「神に見捨てられた無能の職業は追放！」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

第24話 雇用主として失格

「本当に、引き受けてくれるのか？」
「はい、私にできることならお手伝いします」

救いの女神が降臨した。男性は胸の中が晴れて明るい顔になっていた。正直に言って男性も無理な注文をしていると自分でも分かっていた。受付の女性に怒鳴り声をあげたことも悪いと思って反省していた。でも今は時間がないから仕方がなかった。

受付の女性に帰れと言われて、絶望的な感情になり落ち込むしかなかった。そんな時、優しく声をかけてきた美しい女性がいた。なんと自分の依頼を引き受けてくれるという。世の中には奇特な人もいるものだと思った。

「ありがとう！　君の名前は？」
「アンナと言います」
「僕はルーク」

男性は、もうどうしようもないと困っているときに、願ってもない助けで涙が出るほどありがたくて胸が打たれた。お礼を言って名前を聞いて簡単な自己紹介をし合った。二人は共感したように見つめると、柔らかく微笑んで明るい雰囲気となった。

「その依頼は、やめた方がいいと思いますよ？　大変な仕事なのに報酬が安いですから」

話しかけてきたのは、先ほどまでルークと激しい口論を繰り返していた受付の女性だった。労力の割に利益が出ないから引き受けない方がいい。アンナが損するだけだと言い聞かせるように言った。

「そんな事は、あなたにとやかく言われる筋合いはない！」

アンナと向き合って笑顔を浮かべていたルークは、一転して噛みつくような勢いで言う。自分の依頼を引き受けてくれると言ってくれた大切な女性を失ってしまうと思った。やめた方がいいと言う受付の女性は、敵対する者だという心理が働いた。

「あなたは黙ってください！　仕事を依頼する雇用主と労働者では、どちらが立場が上かと言われれば雇用主であるお金を払う側が偉いかもしれません。ですが私達は仕事を受ける側も守る必要があります。お互い対等な立場で契約を交わすのが大事なんです。私達は間に入って両者の良好な関係を保つために仲介役を務めています。その関係を壊すような依頼主は貴族様でも黙って見過ごせません！」

あなたは仕事を依頼する側として不適格。その女性に対して不当な扱いをしようとしている。受付の女性は批判的な口調でルークを責めた。この女性も本質の上では雇用主に配慮を踏まえているが、仕事を引き受ける側を守るのは職業安定所の職員として当たり前のこと。ここの職員は基本的に正義感の強いまじめな人間なのである。

（この人、貴族なの？）

アンナは受付の女性が口にした貴族という言葉が気になる。ルークのことを冷静な心で観察するように見た。

「言われなくても分かってるよ。だから後でアンナには正当な報酬は払う。これで文句はないだろう？」

ルークはぐうの音も出なかった。受付の女性の言っていることが筋道が通った正しいことを言っている。本来のルークは知性が感じられる良識的な男性なので、自分が我がままを言っているのは理解していた。

ルークは、アンナには仕事が終わって資金の目処がついたら適切な報酬を支払うと言う。これで何も問題ないだろう？　つべこべ言わずに早く依頼の手続きをしてくれという思いだった。

「あります！」
「なぜだ？」

受付の女性はルークの主張を否定するように待ったをかけた。急いでいるのに、まだ何かあるのかとルークには難癖のように感じられた。苛立つ感情が大きな声となって出て、困惑したように眉を寄せて見つめていた。