極めて高い。カミーユの、ここ数ヶ月の不可解な行動、そのすべてが、この魔道具の存在で説明がつく」
ヒューゴ様の言葉に、私は言葉を失った。
姉様は、被害者だった……?
私の脳裏に、あの浴室での姉の見るに耐えない姿が、いまも脳裏に焼きついている。
私を裏切り、フレッドと親しげに振る舞い。そして、すべてが明るみに出たときに、見苦しい言い訳を並べていた、あの姿が思い出される。
断罪した。私は、この手で姉を地獄に突き落とした。そのことに、後悔はない。でも、もし、彼女の心の一部でも、誰かに操られていたのだとしたら……?
新たな悩みが、ようやく落ち着いたはずの私の心に、再び小さな波を起こした。
そして、カミーユ姉様。
彼女は、ヒューゴ様から正式に離縁状を突きつけられた。もちろん、子供たちの親権も、面会権すらも失った。不貞行為は、この国ではそれほどまでに重い罪なのだ。
彼女は今、実家であるこのアルンハイム家の、離れの塔の一室に、事実上幽閉されている。誰とも会うことを許されず、ただ静かに、自らの過ちを見つめ直す日々。
ヒューゴ様と姉様は、私の憧れであり、目標でもある理想の夫婦そのもの。最高の輝かしい夫婦は、あの一夜を境に、音を立てて転がり落ちていった。
「カミーユと向き合って、きちんと話をしてみる」
しかし、姉様がフレッドに心を操られていたのなら、まだ関係をやり直せるかもしれない。
私は、ヒューゴ様の言葉を、冷静に聞いて見つめていた。
私のたった一度の反逆は、まるで巨大なダムに生じた小さな穴のように、長年停滞しきっていた貴族社会の常識を、凄まじい勢いで崩壊させていったのだ。
まず、フレッド様――いや、もう様付けで呼ぶ必要すらないわね。
フレッドは、当然のことながら大神官の座を、即日解任されるという厳しい処分が下された。神殿の公的な立場と信頼を大きく傷つけた罪は重く、それだけでは済まなかった。
我がアルンハイム家からの婚約破棄に伴う莫大な慰謝料請求。それに加えて、式のキャンセル料。彼の後ろ盾だったサザーランド侯爵家は、我が家の剣幕と、何より動かぬ証拠の前に早々に白旗をあげ、すべての支払いに応じた。
だが、本当の破滅はそこからだった。
大神官の地位を失ったフレッドの屋敷に、王家の監査が入ったのだ。すると、出るわ出るわ、神殿に寄せられた寄付金を横領し、私的に流用していた事実が明るみに出た。その額は、常識では考えられないほど巨額に膨れ上がっていたという。
そして、彼の書斎の隠し金庫から発見されたものが、すべての元凶を物語っていた。
曰く付きの、禁断の魔道具。
人の精神に干渉し、好意や愛情といった感情を、持ち主の意のままに操ることができるという『セイレーンの涙』と呼ばれる、希少で、そして邪悪な代物だった。
その事実を知らされた時、私は父様の書斎で、ヒューゴ様と向かい合っていた。数日のうちに、彼の顔には明らかな疲れがにじみ出ていたが、その瞳だけは、真実を追い求める強い光を失っていなかった。
「……つまり、姉様は、あの男に操られていた、と?」
「断定はできない。だが、可能性は極めて高い。カミーユの、ここ数ヶ月の不可解な行動、そのすべてが、この魔道具の存在で説明がつく」
ヒューゴ様の言葉に、私は言葉を失った。
姉様は、被害者だった……?
私の脳裏に、あの浴室での姉の見るに耐えない姿が、いまも脳裏に焼きついている。
私を裏切り、フレッドと親しげに振る舞い。そして、すべてが明るみに出たときに、見苦しい言い訳を並べていた、あの姿が思い出される。
断罪した。私は、この手で姉を地獄に突き落とした。そのことに、後悔はない。でも、もし、彼女の心の一部でも、誰かに操られていたのだとしたら……?
新たな悩みが、ようやく落ち着いたはずの私の心に、再び小さな波を起こした。
そして、カミーユ姉様。
彼女は、ヒューゴ様から正式に離縁状を突きつけられた。もちろん、子供たちの親権も、面会権すらも失った。不貞行為は、この国ではそれほどまでに重い罪なのだ。
彼女は今、実家であるこのアルンハイム家の、離れの塔の一室に、事実上幽閉されている。誰とも会うことを許されず、ただ静かに、自らの過ちを見つめ直す日々。
ヒューゴ様と姉様は、私の憧れであり、目標でもある理想の夫婦そのもの。最高の輝かしい夫婦は、あの一夜を境に、音を立てて転がり落ちていった。
「カミーユと向き合って、きちんと話をしてみる」
しかし、姉様がフレッドに心を操られていたのなら、まだ関係をやり直せるかもしれない。
私は、ヒューゴ様の言葉を、冷静に聞いて見つめていた。
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