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婚約破棄
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「イレーネ。お前より大きな力を持つ聖女を見つけたから聖女交代の上、お前とは婚約破棄させてもらう!」
そう言って私の婚約者ボルグ殿下は私に人差し指を突きつけてきました。
突然のことに私は驚いて少しの間何も言えなくなってしまいます。
先ほど殿下から突然「用がある」と言われて来てみればこれでした。殿下は元々私に全く興味がなく、ほぼ形だけの婚約関係だったので何事かと思えばこれです。
あまりに唐突なことなので一瞬何かの冗談かとも思いましたが、殿下は至極真剣な表情をしています。それでも事が事なので私は一応念を押しました。
「本当によろしいのでしょうか? 国力に乏しい我が国がオーランド帝国に対抗出来ているのは聖女がもたらす恵みによるものだと思いますが」
婚約破棄を宣言された私は自分がどうこうというよりも真っ先に国のことを心配してしまいました。ボルグ殿下との婚約がなくなることはどうとも思いませんが、これまで守って来た国が滅ぼされるのは困ります。
すると殿下はふん、と鼻で笑いました。
「自分のことを過大評価しているようだな。それともこの僕との婚約破棄が嫌か? まあお前のような平民上がりの聖女では本来逆立ちしても僕のような人間と結婚することは出来ないからな」
殿下は見当違いなことをべらべらとしゃべっています。
それを聞いた私が唖然としていると、
「まあいい、せっかくだから新しい聖女に会わせてやろう。来い、レイシャ」
彼に呼ばれて部屋に入ってきたのは私の知らない女性でした。そこそこの地位の方でしたら一通り面識はあるはずなのですが。
レイシャと呼ばれた女性は年は私と同じ十五ぐらいでしょうか。いかがわしい酒場にでもいそうな生地が薄く丈が短いドレスをまとった胸の大きな女です。とはいえ、その目つきは鋭くただの踊り子や娼婦にも見えませんでした。
彼女が入ってくると殿下の目は一瞬彼女の胸に向かい、すぐに私に戻ります。やはり殿下はそういう目的で彼女を寵愛していたのでしょう。
レイシャは殿下の横まで歩いて来ると、煽るような笑みを浮かべ、私に一礼しました。
「初めまして聖女様、いえ、元聖女のイレーネさん。私は新聖女のレイシャと言います。よろしくお願いします……と言いたいところですがイレーネさんはこれからここを出ていかれるので特によろしくすることもないですね」
「そうだな、ははは」
そう言って二人はおかしそうに笑い合います。
確かにレイシャは見たところ一般人よりは大分魔力を持っています。ですが多めに見積もって私の半分以下というところでしょうか。
ではなぜ殿下は私よりもこの女の方が力が強いと思ったのでしょうか。
それは恐らく以前殿下が言った「僕より強い奴は気に入らない」という言葉を私が真に受けて殿下の前では魔力を使うのを抑えていたからでしょう。聖女として祈りを捧げる時間は基本的に一人なので、その間だけ全力を出していれば他の時間は力を抑えていても問題なかったのです。
殿下の力を発揮すれば気に入らないと言われ、抑えれば使えないと言われるのはあまりに理不尽です。そもそもレイシャが殿下より強いのはいいのでしょうか。
私はそのことを言おうとして、やめました。仮にここから私が自分の実力を証明したとしても、殿下との婚約破棄が消えるだけ。殿下の本性が見えてしまった以上、このような方と結婚するのはこちらとしても願い下げです。
「分かりました。そこまで言うなら私も実家に帰らせていただきます」
「やけに物分かりがいいな。泣いてすがるなら愛人にしてやってもいいぞ?」
「いえ、そういう気遣いは結構です」
聖女の地位をこの女にとられるのは嫌ですが、婚約者の座にはこれっぽっちも未練はありません。
すると殿下は一瞬むっとした顔をしましたが、すぐにへらへらと笑いだします。
「まあ、所詮その程度の力だったということだもんな」
「せいぜい旅には気を付けてくださいね」
