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神の声
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さて、王宮に入った私はとりあえず神殿に駆け込みます。私の姿を見た神官たちはある者は喜びの声を上げ、ある者は恐れて目をそらしていますが今は全て無視して“聖女の間”に向かいます。それでも途中ですれ違った大司教様が私から目をそらしたのは少しショックでしたが。
私は“聖女の間”に入るといつも通り鍵をかけて目の前にある祭壇に祈りを捧げます。
レイシャが聖女となって乱れてしまった国をどうか元に戻していただけないでしょうか。今後は全力でこの国のためにお祈りします。
そんな思いが神様に届いたのでしょうか。
突然、祭壇の上から光が降り注ぎ、目の前がぱーっと明るくなります。
“イレーネよ。ようやく戻ったか”
「え、嘘!?」
突然脳内に声が聞こえてきて私は思わず声をあげてしまいます。追放されるまでは毎日祈りを捧げてきましたが、声が聞こえてきたのは初めてです。初めて聞いた声でしたがこれが神様の声でしょうか。
“ここしばらくあの間、その任にふさわしくない軽薄な人物が聖女の座にあったため、非常に不快であった”
「申し訳ありません」
レイシャが聖女の座についていたことは私にも思うことがありますが、神様に対して責任の押し付け合いをしても仕方がないので素直に謝ります。
“もし再び国に繁栄をもたらしたいのであれば、今後はこのようなことがないよう励むが良い”
「は、はい!」
その言葉が終わると目の前の光もすーっと消えていきます。
後に残された私は数言話しただけなのに全身からどっと疲れがあふれ出しました。やはり神様と話すというのは尋常じゃなく疲れることなのでしょう。とはいえ、機嫌を直していただけたようでほっとしました。
祈りを終えた私が“聖女の間”を出ると、神官たちは右往左往をやめていた。そして私の姿を見て口々に叫ぶ。
「さすがイレーネ様! 先ほどまで枯れていた薬草が全て復活しておりました!」
「神殿で治療していた謎の奇病に侵された方が今しがた全快いたしました!」
「本当に!?」
まさかここまで神の祝福が即効性のあるものだとは思わなかった。もしかするとこれまでは殿下に言われた言葉を無意識に気にして全力を出せないでいたのが、今はそこから解き放たれて全力を出せるようになったからかもしれない。
「実はイレーネ様がいない間色々大変だったのです!」
「戻ってきていただきほっとしています!」
「これからはずっと聖女でいてください!」
「ありがとう」
私は喜んでくれる神官たちに声をかけて回りました。
すると、そんな騒ぎの中、気まずそうな表情をした大司教が姿を現します。
「イレーネ様、このたびは本当に申し訳ありませんでした」
「どうしましたか、大司教様」
何か後ろめたいことがあるのだろうとは思っていましたが、これまでは神殿で一番偉い人として振る舞っていたのに突然平身低頭し始めたので私は困惑します。
神官の中にも数人、彼を白い目で見ている者がいます。
「やはりあなたとレイシャではその力は大違いでした。それなのに目先のことに囚われてつい聖女交代を黙認してしまったのです」
「ちなみになぜ黙認してしまったのですか?」
「殿下に強く言われ、また陛下もそれを了承していると聞いて……」
そう言って大司教は俯きます。とはいえそれだけならここまで後ろめたくなることはないでしょう。
「それだけですか?」
「いえ、実は神殿に多額の寄付を……。ですが私はもう改心いたしました。これからは誠心誠意神に尽くします!」
やはりそういうことですか。神殿の経営がぎりぎりというのは知っていましたが、だからといってレイシャから寄付を受けて丸め込まれるなど許されることではありません。
それに大司教様は今は頭を下げていますが、先ほど私とすれ違った時に目をそらしたのは忘れていません。私の祈りがすぐに奇跡を現したのを見て態度を変えた方がいい、という打算が働いたのでしょう。
私は意を決して冷たい声で言います。
「大司教様、いえ、ロナルド」
「は、はい」
「あなたはご存知ないかもしれませんが、レイシャは帝国と繋がっていたようです。おそらく我が国を内部から崩壊させようとしていたのでしょう」
それを聞いたロナルドの表情がさあっと青ざめていきます。恐らく彼はそれに気づかずに金を受け取ってしまったのでしょうが、どうせ金も帝国から出たものなのでしょう。
他の神官たちもその情報にざわつき始めました。
「そ、そうなのですか!?」
「そうです。知らなかったこととはいえ、帝国の回し者を聖女に認めてしまったことは許されざる失態です。あなたの最後の仕事は神官の中から一番優秀な後任を選ぶことです」
「そ、そんな」
「神官たちを見てください。すでに彼らの心はあなたから離れています」
そう言われてロナルドは自分を白い目で見つめる神官たちを見回し、逃れられないことを悟ります。
