異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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316話 「鍋の季節 3」

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そして夕飯時。
巨大な鍋が置かれたテーブルに宿の探索者達が席に着いたのを見て、加賀がぽんと手を叩いて皆の注目を集める。

「ほいじゃー、みんな準備いいー?」

加賀の言葉に応える一同。
彼らの手には具材の入ったタッパーのようなものが抱えられていた。

「んじゃ、明かり消すから鍋に具材いれて蓋しめてねー」

そう言って食堂の灯りを消してしまう加賀。
鍋は沸騰した段階で一度火を止めており、光源は僅かな月明かりと近所の家の窓から漏れる照明の光のみである。
先ほどまで明るい部屋に目が慣れていたこともあって、彼らの目にはぼんやりとした鍋の輪郭しか見えない。
暗くなったことでテンションが上がったのだろうか、しばらく騒がしくしていた彼らであるがやがて鍋に具材を投入し始めた。

「思っていたより平和に終わりそうね」

その様子を厨房から眺めていたアイネが加賀に話しかける。
加賀は具材のリストを眺め、うーんと唸りながらアイネの元へと近寄っていく。

「んー……リスト見る限りまともなのばっかりなんだけど」

リストをアイネに手渡しそう話す加賀。
ちなみにアイネは元から暗闇でも視界が効き、加賀は吸血鬼からもらった魔道具を使用しているためこちらも暗闇でも支障はなかったりする。

「けど?」

リストを確認したアイネであるが、確かにそこにはまともな具材しか載っていないように見える。
何か問題はあるのだろうかと加賀へ視線を向ける。

「絶対何か隠し持ってるのいると思うんだよね……」

闇鍋の性質上ぜったい何かやらかす奴が出る、そう考えていた加賀は疑わしい目を食堂の方へと向けた。

「ちょっ、スープこぼれるっての!」

「なんでガサゴソいってんの!? 誰だよ生き物いれたの!」

「え? なんで、液体? 具材じゃないの!?」

「……」

やっぱりといった感じの表情を浮かべ息を吐く加賀。
とりあえず食材以外をいれない限りは見守ることにするのであった。



テーブル1
ギュネイ:野菜盛り合わせ(???)
アルヴィン:スペアリブ
イクセル:ロールキャベツ
ラヴィ:ゆで卵、たまご焼き


ここは1と書かれた番号札が置かれたテーブル。
席につくメンバーの組み合わせは全てくじによって決められている。探索者の一人からその方が面白いと提案があり、それが採用されたのだ。

「それじゃ食べるとするか」

鍋に具材をいれ火にかけてから暫く経つ。
そろそろ火が通っただろうと火を止め蓋を開ける。

「真っ暗でほぼ見えませんね」

「いやはや中々スリルがありますな」

「ウム……」

相変わらず食堂は真っ暗である、それでも薄っすらと鍋の形状はわかるので具材を取ることは出来るらしい。

「あがぁっ……骨ぇ!?」

「なわけないでしょう……」

ガキッと鈍い音とギュネイの悲鳴が室内に響く。
前歯を押さえ涙目のギュネイにアルヴィンが突っ込みを入れる。

「あ、スペアリブかこれ……うん、うまいな」

再び恐る恐るといった感じで具材を口にするギュネイ。
今度は勢いよく口にいれず、ちょびちょびと齧り取るように口にしていく。
先ほどとは違いホロホロと崩れるように肉が骨からはがれていく。

「この妙に転がって取りにくいの……どう考えても卵でしょうな」

「ウム」

真っ暗な部屋の中、本来であれば口にするまで何の具材なのか分からないはずである。だがメンバーを考えるところころと転がりそうなものを入れる者は限られてくるし、物も限られてくる。
イクセルの言葉に頷くラヴィ、どうやら隠す気はなさそうである。

「この中央にある妙にでかいのが気にはなりますが、美味しいですね。 スープも少しピリ辛で……グボァォッ!?」

「お、当たり引いたのアルヴィンか。 いやーやっぱただの野菜だけじゃもの足りないかなと思ってさー。はっはっはっ……ほ?」

中央にあるもの……キャベツ1玉つかったそれは巨大すぎてまだ誰も手を出せないでいた。 それはそうと鍋の具材、おそらく野菜らしきものを口にしたアルヴィンの口から悲鳴と共に何かが飛び出る。
ゲホゲホとせき込むアルヴィンをみて笑うギュネイであったが、ふいにがしりとその腕を何かがつかむ。
暗闇から次々伸びる腕はギュネイの口を押え、その中に先ほどアルヴィンが食べたものと同じものを詰め込んでいく。やからしたものは自動的に罰ゲーム状態となるようだ……。

「もごぉーっ!?」


ギュネイ:野菜盛り合わせ(唐辛子)


テーブル2
ソシエ:魚介類セット
ヒルデ:キノコ一杯
ロレン:ウィンナー
アントン:ボアの肉団子

そして2番のテーブルであるが。
こちらは先ほどのテーブルと違いいたって平和であった。
やからしそうな人物が居ないというのが大きいのだろう。

「そろそろ煮えたかねえ」

「いいと思うよー」

火を止め鍋の蓋を上げるヒルデ。
ふわりと湯気が舞い、あたりに魚介とそしてわずかな燻製香が漂う。

「匂いは良いですね」

「どれ……これは魚か。いけるぞ」

「ああ、こいつはいけるねえ」

「良いお出汁がでてるー」

全ての具材からいい感じに出汁がでていた。
それにどれもが鍋でよく使う……ウィンナーは別かも知れないが、あれはあれでポトフなどに使ったりするので鍋の具材としてカウントして構わないだろう。
普通においしいお鍋に仕上がっていたのである。

「〆は何でしょうね」

「麺か米ではないかな」

出汁がおいしければ〆もきっと美味しくなるだろう。
麺でも良いし、最近食べなれた米でも良い。どちらにしても美味しいのは間違いないのだから。

「……結局みんなまともな食材だったね」

一通り具材を食べ、それぞれ何の食材を持ってきたのか判明したところでソシエがぽつりと独り言ちる。

「そりゃ自分が食うこと考えるとねえ」

4人共何かしかけようかとまったく思わなかった訳ではない。ただ入れた以上は自分も食べなければならないし、何より食べ物にいたずらすると酷い目にあう予感がしてたのだ。

「やらかすとああなると……」

その言葉に4人の視線があつまる。
視線の先には真っ白になったギュネイがいた。
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