婚約してる彼が幼馴染と一緒に生活していた「僕は二人とも愛してる。今の関係を続けたい」今は許してと泣いて頼みこむ。

第9話

「よくも私の幼馴染のカミュを誘惑して婚約までしたわね。この薄汚い泥棒猫！あなたさえいなければ私が結婚して幸せになれるのに……」

その時である。情緒不安定な金切り声が耳に響いてアリーナはびっくりする。振り向くと、神秘的でミステリアスな雰囲気を強調するゴシック風のドレスに身を包む女性が立っていた。

「あなたがシルビアさん？」

一瞬戸惑った表情を見せたアリーナは声をかけますが反応はない。顔が真っ赤で非常に興奮状態に陥っている印象を受ける。シルビアは恋人を横取りされて恨みがましい目つきで睨んだ。

アリーナはシルビアだろう女性から、凄まじい憎悪の色が宿った視線を向けられるも初対面だし、恋人を奪ったと言われても心当たりがない。だがどう見ても本気で怒っているように見える。

「シルビアまずは落ち着いて……話し合うべきだと思う」

隣にいるユリウスを見ると、泣きそうな顔をしてオロオロして、動揺のあまり震えているのが分かる。それでも勇気を奮い起こしてユリウスは恐る恐る声を出す。その声は弱々しく消えそうな声だった。

「ユリウスは黙ってなさい！」
「はひぃ！」

だがシルビアから情け容赦なく大声で怒鳴られると、青ざめた顔をひきつらせて悲鳴のような声で返事をする。

「シルビア突然なんてことをしてくれるんだ。僕はまだあそこが痛いよ」

その時、わずかに足を引きずるような、足元が不安定な歩き方をしているカミュがやってくる。先ほどカミュはシルビアに股間を手加減無しで蹴られた一撃によって、深刻なダメージを負っていた。

蹴られた直後は、引きちぎられるような痛みを感じて、立っていられないほどで前のめりになってその場に崩れ落ちる。

倒れてからも痛みに顔を歪めて、これではもう二度と使い物にならないかもしれない。そう思いながらただ涙を流して咽び泣くばかりでした。

「でもこのまま寝転んでいるわけにも行かない……」

部屋の中で何が起こっているのか心配で、大きな不安に包まれる。カミュはこのまま時間が止まってくれたほうがいいとすら願う。

カミュは痛みを振り払い、ゆっくりと立ち上がった。生まれたての子鹿のように、小刻みに足が震える姿は、切ない思いに溢れて頑張れ！と応援したくなる。

「痛い……誰か助けてくれ……」

その瞬間、針に刺されるような痛みが駆け巡ってカミュは床に尻もちをついた。助けを呼びたくても痛みで声も張り上げられない。

仕方なくカミュは最初は赤ん坊のように、よちよち歩きして進み痛みが少しずつ和らぐと、体をかがめた苦しい姿勢で進んだ。