「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

佐藤 美奈

文字の大きさ
25 / 66

第25話 私は家事です

しおりを挟む
「そちらの女性には、あなたが依頼される仕事をこなせないと思います」
「アンナには、荷が重いって言いたいのか?」
「端的に言ってそうです。困難な作業ですからね」

応対していたので、受付の女性はルークの依頼する仕事内容を知っている。それを踏まえてアンナには、仕事をこなすことはできないと判断した。確かに自分の依頼する仕事は容易にはいかないし、普通の人には荷が重いかもしれない。でもアンナはやってくれると言ってくれた。だからルークはアンナが能力の高い優秀な職業だと勝手に思い込んでいた。

「そんなことはないだろう! さっきから文句ばかりを言って……アンナ職業を教えてくれないか?」

アンナがどんな職業なのかも気になっていたし、ルークは先ほどから自分に対して反抗的な態度をとってくる受付嬢に不快な気持ちが高まっていた。輝かしい職業を言って口うるさい受付嬢に、一泡吹かせて驚かせてやれと思いながらアンナに職業を尋ねた。

「家事です」
「……え? アンナ聞き間違いかもしれないから、もう一度言ってくれないかな?」
「はい、私の職業はです」

家事です。アンナの口からは予想外の言葉が出た。ルークはひっくり返ってしまいそうな気がした。頭の中は大混乱になる。ルークは自分の耳がおかしくなったと思ってもう一度聞いてみた。私の職業は家事ですけど何か問題ありますか。アンナは深刻な顔をしているわけでもなく、問題なんか何もないですよねみたいな感じで言う。

「はぁ? 家事だって……ふざけるなよ! アンナ悪いけど、今までの話は全部なしだ。僕の依頼は家事にできるような簡単な仕事じゃないんだ!」

ルークは怒り出した。これは単なる逆ギレと言っていい。ルークはアンナという女性は間違いなく有能な人材だと思って信じていた。それが全て覆ってしまった。その絶望は計り知れない。ルークは考える力を喪失して、お先真っ暗な気分になった。全身から力が抜けて複雑な微笑を浮かべて再びその場に崩れていく。

アンナからしたら、そんな逆ギレされても困りますという思いで不安になる。困っている人に救いの手を差し伸べたら最初は感謝されたのに、家事と言った途端に態度をコロッと変えて理不尽に怒りをぶつけられて酷い話ではないか。

アンナはよかれと思った選択が、悪い方へと進んで悲しくて泣きそうな顔になってくる。勝手に優秀な職業だと勘違いしたのはあなたの方でしょ! そう言ってルークに反論する人もいると思うけど、人のいいアンナは自分を責めて落ち込んでしまう。

「――アンナさんならできます!」
「突然なんだ?」
「マリンさん?」

その時、女性が言葉を発した。その声はよく通る綺麗な声ではっきりと言った。ルークは、もうどうしようもないと諦めの感情が自分の胸を支配していた。床に崩れたように座って途方に暮れていたルークは、女性の声を聞いた瞬間に顔をあげた。

ほぼ同じくそれにすぐ反応したのは、ルークに対して不当な依頼は手続きできないと厳しく注意していた受付の女性。いきなり口をはさんできた同じ職場の同僚に、きょとんと不思議そうな顔をして名前を思わず口に出した。

「アンナさんなら、できますよね?」
「あの、私にできるか分かりませんけど……期待に応えられるように頑張ります!」

あなたなら間違いなくできる。マリンはアンナを見て確信しているという目を向けて言う。アンナは突然そんなことを言われて少し慌てたような顔をした。マリンに両手で手を握られ顔をじっと見つめられると何だかやる気に火がついて、依頼主の要望に沿うよう努力をすると意気込みを語った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。 伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。 セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。 そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに…… 婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。 そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

処理中です...