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Ⅰ
ブラッドの提案
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私が落ち着いたのを見て今度はブラッドが口を開きます。
「さて、全部聞かせてもらったが、君の家は色々と酷いな」
「やはりそうだったのですね」
おかしいとは思いつつもずっとこんな調子が続いていたので最近はふとこれが当たり前なのか、と思ってしまうことも増えていました。そのため他家の人物にはっきりとそう言っていただけると非常に嬉しいです。
「まず君の母親、と言っても継母ではあるが、家が厳しいというのに毎日のように遊びに出ているのは正気を疑うね。現状が分かっていないか、自分だけが良ければ後はどうなってもいいという快楽主義者であるかのどちらかだろう。メイドのハンナと妹のジェーンはただの意地悪な女だな。おそらく君が相手ならどれだけ虐めても問題と思っているから虐めているというだけで、もし君が家を出れば他の使用人を捕まえて虐めるだろうね。だから別に君が悪い訳ではない」
「ありがとうございます」
虐められていると、どうしても自分が悪いのではないかとか、自分が変わらなければならないのではないかとか思ってしまいがちになるので、その言葉にほっとします。
実際、彼女らの嫌がらせで家全体、もしくはカレンにも迷惑がかかるようなこともあったので自分たちさえ楽しければ何でもいいのでしょう。
「とはいえ、僕が一番情けないと思っているのは君の父上だ。何といっても現役の男爵であり、家の当主だ。それなのに継母を愛する以外のことに無関心すぎる。百歩譲って家の中の虐めを見て見ぬ振りするだけならまだしも、継母に好き放題贅沢させたり、婚約を雰囲気で決めたりするのは相当ろくでなしだ」
「なるほど」
どちらかというと私はエイダやジェーンを恨んでいたので、ブラッドの指摘は少し意外でした。しかし将来当主となる身として父上のようないい加減な当主が一番許せなかったのでしょう。それにまだ幼いジェーンや使用人に過ぎないハンナよりも男爵である父上には責任があります。
「僕としては婚約者をそんな家に置いておくのは我慢がならない。僕は君のことをまだあまり知らないが、一般論として歪んだ環境で育つと歪んでいく人も多いからね」
「でも一体どうすれば」
ブラッドの言葉は私の胸に刺さりました。もちろん歪んだ環境でもまっすぐに育つ人はいますが、私がそうであるという自信はありません。
もしこのまま育てば、私は過度に自己評価が低く育つか、周囲を羨望と嫉妬でしか見れない人物になっていたかもしれません。私は自分が歪んでしまう前にブラッドに会えたことに感謝します。
「うーん、何か適当な口実を設けて結婚前に君のことを迎えられないか考えてみよう。話を聞く限り君の父上はいい加減な人物だから深く考えずに頷くのではないかと思ってね」
「それはそうかもしれません」
そう言われて私はくすりと笑ってしまいます。
そんなことを話しているうちに、次第に陽が傾いてきます。楽しい時間はあっという間とはよく言いますが、まさに今がそうです。本当は彼とはもっと他愛のないことも一緒に話してみたかったのですが、そろそろ帰らないといけません。
そんな私の表情を見てブラッドも陽が傾いていることに気づいたようでした。
「もうこんな時間か」
「もう帰らなければならないのが残念です」
「そんな顔をしないでくれ。必ず君がうちに来られるようにとりはからってみせる」
ブラッドの力強い声に私は少しだけ安堵しました。
「では最後に父上と母上にだけ挨拶していこう」「はい」
そう言って、殿下は私の前を歩いて部屋を出ます。
「さて、全部聞かせてもらったが、君の家は色々と酷いな」
「やはりそうだったのですね」
おかしいとは思いつつもずっとこんな調子が続いていたので最近はふとこれが当たり前なのか、と思ってしまうことも増えていました。そのため他家の人物にはっきりとそう言っていただけると非常に嬉しいです。
「まず君の母親、と言っても継母ではあるが、家が厳しいというのに毎日のように遊びに出ているのは正気を疑うね。現状が分かっていないか、自分だけが良ければ後はどうなってもいいという快楽主義者であるかのどちらかだろう。メイドのハンナと妹のジェーンはただの意地悪な女だな。おそらく君が相手ならどれだけ虐めても問題と思っているから虐めているというだけで、もし君が家を出れば他の使用人を捕まえて虐めるだろうね。だから別に君が悪い訳ではない」
「ありがとうございます」
虐められていると、どうしても自分が悪いのではないかとか、自分が変わらなければならないのではないかとか思ってしまいがちになるので、その言葉にほっとします。
実際、彼女らの嫌がらせで家全体、もしくはカレンにも迷惑がかかるようなこともあったので自分たちさえ楽しければ何でもいいのでしょう。
「とはいえ、僕が一番情けないと思っているのは君の父上だ。何といっても現役の男爵であり、家の当主だ。それなのに継母を愛する以外のことに無関心すぎる。百歩譲って家の中の虐めを見て見ぬ振りするだけならまだしも、継母に好き放題贅沢させたり、婚約を雰囲気で決めたりするのは相当ろくでなしだ」
「なるほど」
どちらかというと私はエイダやジェーンを恨んでいたので、ブラッドの指摘は少し意外でした。しかし将来当主となる身として父上のようないい加減な当主が一番許せなかったのでしょう。それにまだ幼いジェーンや使用人に過ぎないハンナよりも男爵である父上には責任があります。
「僕としては婚約者をそんな家に置いておくのは我慢がならない。僕は君のことをまだあまり知らないが、一般論として歪んだ環境で育つと歪んでいく人も多いからね」
「でも一体どうすれば」
ブラッドの言葉は私の胸に刺さりました。もちろん歪んだ環境でもまっすぐに育つ人はいますが、私がそうであるという自信はありません。
もしこのまま育てば、私は過度に自己評価が低く育つか、周囲を羨望と嫉妬でしか見れない人物になっていたかもしれません。私は自分が歪んでしまう前にブラッドに会えたことに感謝します。
「うーん、何か適当な口実を設けて結婚前に君のことを迎えられないか考えてみよう。話を聞く限り君の父上はいい加減な人物だから深く考えずに頷くのではないかと思ってね」
「それはそうかもしれません」
そう言われて私はくすりと笑ってしまいます。
そんなことを話しているうちに、次第に陽が傾いてきます。楽しい時間はあっという間とはよく言いますが、まさに今がそうです。本当は彼とはもっと他愛のないことも一緒に話してみたかったのですが、そろそろ帰らないといけません。
そんな私の表情を見てブラッドも陽が傾いていることに気づいたようでした。
「もうこんな時間か」
「もう帰らなければならないのが残念です」
「そんな顔をしないでくれ。必ず君がうちに来られるようにとりはからってみせる」
ブラッドの力強い声に私は少しだけ安堵しました。
「では最後に父上と母上にだけ挨拶していこう」「はい」
そう言って、殿下は私の前を歩いて部屋を出ます。
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