異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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315話 「鍋の季節 2」

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次の日の朝、雪は既に止んでいるが昨晩から朝方にかけ振り続けた雪はあたり一面雪景色に変えていた。
宿の探索者達も半数近くが今日はダンジョン探索は休みのようで、部屋にこもったり、食堂でカードゲームに興じるなど各々暇をつぶしている。


「えーと……アードルフさんが鶏丸ごと、アルヴィンさんがボアのスペアリブ、アントンさんがボアの肉団子、イーナさんがすじ肉……肉率高くない? てかそれでいいのかエルフ……」

厨房でメモを見ながらぶつぶつと呟く加賀。
鍋の具材を用意するために各自から食材を受け取ったりリクエストを聞いたりしていたのだ。
だが今のところ全てが肉である。 野菜好きなイメージがあるエルフらのリクエストも肉であり、それでいいのかと頭を抑える加賀。

「それじゃ次、イクセルさんどーぞ」

まだ10人以上リクエストを聞かねばならい。
ペンを手に持ち次の者に声を掛けるのであった。


「それじゃお願いします」

「はーい。 ……イクセルさんはキャベツ1個まるごとロールキャベツっと。 やっと野菜成分がきた、半分お肉だけど」

リクエストの書かれた紙を改めてまじまじと見る加賀。
ふむ、と呟くと天井を見上げ独り言ちる。

「今のところは皆まともな食材なんだよねえ……嫌な予感するけど、次うーちゃん」

闇鍋といえばネタに走った食材が多くなるイメージがあるが、今のところ宿の探索者達のリクエストは豪快ではあるもののまともな食材だけであった。
だが、次の相手はうーちゃんである。 今朝がたうーちゃんがふらっとどこかに出かけるのを見かけていた加賀、いやな予感でいっぱいであった。

「うーちゃんは何を……うわっでっか!」

う(すごかろ)

のそっと厨房に入ってきたうーちゃんであるが、その腕に巨大な卵を抱えていた。
加賀がすっぽり入りそうな程に大きな卵である。それを抱えたうーちゃんもどこか誇らしげだ。

「うーちゃんこのでっかい卵どうしたの? いったいどこ……で、とって……キタノ?」

いったいどこで取ってきたのか、そう考えた加賀の脳裏に竜などを狩りまくるとあるゲームの光景が浮かぶ。
えっちらおっちら抱えた運んだあの卵。ちょうどこれぐらいのサイズではなかっただろうか? いったいうーちゃんがどこから卵を取ってきたのか。一つだけ加賀に思い当たる節があった。

うー(あっち)

「これドラゴンの卵じゃん!? だめ! 絶対ダメ! 返してきなさいっ」

うーちゃんが指した方角、それは街の北にある汽水湖の方であった。
そこでは現在もともと居る水竜に加え飛竜の番が住んでいるはずだ。

加賀の顔が一瞬で真っ青になる。加賀の脳裏には巣の隅っこで震える飛竜の番、それに対しあくどい顔で卵をかっさらう、うーちゃんの姿が浮かんでいた。

う(えー、むせーらんなのに)

「それでもですっ! ドラゴンさんは食材じゃナイカラネ!?」

うーちゃんを説得し卵を返しに行かせた加賀は沈み込むように椅子に腰かける。
いくら無精卵とはいえ新婚のドラゴンから卵を頂戴するのは色々と問題がある。


「やっぱ肉がおおい……えーとお肉以外はっと、ソシエさんが魚介類セット。 ヒルデさんがキノコいっぱい。ギュネイさんとカルロさんが野菜盛り合わせ……ヒューゴさんが餅、チェスターさんがほうれん草……好きなのかな」

ぐったりしながら紙を見る加賀。
ほぼほぼ全員からリクエストを聞き終わり、残すはラヴィのみとなった。
リクエストの多くはやはり肉であった、だが探索者達も恐らくそうなることは予想していたのだろう、何人かは野菜など肉以外の食材もリクエストに入れていた。

「ほかはお肉……あー最後はラヴィどーぞ」

食堂で待機しているであろうラヴィへと声を掛ける加賀。
呼ばれたラヴィは籠を抱え、嬉しそうに厨房へと入ってきた。

「卵お願いしてもいいかな!」

「予想通りだった、もちろんいいよー。 ゆで卵にしておく?」

「半熟で! あと玉子焼きもいいかな?」

人の言葉がうまく話せず、普段の会話では片言になってしまうラヴィであるが、加賀であればリザートマンの言葉で話しても通じるため、彼本来のしゃべり方となる。

「ん……だし巻きかな? いいよー」

「おでん? に入れるって聞いて試してみたかったんだよねー」

おでんに出し巻きを入れるところもあるが、それをラヴィに話したかどうか記憶にない加賀は軽く首をかしげる。
が、すぐに八木なり誰かが話したのだろうとメモにゆで卵と出し巻き卵と書き加えるのであった。


「おーっし。 そいじゃ仕込みに入るかなー……アイネさーん!」

最後の一人を手を振って見送った加賀。
夕飯に向けて仕込みを開始すべく、アイネに声をかけ厨房の奥へと向かっていった。
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