異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
36 / 332

35話 「夕飯はおさかなです」

しおりを挟む
「こっちあいてっぞ」

「お、ほんとだ。らっきー」

バザーをぐるっと一回りした後、一行は夕飯を買うと飲み物を扱っている店に入る。
あたりはすっかり暗くなっているが、この店は夜でも営業しているようだ。

また食べ物の持ち込みが自由な為、回りを見渡すと皆同じように何かしら食べ物を持ち込んでいる。

「俺は……ビールはないよな? そうか……じゃあウォッカをくれ」

持ち込み自由ではあるが、代わりに何か一つ飲み物を頼むシステムのようだ。

注文を取りに来た店員にバクスはビールはなかったのでウォッカを、八木はワイン以外に酒があることに気づきウィスキーを頼んだようだ。
なお、加賀は果汁ジュースを頼んでいた。

「おっし、あったかい内に食おうぜ」

「お前もなかなかチャレンジャーなものを買ったなあ……」

バクスの呆れるような視線の先にあったのは、たこ足を焼いたものであった。
こんがりと焼かれたそれは八木や加賀には美味しそうに見えるが、バクスには得体の知れないものにうつったようだ。

「うちらのとこじゃ割とポピュラーな食いもんだったんすよーっと。 んっ……んぎぎっ」

堅かったのか食いちぎるようにたこ足を食べる八木。
なんとか飲み込むと歯ごたえすっげえと大はしゃぎである。

「見た目あんまよくないからねー」

なれると平気だけど、そういう加賀の手元にあったのは脂の乗りまくった鯖の塩焼きとパンである。

「脂すっごいなー、レモン買っといてよかった……ん、おいし」

魚はをパンに挟むと器用にも頭と中骨、尻尾をとりのぞき、ぱくりとかぶりつく。
パンは少し固めでボソボソしていたが、それが脂をすってちょうど良い感じになっているようだ。

「お、ウィスキーいける……あん? うーちゃんどうした? 口にあわんかったかな」

先ほどから静かだったうーちゃんだが、魚の串焼きを一口かじりお皿に置くとそれっきりもう口をつけてないようだ

うー(……味しない、忘れとったわい)

「ああ、そうだったな。……どうする? ここで調理するわけにいかんし、一度宿戻るか?」

「いあ、宿にもどっても調理道具とか馬車の中だし……うーちゃんちょっとこれ食べてみて?」

絶望したと嘆くうーちゃんをなだめ、自分が食べていたパンを少しちぎり、うーちゃんに渡す加賀。
受け取ったパンを少しだけかじると、もそもそといった感じで食べるうーちゃん。
呑み込んだところであれ?と首をかしげ再びパンにかじりつく。

うー(これ、いけるぞいっ)

「んん? どゆこと?」

加賀から受け取ったパンを美味しそうに食べるうーちゃんを見て、不思議そうにしている八木。
加賀はうーちゃんの串焼きをとり、骨を外しながら口を開く。

「たぶんだけど、パンにおさかな挟んだのが調理した判定になったんじゃないかなー」

「ええ……判定ゆるゆるじゃん」

「厳しいよりいいじゃんー。ほい、うーちゃん」

おさかな挟んだパンをうーちゃんに渡し、自分も残りの分にとりかかる。

「ふむ、まあ判定ゆるいほうが助かるな」

そう言って魚を口の中に放り込み咀嚼すると、間髪入れず酒をあおるバクス。
ちなみにバクスが買ったのは塩をきかせた小ぶりな魚屋をじっくりあぶり、骨まで丸ごと食えるようにしたものだ。

「いつでも加賀が飯作れるとは限らんし、俺が作っておいて後で加賀が挟むなりすれば良いってんなら大分楽になる。あとは加賀が作った料理がどこまで適用されるかだな」

「と言いますと?」

八木の問いに再び口に入れた魚を飲み下すと酒をあおり、口を開く。

「例えば加賀が前に作ったトマトソース。あれを俺が使って料理造った場合加護は適用されるかどうか……他人が作ったものに少し手を加えただけでも適用されるんだ、逆の場合も十分あり得るだろう」

このあたりは帰ったら検証だな。そう言って再び魚を口に放り込む。
大分気に入ったようだ。

うっ(魚もなかなかええもんだの)

「そだねー、海のものは塩漬けとか干物ぐらいしか手に入らないけど……川のならたまに売ってるし、次見かけたら買っておこっか」

うーちゃんも魚は気に入ったようだ、仰向けになりぽっこりふくれたお腹を満足げにさすっている。

「さて、腹もふくれたし戻るとするか」

そう言うとバクスはコップに残ってた酒を飲み干し席を立つ。
その足取りは度数の高い酒をかなり飲んだにも関わらずしっかりしている。

「バクスさん酒強いっすね」

「まあ、それなりにはな。……二人とも明日の予定は決めてあるか? ないならまずギルドに行って情報もらおうかと思うが」

「ボクはそれでいいと思いますー」

「俺もギルドは元々いくつもりだったし、それで構わないっす」

宿への帰り道、明日の予定日を二人に尋ねるバクス。
情報集まるためにも先にギルドに行ったほうが良いだろう、そう判断した二人はバクスの提案に賛同する。



「それじゃそろそろ寝るが……その皿何に使うんだ?」

店をでて間もなく一行は宿へと到着していた。
後は各自部屋に戻り寝るだけといったところで加賀は店員に頼み皿を受け取っていた。

「これはお供え用ですよー」

「お供え?」

お供えと聞いて不思議そうな顔をするバクス。
加賀はパンに残しておいた魚を挟むと手を合わせる。

「精霊さん、今日は港でとれたお魚です。よかったら食べてみてくださいー」

「精霊もくえるのか……?」

「いやあバクスさん、それがきっちり食えるみたいなんすよ」

そう八木が言った直後皿にのっていたパンの三分の一ほどが消えるように無くなる。

「うおっ!?」

驚き声をあげるバクス。いったいどうなっているのか、まじまじとパンを観ようとしたところで残りも消えるように無くなってしまう。

「こんな感じですよー」

「まじで食えるのか……絶対人前ではやるなよ?」

そう念を押したバクスは疲れたように自室へと戻る。
残った二人も皿を店員に返し、今日はそこで解散となった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...