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第7話 血も涙もない家族
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「私はダニエル殿下を裏切ったことは一度もありません! 追放だけはどうかお許しください!」
悪口を言われてもずっと黙って耐えていたアンナだったが、体裁を気にせずすがるような目で頼み込む。職業が無能と言われる家事のアンナが、公爵家から追放されたら苦しい現実が待ち受けている。
仕事を探しに公共職業安定所に行っても、自分の職業を聞いた途端に無能と言われて軽くあしらわれるかもしれない。アンナは不安と恐怖で落ち着かない気分になった。
「家を追い出すと言えばやっと口を開きおって……泣き叫んで必死だな」
「泣きついても無駄よ? 追放は決まったの。あなたがどうなろうと知ったことではありません!」
自尊心を捨てて頭を下げるアンナに、ジョセフとスザンナは有無をいわせぬ様子。親とは思えない辛らつな口調で言った。アンナがずっと沈黙していたことが不満だったらしく、ジョセフは重箱の隅をつつくように責め立てた。家に住まわせてほしいと涙ながらに訴える娘に容赦がない。
スザンナも口を開く。娘を追放することに、肯定的で人情味のかけらもない言葉を言い捨てた。成人の儀で職業が家事になった日から、優しかった両親が人が変わったように冷たくなった。だから非難されるのも覚悟の上だったが、アンナには泣いてすがるしかできなかった。
「それなら、メイドでも構わないので家に置いてください……」
アンナは拳をぎゅっと握り覚悟を決めた顔で言う。公爵家の娘として扱わなくても構いません。使用人の待遇で家に居候させてくださいと、涙に濡れている顔で心の底から頼んだ。
「お前も分かってると思うが、家には優秀なメイドがたくさんいるからな。わざわざ無能な家事を雇うわけがなかろう?」
「能力が低くて、仕事ができないあなたは必要ないわ」
アンナは捨て身になった思いで、公爵家の令嬢の地位を放棄して雇われの身になると言ったが、ジョセフとスザンナは険しい目で指摘する。貴族ランクの頂点である公爵家には、使用人たちも当然優れた技能を持っている粒ぞろいで、全員が成人の儀で神から恵まれた職業を与えられている。
アンナの職業は家事。改めて家事が無能で不遇職と言われている原因は、家事だけは神器を持っていないのも不遇と言われる理由。神器とは職業が決まった時に、その職業に適した優秀な道具で、剣士のダニエルなら剣が与えられ聖女のレイチェルなら杖。
他には職業によって様々な能力を与えられるが、家事だけはスキルと言う特別な能力が使えない。家事は神器もないし職業固有のスキルもなし。家事ができることといえば、少しだけ家事仕事がうまくなるだけというもの。これでは無能と言われても仕方ないことである。
「まあ、支度もあるだろうから今日だけは住まわせてやろう。だが明日の朝早く出て行ってもらうからな!」
ジョセフはアンナに向かって捨て犬を見るような視線で気の毒だと思って、すずめの涙ほどの同情心を抱いた。今日までは公爵家の娘として世話をしてやると言う。ただし、今日中に準備して明日の朝には出て行けと冷酷非情な言葉を告げた。
「お姉様明日から平民になるのね。無能な家事ですけど頑張って生きてくださいね」
「アンナは成人の儀で神に家事を与えられた。それが無能であるお前の運命だから潔く受け入れるんだな」
ダニエルとレイチェルは人の悪い笑みを浮かべる。アンナのことを憐れんでいるような視線を送って嫌味なほど小言を続けた。邪魔な者を追い払うことは、息を吸うように当たり前のことだという思いで批判を浴びせる。
そんなに言葉によるいじめが口から出るのかとアンナは呆れていた。結局のところ、どうしようもなく弱い立場のアンナは、冷たくあしらわれ公爵家から追放されることが決まった。
悪口を言われてもずっと黙って耐えていたアンナだったが、体裁を気にせずすがるような目で頼み込む。職業が無能と言われる家事のアンナが、公爵家から追放されたら苦しい現実が待ち受けている。
仕事を探しに公共職業安定所に行っても、自分の職業を聞いた途端に無能と言われて軽くあしらわれるかもしれない。アンナは不安と恐怖で落ち着かない気分になった。
「家を追い出すと言えばやっと口を開きおって……泣き叫んで必死だな」
「泣きついても無駄よ? 追放は決まったの。あなたがどうなろうと知ったことではありません!」
自尊心を捨てて頭を下げるアンナに、ジョセフとスザンナは有無をいわせぬ様子。親とは思えない辛らつな口調で言った。アンナがずっと沈黙していたことが不満だったらしく、ジョセフは重箱の隅をつつくように責め立てた。家に住まわせてほしいと涙ながらに訴える娘に容赦がない。
スザンナも口を開く。娘を追放することに、肯定的で人情味のかけらもない言葉を言い捨てた。成人の儀で職業が家事になった日から、優しかった両親が人が変わったように冷たくなった。だから非難されるのも覚悟の上だったが、アンナには泣いてすがるしかできなかった。
「それなら、メイドでも構わないので家に置いてください……」
アンナは拳をぎゅっと握り覚悟を決めた顔で言う。公爵家の娘として扱わなくても構いません。使用人の待遇で家に居候させてくださいと、涙に濡れている顔で心の底から頼んだ。
「お前も分かってると思うが、家には優秀なメイドがたくさんいるからな。わざわざ無能な家事を雇うわけがなかろう?」
「能力が低くて、仕事ができないあなたは必要ないわ」
アンナは捨て身になった思いで、公爵家の令嬢の地位を放棄して雇われの身になると言ったが、ジョセフとスザンナは険しい目で指摘する。貴族ランクの頂点である公爵家には、使用人たちも当然優れた技能を持っている粒ぞろいで、全員が成人の儀で神から恵まれた職業を与えられている。
アンナの職業は家事。改めて家事が無能で不遇職と言われている原因は、家事だけは神器を持っていないのも不遇と言われる理由。神器とは職業が決まった時に、その職業に適した優秀な道具で、剣士のダニエルなら剣が与えられ聖女のレイチェルなら杖。
他には職業によって様々な能力を与えられるが、家事だけはスキルと言う特別な能力が使えない。家事は神器もないし職業固有のスキルもなし。家事ができることといえば、少しだけ家事仕事がうまくなるだけというもの。これでは無能と言われても仕方ないことである。
「まあ、支度もあるだろうから今日だけは住まわせてやろう。だが明日の朝早く出て行ってもらうからな!」
ジョセフはアンナに向かって捨て犬を見るような視線で気の毒だと思って、すずめの涙ほどの同情心を抱いた。今日までは公爵家の娘として世話をしてやると言う。ただし、今日中に準備して明日の朝には出て行けと冷酷非情な言葉を告げた。
「お姉様明日から平民になるのね。無能な家事ですけど頑張って生きてくださいね」
「アンナは成人の儀で神に家事を与えられた。それが無能であるお前の運命だから潔く受け入れるんだな」
ダニエルとレイチェルは人の悪い笑みを浮かべる。アンナのことを憐れんでいるような視線を送って嫌味なほど小言を続けた。邪魔な者を追い払うことは、息を吸うように当たり前のことだという思いで批判を浴びせる。
そんなに言葉によるいじめが口から出るのかとアンナは呆れていた。結局のところ、どうしようもなく弱い立場のアンナは、冷たくあしらわれ公爵家から追放されることが決まった。
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