彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

佐藤 美奈

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第11話

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「おや、皆様お揃いで! ちょうどよかった、これから肝試しが始まるのですが、四名一組でないと参加できないんですよ! 皆様でいかがです?」

祭りの実行委員らしき陽気な男が、タイミングが良いのか悪いのか声をかけてきた。断る理由を探すよりも先に、周囲の好奇の目が私たち四人に突き刺さる。王太子、私と世間的に婚約中の騎士、その幼馴染。これ以上ないほどの完璧なゴシップの種だ。

「……いいだろう。参加しよう」

ロッドが、私の手を取りながら言った。こうして私たちは、最悪の組み合わせにも思えたが、同時にもしかしたら最高の瞬間になるかもしれないという予感を抱きながら、祭りの夜の闇へと足を踏み入れることになった。

肝試しの舞台は、王城の裏手に広がる嘆きの森。昼間でも薄暗く、不気味な言い伝えがいくつも残る場所だった。渡された一つのカンテラの光だけを頼りに、私たち四人は静かに森の中へと足を踏み入れていった。

先頭を歩くのはアンドレ。その後ろに私、そしてロッドとキャンディが続く。誰も口を開かず、ただ落ち葉を踏む音と遠くで鳴く夜鳥の声だけが響く。カンテラの光が揺れるたび、木々の影がまるで生き物のように動き、不安が心の中で膨れ上がっていった。

「……怖くないか?」

不意に、前を歩いていたアンドレが振り返り言った。

「平気よ」

私は、わざとそっけない声で答えた。彼の優しさに触れることが怖かった。一度でもその優しさに絆されてしまえば、またあの苦しい日々に戻ってしまうかもしれないと思うと心が揺れていた。

私の返事に、アンドレは寂しげに目を伏せて何も言わずに再び前を向いた。

「きゃっ」

その時だった。木の根に足を取られ、私は思わず短い悲鳴をあげて体勢を崩してしまった。転んでしまうと思った瞬間、力強い腕が私の体をぐっと支えた。

「ニーナ!」

アンドレだった。彼はカンテラを放り出す勢いで私を抱きとめ、その瞳には焦りと本気の心配の色が浮かんでいた。

「大丈夫か、ニーナ? 怪我はないか? どこか痛むところは?」

アンドレの声は震えており、矢継ぎ早に問いかけられた。彼の腕は昔と変わらず力強くて、安心感を与えてくれるものだった。私は、思わずその腕に身を預けて胸に顔を埋めた。心臓の鼓動が速く響いて伝わってきた。

「だ、大丈夫……ありがとう」

顔が熱くなっていく。彼の心配が、私の固く閉ざされていた心を、あっけなく溶かしていくのが分かる。ダメだ、ニーナ。こんなことで動揺してはいけない。

慌てて彼から身を引き少し離れた場所を見ると、キャンディが苦々しい表情でこちらを見つめていた。彼女の瞳には、嫉妬や諦め深い悲しみが混ざり合って浮かんでいるのがわかる。

「なにイチャついてるのよ! わたし、先に行くわ」

冷たく吐き捨てるように言うと彼女は一人、森の闇の中へと消えていった。その背中は、小さくなったかのように見えた。
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