部屋を出る私の背中に二人の嘲りの声が聞こえてきますが、私は黙って部屋を後にするのでした。
そう言って私の婚約者ボルグ殿下は私に人差し指を突きつけてきました。
突然のことに私は驚いて少しの間何も言えなくなってしまいます。
先ほど殿下から突然「用がある」と言われて来てみればこれでした。殿下は元々私に全く興味がなく、ほぼ形だけの婚約関係だったので何事かと思えばこれです。
あまりに唐突なことなので一瞬何かの冗談かとも思いましたが、殿下は至極真剣な表情をしています。それでも事が事なので私は一応念を押しました。
「本当によろしいのでしょうか? 国力に乏しい我が国がオーランド帝国に対抗出来ているのは聖女がもたらす恵みによるものだと思いますが」
婚約破棄を宣言された私は自分がどうこうというよりも真っ先に国のことを心配してしまいました。ボルグ殿下との婚約がなくなることはどうとも思いませんが、これまで守って来た国が滅ぼされるのは困ります。
すると殿下はふん、と鼻で笑いました。
「自分のことを過大評価しているようだな。それともこの僕との婚約破棄が嫌か? まあお前のような平民上がりの聖女では本来逆立ちしても僕のような人間と結婚することは出来ないからな」
殿下は見当違いなことをべらべらとしゃべっています。
それを聞いた私が唖然としていると、
「まあいい、せっかくだから新しい聖女に会わせてやろう。来い、レイシャ」
彼に呼ばれて部屋に入ってきたのは私の知らない女性でした。そこそこの地位の方でしたら一通り面識はあるはずなのですが。
レイシャと呼ばれた女性は年は私と同じ十五ぐらいでしょうか。いかがわしい酒場にでもいそうな生地が薄く丈が短いドレスをまとった胸の大きな女です。とはいえ、その目つきは鋭くただの踊り子や娼婦にも見えませんでした。
彼女が入ってくると殿下の目は一瞬彼女の胸に向かい、すぐに私に戻ります。やはり殿下はそういう目的で彼女を寵愛していたのでしょう。
レイシャは殿下の横まで歩いて来ると、煽るような笑みを浮かべ、私に一礼しました。
「初めまして聖女様、いえ、元聖女のイレーネさん。私は新聖女のレイシャと言います。よろしくお願いします……と言いたいところですがイレーネさんはこれからここを出ていかれるので特によろしくすることもないですね」
「そうだな、ははは」
そう言って二人はおかしそうに笑い合います。
確かにレイシャは見たところ一般人よりは大分魔力を持っています。ですが多めに見積もって私の半分以下というところでしょうか。
ではなぜ殿下は私よりもこの女の方が力が強いと思ったのでしょうか。
それは恐らく以前殿下が言った「僕より強い奴は気に入らない」という言葉を私が真に受けて殿下の前では魔力を使うのを抑えていたからでしょう。聖女として祈りを捧げる時間は基本的に一人なので、その間だけ全力を出していれば他の時間は力を抑えていても問題なかったのです。
殿下の力を発揮すれば気に入らないと言われ、抑えれば使えないと言われるのはあまりに理不尽です。そもそもレイシャが殿下より強いのはいいのでしょうか。
私はそのことを言おうとして、やめました。仮にここから私が自分の実力を証明したとしても、殿下との婚約破棄が消えるだけ。殿下の本性が見えてしまった以上、このような方と結婚するのはこちらとしても願い下げです。
「分かりました。そこまで言うなら私も実家に帰らせていただきます」
「やけに物分かりがいいな。泣いてすがるなら愛人にしてやってもいいぞ?」
「いえ、そういう気遣いは結構です」
聖女の地位をこの女にとられるのは嫌ですが、婚約者の座にはこれっぽっちも未練はありません。
すると殿下は一瞬むっとした顔をしましたが、すぐにへらへらと笑いだします。
「まあ、所詮その程度の力だったということだもんな」
「せいぜい旅には気を付けてくださいね」
部屋を出る私の背中に二人の嘲りの声が聞こえてきますが、私は黙って部屋を後にするのでした。
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