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オーウェン
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「助けていただきありがとうございます。あの、あなたは一体?」
私は突然現れて助けてくれた青年に尋ねます。
「俺はオーウェン。ウィラード伯爵家の嫡子だ」
「え、嘘……」
彼の名乗りに私は失礼ながら驚いてしまいます。ウィラード伯爵家と言えば通称辺境伯と呼ばれ、王国と帝国の国境沿いに広大な領地を持ち、過去には何度も帝国の侵略を防いできました。今は一応平和が続いていますが、それもウィラード家が帝国に対して隙を見せていないからだと言われています。
とはいえよく鍛えられた体、そして無骨ながらも整った顔立ち、それから先ほどの馬術と武芸を見ると辺境伯の息子と言われても納得してしまいます。
「たまたま領地の見回りをしていたところ、強大な魔法の発動を感知して飛んできたという訳だ」
「あの、おひとりなのですか?」
「いや、そんなことはない」
そう言ってオーウェン様は後ろを振り向きます。するとそちらからは数騎の従者たちが必死でオーウェンを追いかけてくるのが見えます。確かにオーウェン様の馬術は目にも留まらぬ速さだったので、彼らは追いつけなかったのでしょう。
ウィラード家は武門の名家と聞いていますが、その名にたがわぬ活躍ぶりです。
「ところで、あなたの方こそ一体何者だ? あのような魔法を軽々使いこなすなど只者とは思えないが」
私は少し悩みましたが、命の恩人でもあるので正直に伝えることにします。
「私はイレーネです。つい先日聖女を解任されたので実家に帰る途中でした」
「な、何だと!?」
それを聞いてオーウェン様の表情が凍り付きます。後ろをついてきた家来たちも皆険しい表情をしています。
おそらく私が王宮を出ると同時にそのことが発表されたので、王国の隅の方にはまだこの知らせは届いていないのでしょう。彼らの驚きように私の方まで驚いてしまいます。
「あの、私が言うのも何ですがそんなに驚くことでしょうか?」
「何を言う。このような小国でも作物が豊かに実り、毎年大きな災害も起きずに安定して暮らせるのは全て聖女様のお祈りによる神様の加護の賜物だ。その聖女が解任されるなどということがあっていいはずがない!」
オーウェン様は険しい表情で言います。
自分の役目ながら私はいまいちぴんと来ませんでした。私が聖女でいる間はずっと王都に籠っていましたので。
「実はイレーネが聖女様になってからは我が領地の収穫高もかなり上がっていたのだ。もちろん先代の聖女様もよくやってくださっていたが、やはり高齢で魔力が衰えていたというのはあったのだろう。それで、後任には誰が就いたんだ?」
「レイシャという方です」
「誰だ? それは」
オーウェン様は家来にも尋ねますが、皆首を捻るばかりです。
やはりあの方は殿下が見つけたぽっと出の人物のようでした。
「そもそも一体なぜ解任されたんだ?」
「オーウェン様。出会ったばかりであまり質問攻めにしては。それに」
家来の一人が私を質問攻めにしようとするオーウェン様を止め、周囲を指さします。そこには何人もの賊が倒れたままになっており、さらに馬車の御者や護衛も倒れていました。
「でしたら、私が彼らを治癒します」
「そうか、そう言えば聖女様だったな。よし、お前たちは賊を捕縛しろ」
「はい!」
オーウェン殿下の命令で家来たちは倒れている賊を縄で拘束します。私はまず血を流している御者に駆け寄ります。
「ヒーリング」
私が呪文を唱えると、聖なる光が御者の体を包み込み、傷跡がみるみる塞がっていきます。その状態で十数秒ほど経つと、彼はすっかり血色も良くなり、うめき声をあげて上体を起こしました。
「あれ、俺は賊に襲われたはずでは……」
「大丈夫ですか!? 賊はもういなくなりました!」
「あなたは……もしや乗客の方!? そしてオーウェン様!?」
御者は私とその横にいるオーウェンの姿を見て驚愕の表情を浮かべます。
そしてすぐに頭を下げました。
