異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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118話 「大変だったらしい」

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窓から差し込む太陽の光に眩しそうに目を開ける加賀。

「……ねむい」

猫のように大きく欠伸をしごそごそと布団から這い出る。

「おはよ、眠そうだね」

「おはよーアイネさん……ちょっと寝たりない、かなー」

アイネのジト目気味な目と視線が合う。
加賀よりも早く起きコップを片手にベッドに腰掛けていたアイネ。ジト目なのは別に眠いからと言うわけではなく普段からそうなのだ。

「そう、ここからは馬車で行くから中で寝られるようなら寝るといいよ」

二人が居るのは陸船の中ではなく行きも使用した宿の一室だ。幸いトゥラウニへの道のりは特に問題も起きず乗り切ることが出来たようだ。
フォルセイリアに向かうには陸船ではなく馬車を使用する。陸船でも行けなくは無いが風が安定しないのと道が悪いのがネックとなる。風は魔法を使用すれば良いが道の悪さから車体へのダメージが大きい。浮かすという手段もあるがアイネの陸船は車体が大きめなのと荷物が多く重量過多気味である。魔力の消費を気にしなければ問題ないが護衛という立場から魔力は常に満タンしておきたいというアイネの言葉によりやはり馬車で行こうと言う結論となった。


「おー馬車もでっかい……これもダンジョン産?」

トゥラウニの街中にある馬車用のガレージ、その中でも回りと比べ大きくしっかりした造りの馬車を前に感嘆の声をあげ馬車を見回す加賀。
加賀の言葉にそうよと答え荷物を積み込みアイネ。馬車は彼女の私物のようである。
私物にしてはいささか立派すぎる気もするが常に一人で使う訳でもないし、国の用事で皆で使う事もあるためこの馬車を選んだそうだ。

トゥラウニの街を出てからの道のりは実に順調だ、ぱっと見は護衛もいなく女性1~2人での旅。そうなると当然よからぬ事を考えるものも居るがそれらは全て馬車に近づく前にデーモンらによって排除されている。
初めからデーモンを見えるようにしておけばそのような輩が出てくる事もなかっただろうが、自分たちに害が及ぶことはないうえに街道の治安も良くなる訳で敢えてそうしていた節がありそうだ。

そしてトゥラウニを出て二日、加賀とアイネの二人とデーモン達はフォルセイリアの街へとたどり着いていた。


「おー……なんかすっごい久しぶりな気が」

「実際一月居なかったしね」

「大通りの建物大分変ってきてるね」

絶賛街の大改造中であるフォルセイリア、その街並みは大通りを中心に変わってきていた。
今までは豆腐ハウス中心だったのが少し洒落た建物に置き換わってきている。特に門の近くと街の中心部はその傾向がより確かとなっていた。

「総合ギルドも変えたんだ……」

「出発するときは変わってなかったと思ったけど一月でいけるものなのね」

総合ギルドを建て替える間その業務が滞っては困る。もちろん代替の建物を使用してはいるだろうが多少不便ではあるだろう。なので総合ギルドなどの重要な施設は出来るだけ短い期間で建てるようにしている、もちろん手抜きはなしでだ。

「宿の周りはそこまで変わってないね」

「大体建て替え終わってたもの、変わってたら驚きよ」

馬車をとめ宿へと向かう二人。
宿には人の気配はなく静かなものだ。今は居たとして咲耶とバクスの二人だけだから当然と言えば当然であるが。

「お、あいてる……ってことはどっちかは居るかな」

宿の入り口を開こうとすると鍵はかかっておらずあっさりと開く。
鍵が掛かっていないと言う事は誰かは中にいてもう一人は外なのかも知れない。二人とも外か中に居るのなら恐らく鍵はかけるだろう。
鍵が開いているならばと馬車から荷を下ろし少しずつ宿の玄関へと運んでいく。
ある程度運んだあたりで食堂の扉から開き中からバクスらしき人物が現れる。

「あ、バクスさ……ん? え、バクスさん?」

扉を開いて現れたのは果たしてバクスだったのだろうか。
目は虚ろでげっそりとした表情、筋肉もどことなく萎びているように感じられる。
もちろん相変わらずムッキムキなのではあるが、雰囲気が違うのだまるでアンデットのように。

「……加賀か、これはまた大量の荷物だな」

食堂でいいか?と言って荷物を担ぐバクス。
一体どうしたのだろうかと顔を見合わせる加賀とアイネの二人。とりあえず二人も荷物を持ちながらバクスを追って食堂へと向かう。

「ふぅ……」

荷物を置いて疲れた様にため息を吐くバクス。
やはりどこかおかしいのだろう、心配になった加賀は思い切ってバクスに話しかけた。

「あの、バクスさん」

「なんだ?」

「何かあったんですか……かなり酷い顔してますよ」

「……いや、まあ、そうだな」

苦り切った顔で頬をさするバクス。
やはり何かあったのだろうかとじっとバクスを見つめる加賀に向かい言葉を続ける。

「ここ一月近く俺は咲耶さんの護衛として教室に一緒に行ってたんだがな……」

「はい」

そこで一旦話を区切りぎゅっと目を瞑り、嫌な思い出を振り切るように首を振るバクス。

「モデルの役が俺だったんだ」

「…………ん?」

加賀がバクスの言葉を理解するに少し間があった。
何か隠された意味があるのかと一瞬思う加賀であるが、バクスが言いたいのはまさに言葉通りの事。

「一月もの間色んな女性に囲まれて、着せ替え人形よろしく色んな服をとっかえひっかえ着せられたんだ。……いっそ殺してくれと何度思ったか」

「うわぁ……」

その場面を想像して思わず変な声が出てしまう。
一日ぐらいなら耐えられるかも知れないがそれが一月となればそれはもはや拷問の域だ。
加賀がアイネと楽しく買い物をしていた間、バクスはかなり大変だったようである。
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