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陰謀と賊
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オーウェン様たちは馬で移動していましたが、私や捕えた賊がいるので、しばらくは歩いて館に向かうことになりました。そして近くの町につくとそこで馬車を借り、館を目指します。
王城を見慣れてしまった私からすると辺境伯の館は質素なものでした。しかし王城よりも広く、何重にも城壁がそびえたっていて、迷路のようになっています。王都は長らく外敵が攻めてくることはなかったですが、辺境伯は帝国に攻められたことがあるため実戦的な構えになっているのでしょう。
そんな迷路のような館をオーウェン様は迷うことなく進んでいきます。そして途中で捕虜を引き渡し、館の者に挨拶をして私を応接室に通しました。
椅子に座るとすぐに私の前には温かいお茶とお菓子が運ばれてきました。ここまで長旅だったので、私はようやく一息つくことが出来ます。
「まずは長旅お疲れ様。そして我がウィラード家の館にようこそ」
「いえ、こちらこそお邪魔します」
そう言ってお茶を一口飲むと、甘い香りが鼻腔をくすぐり少しだけ疲れが癒されました。
「着いて早々申し訳ないが、実はいくつも聞きたいことがあってね。まずあなたはなぜ聖女を解任されたんだ?」
「実は……」
私は一週間ほど前に殿下とあったいきさつを全て語りました。オーウェン様は険しい表情で聴いていましたが、私が話し終えると顔を真っ赤にします。
「何だと……そんないい加減なことで聖女様を交代させるなどあっていい訳がない!……いや、済まない。あなたは全く悪くないが、ついボルグ殿下のやり方に我慢ならなくてな」
オーウェン様の怒りようについ私が驚いてしまい、彼は少しだけ罰の悪そうな表情になります。
「やはり殿下は私のような可愛げのない女よりもレイシャのような方が良かったのでしょうか」
「何を言う、イレーネは十分可愛い……いや、何でもない」
急にオーウェン様は自分の言葉に顔を真っ赤にします。私も突然そのようなことを言われて驚いてしまいました。何せこれまで殿下に、いや殿下以外の人にもそのようなことを言われたことはなかったので。顔が変になっていないか少し心配です。
が、オーウェン様はこほん、と咳払いして話題を変えます。
「それよりもだ。殿下がどこまで深く考えているかは知らないが、この件は恐らくただの殿下の気まぐれではない」
「そうなのですか?」
「そうだ。例の賊の話を聞いたが、違和感はなかったか?」
「いえ、賊に出会うのは初めてなので……」
「そうだな。だがやはりおかしいことがいくつかある。まず普通の賊はほぼ乗客がいないような馬車を襲うだろうか? 賊であれば積み荷や乗客の金を奪っている。当然客が多い馬車を襲うはずだ」
「確かに」
賊の事情など考えたことがありませんが、言われてみればその通りです。彼らは一体何のために襲ったのでしょうか。
「そして普段はもっと客がいる馬車に一人しか乗っていなかったというのも変だ。何よりもおかしいのは賊たちの練度だ。あれは賊というよりは専門的な訓練を受けた兵士だ」
「そうだったのですか!?」
「そうだ。家来たちも捕まえて驚いていたそうだ。まさかこんな奴らがいるとは思わなかった、とな。今は尋問させているが、口を割るかどうか」
そう言ってオーウェン様は深刻そうにため息をつきます。
「つまり、どういうことでしょうか?」
「今回の賊、彼らはあなたを殺すために、もしくは攫うために派遣されてきた可能性が高いということだ。とはいえ攫うだけならそもそも追放しないだろうから、前者だろうな」
「何と……一体なぜ」
オーウェン様の言葉に私は絶句してしまいます。一体なぜ私は追放された上に命まで狙われなければならないのでしょうか。
「もし殿下が単に愛人を聖女にするために追放したのであれば別に刺客を派遣する必要はない。おそらく、誰かが殿下を操って追放させたのだろう。それがレイシャなのか、もっと他に黒幕がいるのかは分からないが」
「まさか、そんな」
とはいえ私も疑問には思っていました。いくら殿下でもここまで急に私を追放することが出来るのか、と。ですが黒幕がいれば話は別です。
「と言う訳だ。そもそもなぜ命を狙われているのかすらよく分からない以上、しばらくこの館に滞在してはどうだろうか? 一応この辺りでは一番安全な場所のはずだ」
オーウェン様は真剣な表情で私に言います。もし命を狙われているのであれば実家に帰るのは危険です。私はすぐに頷きました。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。この館にいる限り、俺が絶対あなたの身を守ってみせよう」
「ありがとうございます」
