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婚約者クライン
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「カレン、今日は一緒に昼食をどうだい?」
「喜んで」
私、カレン・ブライスは婚約者のクラインに誘われて、うちのメイドが作ってくれたお弁当を持って席を立つ。
教室内は四限の授業が終わった直後で、解放感に包まれた生徒たちの話し声でにぎわっている。私はそんな中をクラインに手を引かれて歩いていった。
今日はどこに向かうのだろうと思っていると、彼が向かったのは校舎の屋上だった。屋上にはいくつかのベンチが置かれており、そこで昼食をとろうとしている生徒の姿もちらほら見える。私たちは空いているベンチに一緒に腰かけた。
「いい眺めだね」
「そうだね」
校舎は四回建ての建物なため、屋上からは学園の校庭だけでなく、王都の街並みまで見渡すことが出来る。また、今日は風も吹いて来て気持ちいい。
ここ王立貴族学園はその名の通り、ここアルカディア王国が貴族の子女を教育するために建てた四年生の学園である。私とクラインはこの春二年生になった同級生で、お互いに王国内で有数の貴族家であるブライス公爵家とガスター公爵家の長女と長男である。
私たちは年齢が同じで家格も釣り合うことで政略結婚させられたが、実際のところクラインは申し分ない男だった。
家柄がいいだけでなく、目鼻立ちが整ったすっきりした顔立ちで、学問の成績も悪くなく、運動神経もいい。しかもそういう男にありがちな勘違いしたプライドの高さや周囲への見下しもなく、優しい性格だ。私のことも単なる婚約者という以上に好いてくれていて、今日もこうしてお昼に誘ってくれている。
婚約は政略のためであったが、私がまだ学園に入学したばかりで右も左も分からずに困っていたとき、クラインは私のことをいつも気にかけてくれていた。その時以来私の方もクラインに好意を抱いている。
そんなクラインであるため、学園内にもクラインに心をときめかす他家の貴族令嬢も多いと聞く。しかし皆家格が私たちに及ばないため、仕方なくといった様子で私たちの仲を祝福してくれているらしい。
私たちがお弁当を広げると、クラインのお弁当には可愛らしいマフィンがついている。
それを見て私は何の気なしに言う。
「あれ、お弁当にマフィンが入ってるなんていいね」
すると私の言葉にクラインは目を輝かせた。
「そうだろう? 実はこれ、レイラが作ってくれたんだ。レイラは最近お菓子作りに熱中しているせいか、いつも僕にお菓子を作ってくれるんだ。この前も……」
突然早口になったクラインに私は内心溜め息をつく。
そう、これがクラインの唯一にして最大の欠点だった。
クラインにはレイラという一つ年下の妹がいる。元々彼は優しい性格ではあるのだが、レイラに対してだけはその優しさは、こう言っては何だが常軌を逸した濃度で向けられていた。
今のように何の気なしに振った話題がレイラに繋がると、彼はレイラの話しかしなくなるので非常にやりづらい。
去年まではそこまででもなかったが、今年に入りレイラが学園に入って来てからは急にそれが激しくなったので私は辟易していた。
結局私といるときもレイラの話しかしないのか。
慣れていることとはいえ、彼の態度があからさま過ぎてさすがに悲しくなる。
「あの、私も最近料理を習い始めたんだけど……」
いつまで待っていてもクラインの話が終わらないので私は遠慮がちに切り出してみる。
「そうなのか。そうそう、レイラが料理を習い始めた時に言っていたんだけど、料理するときに一番大事なのは……」
クラインは私の話を聞いてくれない訳ではないが、すぐに話はレイラの話へと戻っていく。
やはり彼にとっては政略結婚で無理矢理婚約者にさせられた私よりも実の妹であるレイラの方が大事なのだろうか。
そう思いながら私は彼の話を聞き流しながら自分の食事に意識を集中させる。
メイドが心をこめて作ってくれたお弁当はおいしいはずなのに、今日はあまり味がしなかった。
