異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
119 / 332

117話 「暗い夜道には気を付けよう」

しおりを挟む
シグトリアの港町、その北門で陸船を前にうんうんと唸る人物がいた。
陸船の中は様々な荷物で埋め尽くされているが、足元にはまだいくつか荷物があるのが確認できる。

「厳しそう?」

「うーん……ちょっと重ねれるのは重ねて、それなら何とか」

うんうんと頭を悩ませているのを見かねて声をかけるアイネ。
加賀はアイネの言葉に答え一度入れた荷物を少し取り出し、今度は重ねる様に並べていく。
陸船の揺れで崩れない程度に重ねなければいけない為、単純にぽんぽんおいていけば良いと言う訳でもないようだ。

「こんなもんっかなー」

「お疲れ様。それじゃ早速出発しようか」

そう言って陸船に乗り込むアイネ、見送りに来た何人もの人に手を振りレバー引く。
広がった帆が風を受け少しづつ加速していく陸船、街から離れたところで全ての帆を開く。
ここからトゥラウニまで行きは3日ほど掛かった、だが帰りは荷物が満載なのと風が行きと同じぐらい吹くとは限らない。アイネはどうやら場合によっては夜間も走る腹積もりのようである。

「やっぱちょっと速度遅いね」

「積みすぎたかなー……でも置いていく訳には」

「どれも使うものね、しょうがないよ」

買ったものはいずれも便利なもの達ばかり。
毎日使うものではないが、いざと言うときは調理をするのにとても役立つ事だろう。
ここで全てを持ち帰らずフォルセイリアに戻ったら鍛冶屋に作ってもらうという手もある。だが今はダンジョン攻略組の需要によりとてもそこまで手をまわす余裕は鍛冶師には無い。
したがって多少遅くなろうが持って帰らないという選択は加賀には初めからなかったのだ。

「そろそろお昼休憩だね」

昼を過ぎ空腹を感じ始めた頃少し開けた場所に陸船を止めるアイネ。
道から少し離れた所まで陸船を曳いていき、固定しておく。
今日の昼はいつもと少し違うようで、加賀は手に入れた器具を実際使ってみるつもりらしい。
取り出したのは蒸し器であった。街を出る前に仕込んで、痛まないように氷と共に運んできたものを蒸し器にならべ火にかける。
少し大量の蒸気が蒸し器からあふれ出してくる。

「蒸気すごいね、これだけ高温なら火も通るか」

蒸気に手をかざし温度を見るアイネ。
どう考えても火傷しそうな行為ではあるがとうのアイネは熱がるそぶりは見せず手に着いた水滴をしげしげと眺めている。

「今日作るのは饅頭だけど……えーと、パンの一種みたいのね。他にもいろいろ使えるし欲しかったんだよねー」

「便利なのね」

「便利だよー、もうそろそろ出来たかなっと」

蒸しはじめてから結構な時間が立つ。
加賀はもう出来ただろうと判断し蓋をぱかっと開ける。その途端詰まっていた蒸気が一気にあふれ出し近くで見ていたアイネが驚きの声をあげる。

「それじゃー食べよっか。今日の魚介とお肉の饅頭だよ」

「生地がすごいふかふかになってるね」

饅頭を手に持ち生地を観察するように眺めるアイネ、やがて十分眺めたところでぱくりと饅頭を口にする。
途端あふれ出す肉汁、アイネが先に食べたのは肉を使った饅頭のようだ。なんとか肉汁をこぼさず一口目を無事食べ終える。

「おいしい……でも、この匂い何かしら。香ばしいような今まで嗅いだことない香り」

「ごま油だねー、ちょっと入れるだけで風味すごい変わるよね」

「……あのちょっとだけ入れた油のこと?」

「そうそう、あれだけで……ってあっつ!」

アイネが余りにも普通に饅頭を手にしていたので加賀も思わずむんずと饅頭を手に取ってします。
当然蒸したての饅頭はとても熱い、手の上で転がすようにしてなんとかやりすごそうとする加賀。

「おさかなの方もおいしいね、野菜も食感残ってて良い感じ」

熱くて手をぱたぱたしている加賀をよそにアイネは二個目の饅頭に取り掛かっていた。
魚介と野菜を合わせた少し変わり種の餡であるが、魚介のうまみがたっぷりでこれも十分おいしく仕上がっている。

「そうそう、加賀」

「あふ?」

「食べたままでいいよ。このペースだと三日で付きそうにないから夜も少し走ろうと思う」

「ん、わかったー……あれ、ライトとかついてたっけ」

ちらりと陸船に視線を向ける加賀。
どう見ても陸船にはライトの類がついていないように見えた。

「なくても見えるし」

「……なるほど」

さすがはノーライフキング。きっちり暗視機能も備わっているようである。
それならば良いかと承諾する加賀。暗い夜道を待ち明かりすらなく走る怖さも知らずに。


「まって、アイネさん。まってえええ」

案の定というかなんと言うか、真っ暗な夜道を結構な速度で走る陸船に足元や手元がまったく見えず、恐怖から思わず叫ぶ加賀。

「ちゃんと見えてるよ?」

「そ、そうじゃなくて。うっすらとしか見えなくてなんか怖いっ」

あいにく今日の夜は曇り空のようで月明かりがなく辺りは闇に包まれている。
周りがほぼ見えず、だが音と風から地面すれすれのところを高速で走っているのが分かる。もちろん椅子に座っているので落ちる事はないのだが……やはり怖いものは怖かったらしい。

「しょうがないなあ」

「え、あ、ちょっ」

加賀のシートベルトを外し加賀をひょいと持ち上げると自らの膝の上に乗せるアイネ。

「これで大丈夫?」

「……ハイ」

アイネの言葉にうつむき答える加賀。
どうやら行きに続いて帰りの道でもこの状態で過ごす事になるようだ。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...