「ありがとうございますオーウェン様、賊を倒していただいて」
「いや、俺はほぼ何もしてない。ほとんど彼女がやったことで」
「ありがとうございます、賊を倒していただいた上に傷まで治していただいて」
そう言って御者は私に向きを変えて頭を下げました。私としては自分の身を護るためにやったことでもあるので、そこまでされるとかえって恐縮してしまいます。
「そ、そんな、頭を上げてください。そ、それに他の方も治さないと」
私は慌てて護衛の方々にも同じように治癒魔法をかけます。倒れていた彼らも命を落とすまでには至っていなかったようで、私が魔法をかけると次々と体を起こしました。
そしてそれを横で見ていたオーウェン様が言います。
「なるほど、これが聖女様の魔力か。先ほどの戦いであんな魔法を使っていたのに、今も大きな魔法をこんなに使えている。まるで無尽蔵だ」
「そうでしょうか? 初めて使ったのであまりうまく使えた自信はないのですが」
不慣れな上、殿下といた時は魔力をセーブする癖がついていたせいで、今回の魔法が会心の出来だったという自信は全くありません。
「いや、俺ですらここまでの魔力の持ち主は見たことがない。なあ、実家に帰ると言っていたところ悪いんだが、良ければ一緒に来てくれないか?」
「え、伯爵様の館へですか?」
突然の提案に私は驚きます。王宮ほどではないにしろ、この辺りでは辺境伯の館へ招かれるというのは大変名誉なことなのです。
「そうだ。せっかくの力の持ち主を野に返すのももったいないし、それに色々と話を聞きたいこともあるしな」
「わ、分かりました」
私としてもそう言われれば異存はありません。私が御者たちを治している間に家来たちも賊を捕縛し終えたようで、彼らは武装解除されて全身をぐるぐるに縛られています。
「それからおぬしは災難だったな。見舞金を渡すからこれからも頑張るがいい」
そう言ってオーウェン様は金貨を一枚御者に手渡します。
それを受け取って彼は涙を流して喜びました。
「あ、ありがとうございます。助けていただいた上に見舞金までくださるとは、このご恩一生忘れません!」
「よし、行こうイレーネ」
「はい」
こうして私たちは辺境伯の館へと向かうのでした。
私は突然現れて助けてくれた青年に尋ねます。
「俺はオーウェン。ウィラード伯爵家の嫡子だ」
「え、嘘……」
彼の名乗りに私は失礼ながら驚いてしまいます。ウィラード伯爵家と言えば通称辺境伯と呼ばれ、王国と帝国の国境沿いに広大な領地を持ち、過去には何度も帝国の侵略を防いできました。今は一応平和が続いていますが、それもウィラード家が帝国に対して隙を見せていないからだと言われています。
とはいえよく鍛えられた体、そして無骨ながらも整った顔立ち、それから先ほどの馬術と武芸を見ると辺境伯の息子と言われても納得してしまいます。
「たまたま領地の見回りをしていたところ、強大な魔法の発動を感知して飛んできたという訳だ」
「あの、おひとりなのですか?」
「いや、そんなことはない」
そう言ってオーウェン様は後ろを振り向きます。するとそちらからは数騎の従者たちが必死でオーウェンを追いかけてくるのが見えます。確かにオーウェン様の馬術は目にも留まらぬ速さだったので、彼らは追いつけなかったのでしょう。
ウィラード家は武門の名家と聞いていますが、その名にたがわぬ活躍ぶりです。
「ところで、あなたの方こそ一体何者だ? あのような魔法を軽々使いこなすなど只者とは思えないが」
私は少し悩みましたが、命の恩人でもあるので正直に伝えることにします。
「私はイレーネです。つい先日聖女を解任されたので実家に帰る途中でした」
「な、何だと!?」
それを聞いてオーウェン様の表情が凍り付きます。後ろをついてきた家来たちも皆険しい表情をしています。
おそらく私が王宮を出ると同時にそのことが発表されたので、王国の隅の方にはまだこの知らせは届いていないのでしょう。彼らの驚きように私の方まで驚いてしまいます。
「あの、私が言うのも何ですがそんなに驚くことでしょうか?」
「何を言う。このような小国でも作物が豊かに実り、毎年大きな災害も起きずに安定して暮らせるのは全て聖女様のお祈りによる神様の加護の賜物だ。その聖女が解任されるなどということがあっていいはずがない!」
