異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
28 / 332

27話 「街の外」

しおりを挟む
二人がギルドに登録してから数日がたつ。
その間、加賀は町中を回り食材の確認、さらにはいくつかの飲食店をバクスと共に巡り提供される料理の確認を行っていた。

「んぉ~…」

八木はと言うとギルドに通いこの辺りで入手可能か建築材の確認、さらにはこの街における宿の形式などについてひたすら調べ、バクス邸ではひたすら図面を書き起こす作業に没頭していた。

「んあぁっ」

早朝のバクス邸、ふいにガチャリとドアが開く音がする。
少し開いたドアからひょいと顔をのぞかせる一人の少女…ではなく加賀。
彼は部屋の中をのぞくと形の良いまゆをひそませる。

「…さっきから変な声だして何やってるの?八木」

「……図面」

「ん?」

「図面が終わらないぃぃいいい」

「……」

ここ数日ひたすら図面を書き続けていた八木であるが、進捗具合はあまり芳しくない。
図面を描くさいにはPCを使用していた為、手書きでは思うように描けないのだ。

「無理するなよー。眼の下くまできてるじゃん。」

「うー…」

「ほんと大丈夫かいな……」

ご飯ができたことを伝え部屋をでる加賀。
遅れて八木も部屋をでるがやはりかなり眠そうである。

「…ってなわけでー、今日は街の外にいくんだけど、八木どうする?」

「………?」

「…色々とだめそうだな。」

食後休みに椅子に腰かけ茶を飲む3人。
今日のこの後の予定を話しているようだが…加賀が問いかけるも半ば寝ていた八木の反応は芳しくない。
半分寝ながら茶をすするその姿を見たバクスはやれやれと言った様子で肩をすくめる。

「だいぶ無理してそうだな…俺と加賀で出かけるから八木は今日は休んでおけ、そのうちぶっ倒れるぞ」

「うぅ…」

「八木ー無理せず休みなよ、倒れたら元も子もないって。外にいくもバクスさんいるから大丈夫。ね?休んどこ?」

「…わりぃ、お言葉に甘えて休むことにするよ」

やはり連日の徹夜は無理がったのだろう。
軽く眉間をもむとそう答える。



「それじゃ行ってくるねー、ちゃんと寝るんだよー?」

「鍵はかけてお。ゆっくり休むといい」

八木へと声をかけ街の外へと向かう二人。
加賀は外に出るのがうれしいのか見送る八木に向かって振られる手は肩が外れんばかりの勢いだ。
バクスはというと普段とは違い金属鎧を身に着けているが、その足取りは軽くまるで金属鎧の重さなど苦ではないといった様子だ。

「…いったか」

二人の姿が見えなくなるのを見届け八木は家の中へと戻る。
八木一人だけの部屋はひどく静かでどこか寂し気である。

「…寝るか」

だがそんな静けさも今の八木にはありがたい事である。
靴をぬぎベッドに倒れこむとすぐ寝息を立て始めた。






一方家を出て街の外へと向かう加賀とバクスの二人だが、その足取りは門からやや離れた方へと向かっていた。
歩いて行くには加賀にはちと遠いだろう。そう言ったバクスに連れられ向かった先、そこにあるたのは一見すると車用の大型ガレージの様な建物であった。

「あれがそうですかー?」

「ああ、あそこに預けてある。」

預けているものは何か気になった加賀、ここに来るまでの道中バクスへ何を預けているのか尋ねてみたがバクスはニッと笑い楽しみにしてろ、と言い教えてはくれなかった。
歩いて行くには遠いと言うバクスの言より恐らく何かしらの乗り物だろうとあたりをつける加賀であったが…

「わっわっ、思ってたのよりすごい立派!」

「そうだろう、そうだろう。中もみてみるか?」

中にあったのは中型のバスほどだろうか、中々に大きな車両であった。
それも町中で見かけたような木製ではなく、加賀から見える範囲は金属で出来ていた。
さらには整備をしてる人で良く見えないがタイヤはゴム製の様であるなど、全体的に見て現代日本の車両と比べてもあまり遜色ないレベルに見える。
ガレージにあるそれを見て子供のようにはしゃぐ加賀、バクスはその様子をみて満足そうに頷くと鍵を差し込み金属製のドアを開く。

「おぉー…内装もすごーい、家の中みたい…奥にあるのはベッドかなー?」

「うむ、あとは冷暖房もあるし…そこの扉は冷蔵庫になってる。」

加賀の言葉に気をよくしたのか次々に設備の紹介をしていくバクス。
内装を一通りみて外に出たところで加賀が何かに気が付いたように首をかしげるとバクスへ声かける。

「んん…?バクスさんこれって…」

「む、どうした?」

加賀の視線の先にあったもの…と言うよりは無かったものは自動車でいうエンジンにあたる部分…前半分が何もなかったのだ。

「御者台がどうかしたか?」

「御者台…え、ってことはこれの動力って」

「馬だぞ」

「あ、そうなんだ」

あっさりと言われたその一言に思わず真顔になる加賀であった。
動力が馬である事にショックを受けた加賀であるが、すぐ気を取り直し再びバクスへと話しかける。

「この車両をひくとなると…バクスさんお馬さんいっぱい飼ってるんですが?」

「飼ってるぞ。つっても一頭だけだがな」

「え…それじゃ」

足らないのでは?そう言おうとしたところで不意に加賀の耳に低く震えるような音が、そして地面からは振動が伝わってくる。

「来たか」

「いまのは馬の…」

徐々に近づいてくる蹄の音、それは加賀の記憶にある音よりいくぶん重みがあるものだった。
音はガレージの前でとまり、がらがらとガレージの戸が上がっていく。

「でっか!!え、うそこれ馬!?……馬だー!」

「立派だろう?」

驚く加賀をよそに馬に近づくバクス、そっと首筋をなでながら久しぶりだなと声をかける。
馬のほうはそのいかつい見た目とは違いかなり大人しい、バクスに撫でられても嫌がるそぶりは見せずたまにバクスの袖を噛んでいる。

「今日は森まで出かけたくてな、頼むぞ」

撫でながら話しかけるバクスに答える様に馬は小さく嘶くと自ら御者台の方へと向かっていった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...