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刺客
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私の実家は王都から大分離れた、オーランド帝国との国境付近にある小さな村です。そのため馬車を借りても王都からは数日かかってしまいます。
それは三日目の旅路のことでした。なぜか馬車には私以外のお客さんが乗っていません。とはいえこれまでほとんど馬車に乗ったことのない私はそういう日もあるのだろうか、と御者さんに尋ねてみます。
「こんな乗客一人だけの日なんてあるんですね」
「いや、こんな日があったらうちの商売上がったりだ。普段は少なくとも二、三人はいるもんだがなあ」
そう言って御者さんはため息をつきます。とはいえ村と王都での暮らししか経験のなかった私は珍しいけどそういうものか、と思ってしまいました。
が、異変が起こったのは馬車が人気のない道に入った時でした。
ひゅんひゅん、と何かが風を切るような音が立て続けに聞こえてきた後にヒヒーン、という馬の悲鳴が聞こえて馬車が止まります。
何か異常が起こったのでしょうか、と私が外を見ようとした時でした。
「身を低くして待っていろ!」
御者さんが緊迫した声でそう叫ぶと外に出ます。
さらにひゅんひゅんという音が続き、ぶすぶすと矢が馬車の幌に突き刺さり、中にいる私の目の前に矢じりが姿を現します。それを見て初めて私は死と隣り合わせの状況になり、背筋が凍るようでした。
「くそ、賊か!? 今日は客なんて全然いないのに……ぐわっ」
「大丈夫ですか!?」
御者さんの悲鳴が聞こえて私は反射的に身を起こすと外へ出ます。突然の事態に本当はすごく怖かったのですが、身体が勝手に動くのです。
そこには信じられない光景が広がっていました。
道の両脇の茂みから次々と矢が飛んできて、馬車は蜂の巣のようになっています。私以外にも護衛の方も馬車にはいたのですが、二人とも矢を受けて倒れています。そして矢で手綱が切れたのか、馬たちは叫びながら遠くへ疾走していました。
「に、逃げろ……」
近くで胸を射抜かれて倒れている御者が私を見上げていいます。
ですがこのまま私が逃げては御者や護衛は死んでしまうでしょう。それだけは見過ごせません。
「ホーリー・シールド」
私が呪文を唱えると馬車の両脇に魔力の盾が現れます。飛んできた矢は私に当たる直前で盾にぶつかり、かんかんと音を立てて地面に落ちていきました。
元々魔力があるので魔法も使えるはず、とは言われていましたが使う機会は式典以外なかったので、実際に使うことが出来てほっとしました。まして実戦など見たこともありません。
しかし私が魔法を使ったのを見て両側の茂みから賊が姿を現します。黒い覆面で顔を隠した賊が数人、それぞれ手に短剣を持って機敏な身のこなしでこちらに近づいてきました。
「ショック」
あまり人に攻撃魔法は使いたくなかったですが、この際手段は選んでいられません。私は自分が使える一番弱い攻撃魔法を唱えました。
私から魔力の塊が飛んでいって、一番近くにいた賊にぶつかります。彼は悲鳴も上げずにその場に倒れました。
「馬鹿な、魔法を二つ同時に使えるだと!?」
「いや、両側の盾と攻撃魔法で三つだ」
賊たちは私の魔法に驚きの声を上げます。これで諦めてくれないか、と思いましたがその期待はすぐに打ち砕かれました。
「よし、全方向から同時に襲い掛かれ! そうすればさすがに魔法の数が間に合わないはずだ!」
今度は三人の賊が私を囲むように近づいてくるのが見えます。私は未だ持続しているホーリー・シールドと馬車の間に入って身を守りつつ一か八か、二方向への攻撃魔法を使います。
「ショック、ショック!」
すると私からやや小ぶりな魔力が二方向に飛び出して走ってくる賊たちを襲いました。賊たちは魔法にぶつかると呆気なく倒れ、もう一人は魔力の盾に遮られて私に近づくことも出来ません。
私はそれを見てついほっと一息をついてしまいました。
が、その時です。
「覚悟!」
馬車のドアが開くと一人の賊が私に向かって短剣を構えてとびかかってきます。まさか逆側から馬車を通り抜けて攻撃してくるとは思わず、完全に不意を打たれてしまいました。反射神経は全然な私では戦闘技術がある相手の攻撃を避けることは出来ず、魔法を唱える余裕もありません。
万事休す、と思った時でした。
ひゅん、と音を立てて一本の矢が賊を目掛けてまっすぐに飛んできます。
「何だ!?」
賊は慌てて矢をかわしますが、それで私への攻撃が遅れます。
「伏せろ!」
突然聞こえてきた第三者の声に思わず私は身を伏せました。
すると。
突然私の上を黒い影が跳び越えたと思うと、ぐわっ、という賊の悲鳴が聞こえてきます。私が顔をあげるとそこにいたのは一人の馬に乗った若者でした。彼は何と、遠くから矢で賊を威嚇し、ひるませた隙に馬で私を跳び越えて賊を斬り伏せたようです。