「わ、分かりました。では早急に後任を選ばせていただきます」
そう言って彼が逃げるように退がっていくと、神官の一人が拍手を始めます。やがてその拍手は次第に広がっていき、割れんばかりの拍手となったのでした。
私は“聖女の間”に入るといつも通り鍵をかけて目の前にある祭壇に祈りを捧げます。
レイシャが聖女となって乱れてしまった国をどうか元に戻していただけないでしょうか。今後は全力でこの国のためにお祈りします。
そんな思いが神様に届いたのでしょうか。
突然、祭壇の上から光が降り注ぎ、目の前がぱーっと明るくなります。
“イレーネよ。ようやく戻ったか”
「え、嘘!?」
突然脳内に声が聞こえてきて私は思わず声をあげてしまいます。追放されるまでは毎日祈りを捧げてきましたが、声が聞こえてきたのは初めてです。初めて聞いた声でしたがこれが神様の声でしょうか。
“ここしばらくあの間、その任にふさわしくない軽薄な人物が聖女の座にあったため、非常に不快であった”
「申し訳ありません」
レイシャが聖女の座についていたことは私にも思うことがありますが、神様に対して責任の押し付け合いをしても仕方がないので素直に謝ります。
“もし再び国に繁栄をもたらしたいのであれば、今後はこのようなことがないよう励むが良い”
「は、はい!」
その言葉が終わると目の前の光もすーっと消えていきます。
後に残された私は数言話しただけなのに全身からどっと疲れがあふれ出しました。やはり神様と話すというのは尋常じゃなく疲れることなのでしょう。とはいえ、機嫌を直していただけたようでほっとしました。
祈りを終えた私が“聖女の間”を出ると、神官たちは右往左往をやめていた。そして私の姿を見て口々に叫ぶ。
「さすがイレーネ様! 先ほどまで枯れていた薬草が全て復活しておりました!」
「神殿で治療していた謎の奇病に侵された方が今しがた全快いたしました!」
「本当に!?」
まさかここまで神の祝福が即効性のあるものだとは思わなかった。もしかするとこれまでは殿下に言われた言葉を無意識に気にして全力を出せないでいたのが、今はそこから解き放たれて全力を出せるようになったからかもしれない。
「実はイレーネ様がいない間色々大変だったのです!」
「戻ってきていただきほっとしています!」
「これからはずっと聖女でいてください!」
「ありがとう」
私は喜んでくれる神官たちに声をかけて回りました。
すると、そんな騒ぎの中、気まずそうな表情をした大司教が姿を現します。
「イレーネ様、このたびは本当に申し訳ありませんでした」
「どうしましたか、大司教様」
何か後ろめたいことがあるのだろうとは思っていましたが、これまでは神殿で一番偉い人として振る舞っていたのに突然平身低頭し始めたので私は困惑します。
神官の中にも数人、彼を白い目で見ている者がいます。
「やはりあなたとレイシャではその力は大違いでした。それなのに目先のことに囚われてつい聖女交代を黙認してしまったのです」
「ちなみになぜ黙認してしまったのですか?」
「殿下に強く言われ、また陛下もそれを了承していると聞いて……」
そう言って大司教は俯きます。とはいえそれだけならここまで後ろめたくなることはないでしょう。
「それだけですか?」
「いえ、実は神殿に多額の寄付を……。ですが私はもう改心いたしました。これからは誠心誠意神に尽くします!」
やはりそういうことですか。神殿の経営がぎりぎりというのは知っていましたが、だからといってレイシャから寄付を受けて丸め込まれるなど許されることではありません。
それに大司教様は今は頭を下げていますが、先ほど私とすれ違った時に目をそらしたのは忘れていません。私の祈りがすぐに奇跡を現したのを見て態度を変えた方がいい、という打算が働いたのでしょう。
私は意を決して冷たい声で言います。
「大司教様、いえ、ロナルド」
「は、はい」
「あなたはご存知ないかもしれませんが、レイシャは帝国と繋がっていたようです。おそらく我が国を内部から崩壊させようとしていたのでしょう」
それを聞いたロナルドの表情がさあっと青ざめていきます。恐らく彼はそれに気づかずに金を受け取ってしまったのでしょうが、どうせ金も帝国から出たものなのでしょう。
他の神官たちもその情報にざわつき始めました。
「そ、そうなのですか!?」
「そうです。知らなかったこととはいえ、帝国の回し者を聖女に認めてしまったことは許されざる失態です。あなたの最後の仕事は神官の中から一番優秀な後任を選ぶことです」
「そ、そんな」
「神官たちを見てください。すでに彼らの心はあなたから離れています」
そう言われてロナルドは自分を白い目で見つめる神官たちを見回し、逃れられないことを悟ります。
「わ、分かりました。では早急に後任を選ばせていただきます」
そう言って彼が逃げるように退がっていくと、神官の一人が拍手を始めます。やがてその拍手は次第に広がっていき、割れんばかりの拍手となったのでした。
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