継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃

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代役

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 私たちが廊下に出た直後でした。
 一人のメイドが深刻そうな表情でブラッドの元へ駆け寄ってきます。

「お忙しいところすみません、ランさんが急に倒れてしまいまして」
「何だと?」
「はい、夕食を作っている最中に突然熱を出して苦しみ始めて」
「まずいな……おそらく、最近うちは人手不足だから無理して働いてくれていたんだろうが……とりあえず君は彼女を医者に連れていってくれ」

 話を聞く限り、倒れた方もこの家のメイドなのでしょう。人手が厳しいと、少々体調が悪くてもそれを言い出せないというのはよくあることです。

「分かりました……ですがそれだと今晩の夕食はどうしましょう?」
「大丈夫だ。別にパンや野菜はそのまま食べることも出来る。それよりも彼女が無理していてくれていたにも関わらず、それに気づかなかった僕が悪かった」
「分かりました」

 そう言って彼女は去っていきます。

「悪いね、せっかく来てくれたのに我が家の内情を見せてしまって」
「いえ、うちも似たようなものですから」

 まあハンナは体調が悪くなるとすぐ、いや悪くならなくても気分が乗らない日はすぐに休みますが。

「あの、今日はこの屋敷は夕食を作る方はいないのでしょうか?」
「そうだが、別に食べ物自体はあるから安心してくれ」
「いえ、もし良ければ私が夕食を作りましょうか?」
「え?」 

 私の突然の提案にブラッドはさすがに困惑します。もう結婚しているのならばまだしも、婚約しかしていない女性がこういう形で夕食を作ることは珍しいでしょう。自宅で料理を作ってホームパーティーのようにしてもてなすというパターンはあるかもしれませんが。

「先ほどもお話ししたように私はお料理には自信があります」
「とはいえ、そんなことをさせる訳には……」

 さすがにブラッドは戸惑いました。
 とはいえ私としてもどうせ料理を作るなら、うちの人たちではなく彼に作る方がいいです。

「大丈夫です、どうせ家に帰っても花嫁修行と称して家事を押し付けられるだけですから」
「なるほど……」

 そう言ってブラッドは考えこみます。もしかしたら先ほど私が話した家での扱いを思い出したのかもしれません。

「そうか。それなら頼もうかな。帰りはこちらから人を出して送り届けるから、君の家からやってきた御者の方には手紙だけ渡して帰ってもらおう」
「分かりました!」

 確かに、帰らないにしても何かしら連絡はした方がいいでしょう。
 私が嬉しそうにしているのを見てブラッドは苦笑しました。

 こうして、私はアーノルド家のキッチンに向かいます。不思議なことに、他家と言えどもキッチンに入ると何となく落ち着いてしまいます。

 材料を確認し、新鮮な野菜とちょっといいお肉があったのでサラダとステーキにすることにしました。サラダはレタス、トマト、ベーコンなどを切って粉チーズとクルトンをまぶし、最後にマヨネーズやチーズ、牛乳で作られたシーザードレッシングをかけます。

 次にお肉は少し固めに焼いて、私が家でよく使っているニンニクを使った香ばしめのタレを作り、味付けします。
 最後に、キッチンにあったパンを温めて終わりです。後は料理を食卓に持っていくだけ。

 が、そこで急に緊張してきました。私の料理にこの家の方々はどんな反応をするでしょうか。ブラッドはちゃんとおいしいと思ってくれるでしょうか。
 うちでは家族の反応など気にならなかったので緊張もしませんでした。どうせ彼らは何を作っても文句を言うので反応を気にするだけ無駄です。しかし今日のようにいざ相手に喜んで欲しいと思うと急に緊張してしまうのでした。
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