彼は周囲を見渡して賊が全員倒されたことを知ると、こちらを向いて尋ねます。
「大丈夫だったか?」
それは三日目の旅路のことでした。なぜか馬車には私以外のお客さんが乗っていません。とはいえこれまでほとんど馬車に乗ったことのない私はそういう日もあるのだろうか、と御者さんに尋ねてみます。
「こんな乗客一人だけの日なんてあるんですね」
「いや、こんな日があったらうちの商売上がったりだ。普段は少なくとも二、三人はいるもんだがなあ」
そう言って御者さんはため息をつきます。とはいえ村と王都での暮らししか経験のなかった私は珍しいけどそういうものか、と思ってしまいました。
が、異変が起こったのは馬車が人気のない道に入った時でした。
ひゅんひゅん、と何かが風を切るような音が立て続けに聞こえてきた後にヒヒーン、という馬の悲鳴が聞こえて馬車が止まります。
何か異常が起こったのでしょうか、と私が外を見ようとした時でした。
「身を低くして待っていろ!」
御者さんが緊迫した声でそう叫ぶと外に出ます。
さらにひゅんひゅんという音が続き、ぶすぶすと矢が馬車の幌に突き刺さり、中にいる私の目の前に矢じりが姿を現します。それを見て初めて私は死と隣り合わせの状況になり、背筋が凍るようでした。
「くそ、賊か!? 今日は客なんて全然いないのに……ぐわっ」
「大丈夫ですか!?」
御者さんの悲鳴が聞こえて私は反射的に身を起こすと外へ出ます。突然の事態に本当はすごく怖かったのですが、身体が勝手に動くのです。
そこには信じられない光景が広がっていました。
道の両脇の茂みから次々と矢が飛んできて、馬車は蜂の巣のようになっています。私以外にも護衛の方も馬車にはいたのですが、二人とも矢を受けて倒れています。そして矢で手綱が切れたのか、馬たちは叫びながら遠くへ疾走していました。
「に、逃げろ……」
近くで胸を射抜かれて倒れている御者が私を見上げていいます。
ですがこのまま私が逃げては御者や護衛は死んでしまうでしょう。それだけは見過ごせません。
「ホーリー・シールド」
私が呪文を唱えると馬車の両脇に魔力の盾が現れます。飛んできた矢は私に当たる直前で盾にぶつかり、かんかんと音を立てて地面に落ちていきました。
元々魔力があるので魔法も使えるはず、とは言われていましたが使う機会は式典以外なかったので、実際に使うことが出来てほっとしました。まして実戦など見たこともありません。
しかし私が魔法を使ったのを見て両側の茂みから賊が姿を現します。黒い覆面で顔を隠した賊が数人、それぞれ手に短剣を持って機敏な身のこなしでこちらに近づいてきました。
「ショック」
あまり人に攻撃魔法は使いたくなかったですが、この際手段は選んでいられません。私は自分が使える一番弱い攻撃魔法を唱えました。
私から魔力の塊が飛んでいって、一番近くにいた賊にぶつかります。彼は悲鳴も上げずにその場に倒れました。
「馬鹿な、魔法を二つ同時に使えるだと!?」
「いや、両側の盾と攻撃魔法で三つだ」
賊たちは私の魔法に驚きの声を上げます。これで諦めてくれないか、と思いましたがその期待はすぐに打ち砕かれました。
「よし、全方向から同時に襲い掛かれ! そうすればさすがに魔法の数が間に合わないはずだ!」
今度は三人の賊が私を囲むように近づいてくるのが見えます。私は未だ持続しているホーリー・シールドと馬車の間に入って身を守りつつ一か八か、二方向への攻撃魔法を使います。
「ショック、ショック!」
すると私からやや小ぶりな魔力が二方向に飛び出して走ってくる賊たちを襲いました。賊たちは魔法にぶつかると呆気なく倒れ、もう一人は魔力の盾に遮られて私に近づくことも出来ません。
私はそれを見てついほっと一息をついてしまいました。
が、その時です。
「覚悟!」
馬車のドアが開くと一人の賊が私に向かって短剣を構えてとびかかってきます。まさか逆側から馬車を通り抜けて攻撃してくるとは思わず、完全に不意を打たれてしまいました。反射神経は全然な私では戦闘技術がある相手の攻撃を避けることは出来ず、魔法を唱える余裕もありません。
万事休す、と思った時でした。
ひゅん、と音を立てて一本の矢が賊を目掛けてまっすぐに飛んできます。
「何だ!?」
賊は慌てて矢をかわしますが、それで私への攻撃が遅れます。
「伏せろ!」
突然聞こえてきた第三者の声に思わず私は身を伏せました。
すると。
突然私の上を黒い影が跳び越えたと思うと、ぐわっ、という賊の悲鳴が聞こえてきます。私が顔をあげるとそこにいたのは一人の馬に乗った若者でした。彼は何と、遠くから矢で賊を威嚇し、ひるませた隙に馬で私を跳び越えて賊を斬り伏せたようです。
彼は周囲を見渡して賊が全員倒されたことを知ると、こちらを向いて尋ねます。
「大丈夫だったか?」
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