聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃

文字の大きさ
2 / 21

放課後

しおりを挟む
 その後授業が終わり、学園は放課後を迎える。放課後の生徒たちの活動は様々で、スポーツをする者や手習いをする者など様々だが、私やクラインはどちらも学園での活動には所属していなかった。

 昼休みに気まずい雰囲気になってしまったこともあり、勇気を出して私はクラインを誘うことにする。大丈夫だ、今度は気を付けてレイラを想起させる話題は振らないようにしよう。そしたら彼は私が好きな彼のままでいてくれる。

 そう自分に言い聞かせて私はクラインに歩み寄る。
 するとクラインはいつものように優しい笑みを浮かべて私を見る。

「どうしたんだい、カレン」
「クライン、今日は途中まで一緒に帰らない?」
「もちろんいいよ」

 私の提案にクラインが頷いてくれてほっとする。

「あの、それでもし良ければ近所に新しくオープンしたカフェによらない?」
「いいよ」
「ありがとう」

 クラインの答えに私は表情を輝かせる。カフェに行きたかったのは本当だし、カフェに入ればレイラの話題にはならないだろう。
 そう思ってカフェに誘ったのだが、クラインが頷いてくれてほっとする。それにそこは令嬢友達も行ったらしく、彼女らにも評判が良かったので行ってみたいと思っていたのだ。

 私はクラインと一緒に歩いて校舎を出ようとした。
 その時だった。

「お兄様!」

 後ろから聞こえてきた声に私はびくりと震えてしまう。

「どうしたレイラ?」

 一方のクラインは私と話している時とは違い、穏やかな笑みを浮かべて振り返る。そこに立っていたのはきれいな金髪に巻き毛の可愛らしい外見の少女だった。一年生らしくぴしっと制服を着ているがどこか制服に着られているという印象があるあどけない少女で、もし彼女が婚約者の妹でなければ私も庇護欲をそそられたかもしれない。

 レイラの方もクラインを見ると、なぜかまるで恋人の前に出た乙女のように幸せそうな笑顔を浮かべる。兄妹という関係だからそれ以上のことはないのだろうが、見ているこちらとしては不愉快だった。
 が、彼女はクラインが駆け寄っていくと急に沈痛な表情を浮かべる。

「お兄様、今日は同じクラスのイレーナに虐められましたの」
「何てやつだ。一体何をされたんだ?」
「彼女は取り巻きと一緒に私のことを『ぶりっこ令嬢』とか、『恋人に色目を使った』とか言いがかりをつけてきましたの。皆で私を囲むようにして言ってくるから怖くて怖くて」

 そう言って彼女は目に涙をにじませる。

「全く、何て酷い奴らだ。こんな可愛いレイラを虐めるなんて」

 そんな光景を見て私は胸の奥がずきりと痛むのを感じる。婚約者の妹にこんなことを思ってしまうのは良くないことだと分かっているのに、私はイレーナという顔も知らぬ令嬢に共感してしまう。

 レイラは本人が意識しているのか無意識なのかは分からないが、いわゆる「魔性の女」であった。彼女の仕草の一つ一つが男心を惹くものがあった。それで一番惹かれているのが実の兄というのは滑稽であったが。

 イレーナはそんな彼女に苛ついて、つい強く言ってしまったのだろう。

「ありがとうございます、お兄様は何があっても味方だと信じていますわ」
「もちろんだ。だって僕はレイラのたった一人の兄なのだからね」

 そう言って彼はレイラを抱きしめる。
 兄と妹のスキンシップとしては普通のことだ。そう自分に言い聞かせようとするが、なかなかうまくいかない。
 ひとしきり二人は話した後、クラインは申し訳なさそうな表情でこちらを見る。

「悪い、カレン。今日はレイラは不安定なんだ。だから彼女の側にいてやりたいんだ。だからカフェは今度にしてやってくれ」
「……分かった」

 もしここで「嫌だ」と言ったらそれは我が儘だろうか。
 聞き分けのない女と思われるだろうか。

 そんなことを思いつつ私は頷くしかなかった。が、頷いた瞬間胸の内を無数の小さな針で刺されたような気持ちになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。

芹澤©️
恋愛
王太子の元へ側室として嫁いだ伯爵令嬢は、初夜の晩に宣言した。 「申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。」

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

処理中です...