オーウェン様は険しい表情で言います。
自分の役目ながら私はいまいちぴんと来ませんでした。私が聖女でいる間はずっと王都に籠っていましたので。
「実はイレーネが聖女様になってからは我が領地の収穫高もかなり上がっていたのだ。もちろん先代の聖女様もよくやってくださっていたが、やはり高齢で魔力が衰えていたというのはあったのだろう。それで、後任には誰が就いたんだ?」
「レイシャという方です」
「誰だ? それは」
オーウェン様は家来にも尋ねますが、皆首を捻るばかりです。
やはりあの方は殿下が見つけたぽっと出の人物のようでした。
「そもそも一体なぜ解任されたんだ?」
「オーウェン様。出会ったばかりであまり質問攻めにしては。それに」
家来の一人が私を質問攻めにしようとするオーウェン様を止め、周囲を指さします。そこには何人もの賊が倒れたままになっており、さらに馬車の御者や護衛も倒れていました。
「でしたら、私が彼らを治癒します」
「そうか、そう言えば聖女様だったな。よし、お前たちは賊を捕縛しろ」
「はい!」
オーウェン殿下の命令で家来たちは倒れている賊を縄で拘束します。私はまず血を流している御者に駆け寄ります。
「ヒーリング」
私が呪文を唱えると、聖なる光が御者の体を包み込み、傷跡がみるみる塞がっていきます。その状態で十数秒ほど経つと、彼はすっかり血色も良くなり、うめき声をあげて上体を起こしました。
「あれ、俺は賊に襲われたはずでは……」
「大丈夫ですか!? 賊はもういなくなりました!」
「あなたは……もしや乗客の方!? そしてオーウェン様!?」
御者は私とその横にいるオーウェンの姿を見て驚愕の表情を浮かべます。
そしてすぐに頭を下げました。
「ありがとうございますオーウェン様、賊を倒していただいて」
「いや、俺はほぼ何もしてない。ほとんど彼女がやったことで」
「ありがとうございます、賊を倒していただいた上に傷まで治していただいて」
そう言って御者は私に向きを変えて頭を下げました。私としては自分の身を護るためにやったことでもあるので、そこまでされるとかえって恐縮してしまいます。
「そ、そんな、頭を上げてください。そ、それに他の方も治さないと」
私は慌てて護衛の方々にも同じように治癒魔法をかけます。倒れていた彼らも命を落とすまでには至っていなかったようで、私が魔法をかけると次々と体を起こしました。
そしてそれを横で見ていたオーウェン様が言います。
「なるほど、これが聖女様の魔力か。先ほどの戦いであんな魔法を使っていたのに、今も大きな魔法をこんなに使えている。まるで無尽蔵だ」
「そうでしょうか? 初めて使ったのであまりうまく使えた自信はないのですが」
不慣れな上、殿下といた時は魔力をセーブする癖がついていたせいで、今回の魔法が会心の出来だったという自信は全くありません。
「いや、俺ですらここまでの魔力の持ち主は見たことがない。なあ、実家に帰ると言っていたところ悪いんだが、良ければ一緒に来てくれないか?」
「え、伯爵様の館へですか?」
突然の提案に私は驚きます。王宮ほどではないにしろ、この辺りでは辺境伯の館へ招かれるというのは大変名誉なことなのです。
「そうだ。せっかくの力の持ち主を野に返すのももったいないし、それに色々と話を聞きたいこともあるしな」
「わ、分かりました」
私としてもそう言われれば異存はありません。私が御者たちを治している間に家来たちも賊を捕縛し終えたようで、彼らは武装解除されて全身をぐるぐるに縛られています。
「それからおぬしは災難だったな。見舞金を渡すからこれからも頑張るがいい」
そう言ってオーウェン様は金貨を一枚御者に手渡します。
それを受け取って彼は涙を流して喜びました。
「あ、ありがとうございます。助けていただいた上に見舞金までくださるとは、このご恩一生忘れません!」
「よし、行こうイレーネ」
「はい」
こうして私たちは辺境伯の館へと向かうのでした。
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