婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。

第9話

「エリザベスはぶりっ子で仕草があざといのよ！」
「いっつも男子にチヤホヤされてずるい！」
「おかしなフェロモンでも出してるんじゃないの？」
「女子達は皆あなたのことウザいと思ってるから！」

女子生徒から恐ろしい剣幕で叩きつける様な口調で暴言を吐かれ敵意を向けられるエリザベス。本音は同性の子と仲良く会話したいのに複雑な気持ちのエリザベスは学園では居場所を失う。エリザベスの中では自然な振る舞いで男子に気を引いているつもりはないが女子達から文句を言われ続け愚痴をこぼされる辛い日々にエリザベスは心を閉ざした。

なにしろ自分達がほのかに恋心を抱いている好きな男子生徒達が次から次へとエリザベスに魔法にかかったみたいに吸い寄せられているのだから女子達が不愉快に感じるのも無理もない。

「エリザベスを悪く言うな！」
「女子はエリザベスが可愛いからって嫉妬をするなよ！」
「エリザベスは魅力が溢れているんだ！」

女子達が双方をいくら注意しても女王蜂を追って群がる働き蜂のごとくクラスの男子達はエリザベスに息つく間もなく集まってくる。エリザベスは確かに可愛いらしいが特別な美人でもなく学園には彼女以上に人形のような綺麗で整った美しい顔の女子は何人かいた。

男子達も女子達に反発し段階を踏んで周囲を巻き込み噂が噂を呼び学年を超えて大規模に発展して挙げ句の果てには学園中の男子と女子がエリザベスが原因で対立してしまう。男子達を独り占めにされた女子達の怒りは想像以上に凄まじくエリザベスは学園に通う同性から無視され完全に孤立することになったのです。

「クロエさんと会えないならもうジャックの家に支援することは止めるように家族に話します！」
「そ、そんな！待ってくれ！」
「エリザベス考え直して…」

突如としてエリザベスがとんでもないことを言い出した。クロエと会えないのならジャックの家に毎月行っている資金提供を親族に伝えて打ち切ると言う。

そんなことになればジャックの家は一瞬で崩壊する。幼い頃からなめるように可愛がられているエリザベスが家族に言えば間違いなく救援金は即座にストップされ区切りをつけられてしまいジャックの家はお先真っ暗。

不意に失神するほどの感覚に陥った両親はこの世の終わりのような顔をして頭を抱えて膝から崩れ落ちる父親。突然重心を失い足腰に力が入らずよろよろと床に腰をついた母親。このままでは取り返しのつかない絶望になる恐怖で体はみっともなく震えていた。

「どうしましょう…エリザベスの家からの支援がなくなれば極貧生活に戻ってしまうわ！」
「おいジャック！このままでは家が潰れるぞ！早くクロエと仲直りしてこい！これは命令だ！」
「さっきはいきなり殴っておいてその頼み方はないだろ」

祖父が保証人になりその借金で何十年前に飢えにひとしい生活をしていたジャックの両親。脳裏に焼き付かれた心の傷は未だに残っている。父親は小刻みに震え出し不安で心臓が息苦しくなり胸を手で押さえながら息子に涙声で悲願したが焦っているのか言葉遣いはひどく乱暴だった。

つい先ほどジャックは父親に思い切り殴られたことを根に持っていて恨みがましい心持ちで言う。最初にクロエへの恋心を話し始めた時にも直ぐに怒鳴り散らされた。それがエリザベスの鶴の一声で主張をひっくり返したことにも呆れを通り越して腹が立つ。

「もうあんな生活はこりごりなんだ…ジャックどうにかしてくれ…」
「お願いだからあの婚約者ともう一度繋がりを持つのよ…ジャックあなただけが頼りなの…私達を助けて…」
「分かりました！僕もそのつもりです。必ずクロエとヨリを戻してみせます！」

両親は息子に飛び込んできてしがみつき気の毒なくらい必死になってクロエとの関係の修復をワラにもすがる心境で願うのです。

ジャックはなんだか腑に落ちない思いで胸の中にモヤモヤとしたスッキリしない気持ちが残っているが、結果的にクロエとの復縁を許されたことに嬉しさでほほが緩む。まずは謝罪の手紙をたくさん書こうとキビキビした足取りで自分の部屋に向かう。