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第8話 追放された朝
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「はぁー、これからどうしましょう」
まだ太陽が地平から昇る前、気温の低い早朝に歩を進める一人の女性がいた。公爵令嬢アンナ・ローレンスだった。今は公爵家を追放されてただのアンナ。深い哀愁がこもる顔で寂しそうに小さくつぶやくような声で言う。昨日、公爵家当主を務める父のジョセフに追放を命じられた。アンナが泣いて頼み込んでも無慈悲な決定が覆ることはなかった。
アンナは追放に納得がいかないながら家を出ていく準備をした。その時もメイドに観察するような冷たい目を向けられ、アンナが売って生活の足しにしようと考えていた希少性のある宝石に、高価なアクセサリーに装飾性が高いドレスは全て取り上げられた。
アンナが持ち出しを許可された物は、質素な服と肌着が数着に平民が数ヶ月生活できるほどのお金のみ。朝ごはんも食べさせてもらえず家から追い出された。飾りのない控え目な衣服に身を包んで、この先どう生きていけばいいのかと、将来に希望が持てない気分で元気のない感じで歩いている。この絶望的な状況でアンナは逆転する可能性はあるのだろうか――
「え? なんだ……今のものすごい美人は?」
新聞配達の素朴な青年は、道ですれ違った女性をじっと見つめながら思わず口に出した。アンナの美しさに心がひかれたのだ。その女性は淡く輝く腰まで流れる黄金の髪に、透き通るように白い肌で現実離れした美貌をしていた。
青年はアンナとすれ違った後も動くことができず、衝撃を受けて驚きの顔で立ち尽くしてしまった。こんな顔立ちが整っていて、スタイルも申し分ない女性と生まれて初めて出会ってしまったのだからしょうがない。
(私はこれから、どうやって生きていけばいいの……)
アンナの美しさに心を奪われて、ぼんやり見つめて胸をときめかせる青年とは裏腹に、アンナは衣類の入った大きな手提げカバンを持って泣き出したい気分だった。公爵家を追放されて、ショックと今後の生活が不安だと感じて途方に暮れていた。アンナは青年とすれ違っても、気にする余裕も心になくて青年の顔も視野に入らなかった。
「話しかけたいけど、でも俺なんかじゃ相手にしてもらえないよな……」
青年は悔しくてたまらないという顔で唇を噛む。あんな綺麗な人が、自分みたいな見るからに泥くさい田舎者の男を相手にしてくれるわけがない。例え話しかけたとしても露骨に嫌な顔をされるかもしれないし、無反応な態度を取られるだろう。
青年はアンナの美しさに縮こまって、諦めの感情が胸を支配して話しかけるのをためらう。自分なんかじゃ釣り合いがとれないと直感的にそう思った。まともに返答さえしてもらえず、透明人間のように扱われるに決まっていると青年はアンナへの思いを断ち切った。
ほんの少し青年に勇気があったら、アンナに話しかけてどうにかなったかもしれない。公爵家を追放されて居場所を失ったアンナに、青年が救いの手を差し伸べることもできた。そうなったら少なくとも二人が友人関係を築くことは容易に想像できる。この時、青年は自分の運命を大きく変える人生の分岐点に立っていたが放棄した。青年はアンナの後ろ姿をじっと見つめたあと、気持ちを切り替えて配達先の家に向かった。
まだ太陽が地平から昇る前、気温の低い早朝に歩を進める一人の女性がいた。公爵令嬢アンナ・ローレンスだった。今は公爵家を追放されてただのアンナ。深い哀愁がこもる顔で寂しそうに小さくつぶやくような声で言う。昨日、公爵家当主を務める父のジョセフに追放を命じられた。アンナが泣いて頼み込んでも無慈悲な決定が覆ることはなかった。
アンナは追放に納得がいかないながら家を出ていく準備をした。その時もメイドに観察するような冷たい目を向けられ、アンナが売って生活の足しにしようと考えていた希少性のある宝石に、高価なアクセサリーに装飾性が高いドレスは全て取り上げられた。
アンナが持ち出しを許可された物は、質素な服と肌着が数着に平民が数ヶ月生活できるほどのお金のみ。朝ごはんも食べさせてもらえず家から追い出された。飾りのない控え目な衣服に身を包んで、この先どう生きていけばいいのかと、将来に希望が持てない気分で元気のない感じで歩いている。この絶望的な状況でアンナは逆転する可能性はあるのだろうか――
「え? なんだ……今のものすごい美人は?」
新聞配達の素朴な青年は、道ですれ違った女性をじっと見つめながら思わず口に出した。アンナの美しさに心がひかれたのだ。その女性は淡く輝く腰まで流れる黄金の髪に、透き通るように白い肌で現実離れした美貌をしていた。
青年はアンナとすれ違った後も動くことができず、衝撃を受けて驚きの顔で立ち尽くしてしまった。こんな顔立ちが整っていて、スタイルも申し分ない女性と生まれて初めて出会ってしまったのだからしょうがない。
(私はこれから、どうやって生きていけばいいの……)
アンナの美しさに心を奪われて、ぼんやり見つめて胸をときめかせる青年とは裏腹に、アンナは衣類の入った大きな手提げカバンを持って泣き出したい気分だった。公爵家を追放されて、ショックと今後の生活が不安だと感じて途方に暮れていた。アンナは青年とすれ違っても、気にする余裕も心になくて青年の顔も視野に入らなかった。
「話しかけたいけど、でも俺なんかじゃ相手にしてもらえないよな……」
青年は悔しくてたまらないという顔で唇を噛む。あんな綺麗な人が、自分みたいな見るからに泥くさい田舎者の男を相手にしてくれるわけがない。例え話しかけたとしても露骨に嫌な顔をされるかもしれないし、無反応な態度を取られるだろう。
青年はアンナの美しさに縮こまって、諦めの感情が胸を支配して話しかけるのをためらう。自分なんかじゃ釣り合いがとれないと直感的にそう思った。まともに返答さえしてもらえず、透明人間のように扱われるに決まっていると青年はアンナへの思いを断ち切った。
ほんの少し青年に勇気があったら、アンナに話しかけてどうにかなったかもしれない。公爵家を追放されて居場所を失ったアンナに、青年が救いの手を差し伸べることもできた。そうなったら少なくとも二人が友人関係を築くことは容易に想像できる。この時、青年は自分の運命を大きく変える人生の分岐点に立っていたが放棄した。青年はアンナの後ろ姿をじっと見つめたあと、気持ちを切り替えて配達先の家に向かった。
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