相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴

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その後のふたり

7月21日の悪夢

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「7月21日はオナニーの日らしいな」



 そんな月島の言葉に、油断していた俺は思い切りお茶を吹き出した。
 汚いなと嫌そうな声が聞こえたが、文句を言いたいのはこっちである。

「……お前、どこでそんなこと覚えてくるんだ?」
「なに、この間の飲み会でそんな話をしているのが聞こえてな」
「だからといって話題にするか? 自分のキャラを考えろよ……」

 ぽたぽたと顎から滴る水滴を手の甲で拭いつつ、疲れた声音で呟けば、月島は片眉を上げて憎たらしい笑顔を浮かべた。

「前から感じてはいたのだが、君は少々私に夢を見てはいないか? 私だってれっきとした男だぞ」
「いや……鏡でその腹立つほど爽やかな顔見てこいよ」

 多少自覚があることを指摘されて動揺する。
 共に過ごす時間が長くなり、今までの印象とは違う面を見てきた今でも、どうも月島は潔癖で性的なことは似合わないといったイメージが根強く残っていた。

 そんな訳が無いことは俺が一番知っているというのに。


「そういう訳で篠崎君。自慰行為を見せてくれる気はないか?」
「カケラもないぞ!?」

「そうか、残念だ」


 月島のトンデモ発言に叫び返せば、思いの外あっさりと意見を取り下げられた。
 何事もなかったかのように寝室へ向かう月島の背を眺めながら、揶揄われただけかと胸を撫で下ろす。


 しかし、その考えはすぐに改めさせられることになる。


◆ ◆ ◆



「はっ、月島、もっと……!」
「性急だな、君は」

 クーラーが効いてもなお暑い寝室の中に、ぐじゅぐじゅと卑猥な水音が響いている。

 いつもより遅いストロークに焦らされ、思うように上り詰めるられずにいた。
 目の前の月島の首にしがみついて強請るが、願いは聞き入れられない。

 それどころか、逆にぴたりと動きが止められてしまう。
 昂ぶっていた熱をそのまま放り出され、俺は思わず抗議の声を上げた。

「な、んで……止まるんだよッ」
「篠崎君、先程のお願いなんだが」

 一瞬何のことか理解出来なかったが、すぐに月島の思惑を察して頰が引き攣る。

 この男は、本当に執念深い。



「おい、まさか……」
「このまま、自分で慰めてくれないか?」



 月島の言葉は疑問形だったが、拒否権は用意されていなかった。

 手を動かそうとしない俺を見て、月島は急かすように腰を動かす。
 じりじりと快感が生まれ、また上り詰めていくが、限界が近づいたところでぴたりと止められる。

「ほ、本気かよ……ッ!」

 寸止めを何度も何度も繰り返され、半分泣きながら俺は悟った。

 コイツは己の欲望を満たすまで梃子でも動く気はないと。
 絶対に俺が自慰に耽る様を見てやるというとてつもない執念が伝わってくる。

 自分だって今の状態は辛いはずなのに、何をそこまで熱心になっているのだろうか。

 そんなに見たいか、俺の自慰姿が。
 真顔で頷かれそうだから怖くて聞けないけれども。


「くっそ……! なんでそんなもんに拘るんだよっ!」
「君が恥ずかしがる姿を見たいからに決まっている」

「趣味悪いぞ、お前……! 畜生っ」

 こうなればヤケだと諦めて自身に手を伸ばす。恥ずかしがったら負けだ。
 淡々とこなしてやればいい。そう思っていたのだが、月島のギラギラとした目に威圧され、耐え難い羞恥に赤くなる。


「そ、そんなに見るなよ。バカ」
「今の台詞いいな、もう一回言ってくれるか」

「だっ、黙れ変態!」


 八つ当たり混じりに枕を叩きつける。
 正面からそれを受けた月島は、しかし微動だにせず爛々と目を輝かせていた。

 何がお前をそこまで駆り立ててしまっているんだ。勘弁してほしい。

 期待に満ちた視線に見つめられ、渋々自分を慰め始める。
 早く終わらせてしまおう。それだけ考えて、俺は目を閉じて無心で手を動かした。


「……ッ、ふっ」
「…………」

 瞼の向こうで、月島が生唾を飲んで見入っているのを感じる。
 穴が開きそうなほど熱心に見つめられ、全く集中出来なかった。

 おまけに、先ほどから硬さを増している腹の中のモノが、目を瞑っていても月島の興奮を伝えてきて、恥ずかしさで殺されそうである。


「ん、んん……ッ」


 何とか行為に没頭しようと、自分の気持ちいいところを集中的に責めていく。
 尿道を潰すようにぐりぐりと親指でにじり、雁首に軽く爪をかけ、快感を生み出していく。

 快楽に頭が鈍れば、浅ましい姿を月島に見られているというのも、自身を追い立てる一つの材料となっていく。
 太ももを痛いくらい握りしめている月島の手を感じながら、俺はやっと絶頂へと至った。

「んあ、ああ……ッ!」
「……っ」

 絶頂の反動でぎゅうぎゅうと締め付けられた月島が眉根を寄せて息を詰める。
 その表情がどうしようもなく色っぽくて、吐き出したばかりの熱がまた疼いた。


「は……っ、これで満足だろ……早く動けよ」
「少し、待ってくれ……癖になりそうだ」


 ぼそりと恐ろしいことを言う。
 一旦冷静になった頭ではあまりにも恥ずかしい行為で、二度と御免だった。

 やがて月島は、堪えるように一度深呼吸すると、にっこりと機嫌良さそうに笑った。



「いや、いいものを見せてもらった。おかげで君が好きな触り方も分かったしな」
「――は!?」

 そう言うと月島は、先ほど俺が自分で触っていた時と同じような手付きで俺のモノを嬲っていく。
 イイところを的確に責められ、あっという間に上り詰めさせられてしまう。

 いかに月島が、さっきの行為をまじまじと観察していたかを思い知らされる気がして、また顔が熱くなった。


「こうやって触られるのが好きなんだろう?」
「お前ほんと……! 本当に意地が悪い!!」

「勉強熱心だと言ってくれ」
「ん、ああ……ッ」

 抗議の言葉は、腹の底を突かれて無理矢理中断させられた。
 そして、息もつかせる気がない責め苦が開始される。

 知っていたけれども、コイツには情け容赦という言葉がない。


「……またやって欲しいな」

「だ、誰が……! 二度とするかッ!!」



 拳を振りかぶりながら啖呵をきったものの、結局うんと言うまで責め立てられ、オナニーの日とやらは散々な一日となったのであった。
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