様々なことが明らかになって恐怖があるはずなのですが、オーウェン様の言葉のおかげで今の私は不思議と恐怖よりも安心の方が強かったのです。
王城を見慣れてしまった私からすると辺境伯の館は質素なものでした。しかし王城よりも広く、何重にも城壁がそびえたっていて、迷路のようになっています。王都は長らく外敵が攻めてくることはなかったですが、辺境伯は帝国に攻められたことがあるため実戦的な構えになっているのでしょう。
そんな迷路のような館をオーウェン様は迷うことなく進んでいきます。そして途中で捕虜を引き渡し、館の者に挨拶をして私を応接室に通しました。
椅子に座るとすぐに私の前には温かいお茶とお菓子が運ばれてきました。ここまで長旅だったので、私はようやく一息つくことが出来ます。
「まずは長旅お疲れ様。そして我がウィラード家の館にようこそ」
「いえ、こちらこそお邪魔します」
そう言ってお茶を一口飲むと、甘い香りが鼻腔をくすぐり少しだけ疲れが癒されました。
「着いて早々申し訳ないが、実はいくつも聞きたいことがあってね。まずあなたはなぜ聖女を解任されたんだ?」
「実は……」
私は一週間ほど前に殿下とあったいきさつを全て語りました。オーウェン様は険しい表情で聴いていましたが、私が話し終えると顔を真っ赤にします。
「何だと……そんないい加減なことで聖女様を交代させるなどあっていい訳がない!……いや、済まない。あなたは全く悪くないが、ついボルグ殿下のやり方に我慢ならなくてな」
オーウェン様の怒りようについ私が驚いてしまい、彼は少しだけ罰の悪そうな表情になります。
「やはり殿下は私のような可愛げのない女よりもレイシャのような方が良かったのでしょうか」
「何を言う、イレーネは十分可愛い……いや、何でもない」
急にオーウェン様は自分の言葉に顔を真っ赤にします。私も突然そのようなことを言われて驚いてしまいました。何せこれまで殿下に、いや殿下以外の人にもそのようなことを言われたことはなかったので。顔が変になっていないか少し心配です。
が、オーウェン様はこほん、と咳払いして話題を変えます。
「それよりもだ。殿下がどこまで深く考えているかは知らないが、この件は恐らくただの殿下の気まぐれではない」
「そうなのですか?」
「そうだ。例の賊の話を聞いたが、違和感はなかったか?」
「いえ、賊に出会うのは初めてなので……」
「そうだな。だがやはりおかしいことがいくつかある。まず普通の賊はほぼ乗客がいないような馬車を襲うだろうか? 賊であれば積み荷や乗客の金を奪っている。当然客が多い馬車を襲うはずだ」
「確かに」
賊の事情など考えたことがありませんが、言われてみればその通りです。彼らは一体何のために襲ったのでしょうか。
「そして普段はもっと客がいる馬車に一人しか乗っていなかったというのも変だ。何よりもおかしいのは賊たちの練度だ。あれは賊というよりは専門的な訓練を受けた兵士だ」
「そうだったのですか!?」
「そうだ。家来たちも捕まえて驚いていたそうだ。まさかこんな奴らがいるとは思わなかった、とな。今は尋問させているが、口を割るかどうか」
そう言ってオーウェン様は深刻そうにため息をつきます。
「つまり、どういうことでしょうか?」
「今回の賊、彼らはあなたを殺すために、もしくは攫うために派遣されてきた可能性が高いということだ。とはいえ攫うだけならそもそも追放しないだろうから、前者だろうな」
「何と……一体なぜ」
オーウェン様の言葉に私は絶句してしまいます。一体なぜ私は追放された上に命まで狙われなければならないのでしょうか。
「もし殿下が単に愛人を聖女にするために追放したのであれば別に刺客を派遣する必要はない。おそらく、誰かが殿下を操って追放させたのだろう。それがレイシャなのか、もっと他に黒幕がいるのかは分からないが」
「まさか、そんな」
とはいえ私も疑問には思っていました。いくら殿下でもここまで急に私を追放することが出来るのか、と。ですが黒幕がいれば話は別です。
「と言う訳だ。そもそもなぜ命を狙われているのかすらよく分からない以上、しばらくこの館に滞在してはどうだろうか? 一応この辺りでは一番安全な場所のはずだ」
オーウェン様は真剣な表情で私に言います。もし命を狙われているのであれば実家に帰るのは危険です。私はすぐに頷きました。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。この館にいる限り、俺が絶対あなたの身を守ってみせよう」
「ありがとうございます」
様々なことが明らかになって恐怖があるはずなのですが、オーウェン様の言葉のおかげで今の私は不思議と恐怖よりも安心の方が強かったのです。
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