彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

第42話

「ロッド殿下、どうか発言をお許しください。今に始まったことではありませんが、この者は殿下に対して、いつも無礼な言葉を並べ立てております。言葉遣いを改める兆しすら見せず反省の色もありません。それだけでなく、私の婚約者に対しても同様の不敬を繰り返し、尊厳を踏みにじっているのです。このまま放置するわけにはいきません」

アンドレは、真摯な眼差しでロッドを見つめ、その言葉をひとつひとつ慎重に紡ぎ出すかのように丁寧に口にした。声は一切揺るがず、彼の姿勢からは、ただの警告ではなく確固たる覚悟が感じられた。

「そなたの意見もわからぬわけではないが、キャンディ嬢がこんなにも涙を流しているのを見ると、どうしても心が痛む」

彼の目は、アンドレの冷静さを欠いた怒りが、表に出ているのを見逃すことなく捉えていたのだろう。アンドレが自分の感情を抑えきれずにいることを感じ取ると、彼はわずかに眉をひそめ心配そうにキャンディの方へと視線を移した。その目には、彼女の深い悲しみに対する同情が混じっていた。

「殿下、騙されてはなりません！　この者は、ただの泣き真似をしているのです」

「そうなのか？」

アンドレの声は、冷静でありながらも決意を強く確実に示しているかのように重みを持って響いた。ロッドの声は少し驚きと疑念を帯びていたが、アンドレは微動だにせずさらに言葉を重ねる。

「殿下、間違いありません！　私は長い付き合いで、この者のことをよく知っています。小さい頃から、彼女は泣き真似で周囲の心を操り、無理を通してきました。その手口は、今も変わらぬものです。彼女が涙を流すたびに、その裏には計算と狡猾さが隠れていることを私は知り尽くしているのです」

アンドレの言葉は、長年の付き合いからくる確かな経験と知識に基づいており、それだけでロッドの心を動かす力を持っていた。アンドレの言葉がもたらす影響は、ただの疑念ではなく真実に基づいた重みを感じさせるものだった。

（もう！　アンドレ、しゃべるな！　わたしの救世主に変なことを吹き込むな！　せっかく王太子がわたしを助けてくれたのにいいいいいぃぃぃ！）

目の前で床にひざまずくキャンディの胸中は、顔だけ上げてアンドレを見つめながら怒りと焦燥で乱れていた。

（目を見張るような真剣な顔つき）

ロッドは心の中で驚きながらも、アンドレの真剣な表情に圧倒されていた。普段、軽薄で冗談ばかり言っているイメージの彼が、こんなにも深刻な顔をしている。そんな彼の姿を見て、ロッドは思わず深く息を吸い込み心を決めた。

「そこまで真剣に言うからには、信じるしかない」

「殿下、ありがたき幸せ！」

アンドレは、ロッドの言葉を聞いた瞬間、ほっとしたと同時に清々しい気分になっていた。その声には、重荷が解けたような温かさが感じられ、どこか高貴で清らかな響きがあった。彼の顔には限りない感謝と、ロッドの理解を得たことへの喜びが溢れていた。

（アンドレ、説得なんかしないで！　阿呆垂れで間抜けのくせに王太子を言いくるめるなよぉ！　王太子も、なんで馬鹿の言葉を信じてるのよ！？　うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!！」

心の中で言葉が渦巻き、アンドレに対する愚痴が止まらない。キャンディは思わず心の中で叫んだ。王太子がせっかく自分を助けようとしたのに、それを台無しにしたのは他ならぬ幼馴染のアンドレだ。目の前の状況があまりにも絶望的で、焦りと不安が彼女の心を支配していった。