「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃

文字の大きさ
1 / 34

婚約破棄

しおりを挟む
「イレーネ。お前より大きな力を持つ聖女を見つけたから聖女交代の上、お前とは婚約破棄させてもらう!」

 そう言って私の婚約者ボルグ殿下は私に人差し指を突きつけてきました。
 突然のことに私は驚いて少しの間何も言えなくなってしまいます。

 先ほど殿下から突然「用がある」と言われて来てみればこれでした。殿下は元々私に全く興味がなく、ほぼ形だけの婚約関係だったので何事かと思えばこれです。
 あまりに唐突なことなので一瞬何かの冗談かとも思いましたが、殿下は至極真剣な表情をしています。それでも事が事なので私は一応念を押しました。

「本当によろしいのでしょうか? 国力に乏しい我が国がオーランド帝国に対抗出来ているのは聖女がもたらす恵みによるものだと思いますが」

 婚約破棄を宣言された私は自分がどうこうというよりも真っ先に国のことを心配してしまいました。ボルグ殿下との婚約がなくなることはどうとも思いませんが、これまで守って来た国が滅ぼされるのは困ります。
 すると殿下はふん、と鼻で笑いました。

「自分のことを過大評価しているようだな。それともこの僕との婚約破棄が嫌か? まあお前のような平民上がりの聖女では本来逆立ちしても僕のような人間と結婚することは出来ないからな」

 殿下は見当違いなことをべらべらとしゃべっています。
 それを聞いた私が唖然としていると、

「まあいい、せっかくだから新しい聖女に会わせてやろう。来い、レイシャ」

 彼に呼ばれて部屋に入ってきたのは私の知らない女性でした。そこそこの地位の方でしたら一通り面識はあるはずなのですが。

 レイシャと呼ばれた女性は年は私と同じ十五ぐらいでしょうか。いかがわしい酒場にでもいそうな生地が薄く丈が短いドレスをまとった胸の大きな女です。とはいえ、その目つきは鋭くただの踊り子や娼婦にも見えませんでした。

 彼女が入ってくると殿下の目は一瞬彼女の胸に向かい、すぐに私に戻ります。やはり殿下はそういう目的で彼女を寵愛していたのでしょう。
 レイシャは殿下の横まで歩いて来ると、煽るような笑みを浮かべ、私に一礼しました。

「初めまして聖女様、いえ、元聖女のイレーネさん。私は新聖女のレイシャと言います。よろしくお願いします……と言いたいところですがイレーネさんはこれからここを出ていかれるので特によろしくすることもないですね」
「そうだな、ははは」

 そう言って二人はおかしそうに笑い合います。

 確かにレイシャは見たところ一般人よりは大分魔力を持っています。ですが多めに見積もって私の半分以下というところでしょうか。

 ではなぜ殿下は私よりもこの女の方が力が強いと思ったのでしょうか。

 それは恐らく以前殿下が言った「僕より強い奴は気に入らない」という言葉を私が真に受けて殿下の前では魔力を使うのを抑えていたからでしょう。聖女として祈りを捧げる時間は基本的に一人なので、その間だけ全力を出していれば他の時間は力を抑えていても問題なかったのです。

 殿下の力を発揮すれば気に入らないと言われ、抑えれば使えないと言われるのはあまりに理不尽です。そもそもレイシャが殿下より強いのはいいのでしょうか。

 私はそのことを言おうとして、やめました。仮にここから私が自分の実力を証明したとしても、殿下との婚約破棄が消えるだけ。殿下の本性が見えてしまった以上、このような方と結婚するのはこちらとしても願い下げです。

「分かりました。そこまで言うなら私も実家に帰らせていただきます」
「やけに物分かりがいいな。泣いてすがるなら愛人にしてやってもいいぞ?」
「いえ、そういう気遣いは結構です」

 聖女の地位をこの女にとられるのは嫌ですが、婚約者の座にはこれっぽっちも未練はありません。
 すると殿下は一瞬むっとした顔をしましたが、すぐにへらへらと笑いだします。

「まあ、所詮その程度の力だったということだもんな」
「せいぜい旅には気を付けてくださいね」

 部屋を出る私の背中に二人の嘲りの声が聞こえてきますが、私は黙って部屋を後にするのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

処理中です...