やがて午後の授業の始まりを告げる予鈴がなり、そこでようやくクラインは話をやめ、残っていた弁当を慌てて食べるのだった。
「喜んで」
私、カレン・ブライスは婚約者のクラインに誘われて、うちのメイドが作ってくれたお弁当を持って席を立つ。
教室内は四限の授業が終わった直後で、解放感に包まれた生徒たちの話し声でにぎわっている。私はそんな中をクラインに手を引かれて歩いていった。
今日はどこに向かうのだろうと思っていると、彼が向かったのは校舎の屋上だった。屋上にはいくつかのベンチが置かれており、そこで昼食をとろうとしている生徒の姿もちらほら見える。私たちは空いているベンチに一緒に腰かけた。
「いい眺めだね」
「そうだね」
校舎は四回建ての建物なため、屋上からは学園の校庭だけでなく、王都の街並みまで見渡すことが出来る。また、今日は風も吹いて来て気持ちいい。
ここ王立貴族学園はその名の通り、ここアルカディア王国が貴族の子女を教育するために建てた四年生の学園である。私とクラインはこの春二年生になった同級生で、お互いに王国内で有数の貴族家であるブライス公爵家とガスター公爵家の長女と長男である。
私たちは年齢が同じで家格も釣り合うことで政略結婚させられたが、実際のところクラインは申し分ない男だった。
家柄がいいだけでなく、目鼻立ちが整ったすっきりした顔立ちで、学問の成績も悪くなく、運動神経もいい。しかもそういう男にありがちな勘違いしたプライドの高さや周囲への見下しもなく、優しい性格だ。私のことも単なる婚約者という以上に好いてくれていて、今日もこうしてお昼に誘ってくれている。
婚約は政略のためであったが、私がまだ学園に入学したばかりで右も左も分からずに困っていたとき、クラインは私のことをいつも気にかけてくれていた。その時以来私の方もクラインに好意を抱いている。
そんなクラインであるため、学園内にもクラインに心をときめかす他家の貴族令嬢も多いと聞く。しかし皆家格が私たちに及ばないため、仕方なくといった様子で私たちの仲を祝福してくれているらしい。
私たちがお弁当を広げると、クラインのお弁当には可愛らしいマフィンがついている。
それを見て私は何の気なしに言う。
「あれ、お弁当にマフィンが入ってるなんていいね」
すると私の言葉にクラインは目を輝かせた。
「そうだろう? 実はこれ、レイラが作ってくれたんだ。レイラは最近お菓子作りに熱中しているせいか、いつも僕にお菓子を作ってくれるんだ。この前も……」
突然早口になったクラインに私は内心溜め息をつく。
そう、これがクラインの唯一にして最大の欠点だった。
クラインにはレイラという一つ年下の妹がいる。元々彼は優しい性格ではあるのだが、レイラに対してだけはその優しさは、こう言っては何だが常軌を逸した濃度で向けられていた。
今のように何の気なしに振った話題がレイラに繋がると、彼はレイラの話しかしなくなるので非常にやりづらい。
去年まではそこまででもなかったが、今年に入りレイラが学園に入って来てからは急にそれが激しくなったので私は辟易していた。
結局私といるときもレイラの話しかしないのか。
慣れていることとはいえ、彼の態度があからさま過ぎてさすがに悲しくなる。
「あの、私も最近料理を習い始めたんだけど……」
いつまで待っていてもクラインの話が終わらないので私は遠慮がちに切り出してみる。
「そうなのか。そうそう、レイラが料理を習い始めた時に言っていたんだけど、料理するときに一番大事なのは……」
クラインは私の話を聞いてくれない訳ではないが、すぐに話はレイラの話へと戻っていく。
やはり彼にとっては政略結婚で無理矢理婚約者にさせられた私よりも実の妹であるレイラの方が大事なのだろうか。
そう思いながら私は彼の話を聞き流しながら自分の食事に意識を集中させる。
メイドが心をこめて作ってくれたお弁当はおいしいはずなのに、今日はあまり味がしなかった。
やがて午後の授業の始まりを告げる予鈴がなり、そこでようやくクラインは話をやめ、残っていた弁当を慌てて食べるのだった。
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