婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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リリー視点 疑惑

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 それから私はなすすべなくテイラー伯爵家の屋敷まで連れていかれた。
 無理に引き返さなかったのは、どうせ向こうの家につけばパーシーの暴走をテイラー伯爵家が怒り、私が送り返されて終わるのではないかと思ったからだ。

 もしかしたら留守中にお姉様は精霊を奪還しているかもしれないが、そうなれば母上に泣きつけばきっと母上はお姉様に精霊を返すよう言ってくれるだろう。
 それから一時間ほど走って馬車で伯爵屋敷に辿り着く。私たちは王都に建てた屋敷で暮らしているため、お互いの領地を行き来しなくても会うことが出来る。

 屋敷に到着すると私は自力で歩けないため、パーシーは私を抱えて馬車から降りる。相変わらず彼は自己陶酔に浸っているようで、傍からみればどう考えても異様な振る舞いを何の躊躇もなく行っていた。彼の家臣もさすがにそれには困惑していたが、言っても無駄だと分かっているためか渋い顔をするだけで何も言わなかった。

 そしてパーシーは困惑する門番を押しのけるようにして中へ入り、屋敷の中へと入る。
 当然家の人々は私たちを奇異の目で見たが、気にする素振りもなかった。

「パーシーか、思ったよりも帰りが早いな……うわっ」

 そこへテイラー伯爵が困惑しながら現れる。そして私を抱きかかえたパーシーの姿を見てぎょっとした。私はどう反応するのが正解か分からず、とりあえず困った顔をしてみる。

「パーシー、これは一体どういうことだ!」
「父上、彼女、リリーは実姉に屋敷で酷いいじめに遭っていて可哀想なので助けました」
「実姉ってそれはお前の婚約者のミアではないか?」
「違います父上、元婚約者です。すでに僕はミアとは婚約を破棄しました」
「……は?」

 あまりの急展開にテイラー伯爵も言葉を失っている。
 そんな伯爵にパーシーは得意げに説明を始める。

「まあお聞きください、そもそもミアはずっと自分と違って魔法が使えるリリーが羨ましくて……」

 そしてパーシーは自分が妄想で膨らませたストーリーを語り始める。
 テイラー伯爵はずっと眉間にしわを寄せて聞いていたが、やがて話が終わると私に尋ねる。

「そうなのか?」
「……」

 私は愛想笑いを作って誤魔化す。すでに事態がよく分からない状況へと進んでいる以上迂闊に口を開くとボロを出すと思ったからだ。

「父上、リリーは心優しいからこんな姉でも悪く言うことが出来ないのです。何と健気なのでしょう」
「そうだろうか? ところでパーシー、わしは彼女と会うのは初めてだが彼女からは全く魔力を感じないのだが」

 それを聞いて私は全身が凍り付くのを感じた。
 魔法の技術にある程度熟練した人はある程度相手の魔力を感じ取ることが出来る。まさかテイラー伯爵がそうだったとは。

「何を言ってるんですか父上。僕はリリーの魔法を何度も見たことがあります」
「どうなんだ、リリー」

 まずい、このままでは思わぬところから全ての嘘が露見してしまう。いくらパーシーが先走っただけとはいえ、ここで嘘がバレれば私もパーシーをそそのかした罪は免れないだろう。

「すみません、ちょっと色々あって疲れていて……」
「そうです父上、これだけ色々あったら疲れるに決まっています!」

 幸いなことにパーシーはすっかり私のナイトになってくれている。
 よほどのことがなければ疲れたからといって魔力がなくなる訳ではないが、それを聞いてテイラー伯爵はしぶしぶといった様子で頷く。

「まあそれはそうか。何にせよ、お前の勝手な行動の後始末をしなければならない! くそ、せめて虐めの証拠ぐらいはあるのだろうな!?」
「いえ、ミアは巧妙に証拠が残らないように……」
「馬鹿者! 証拠もないのにこんなことをしでかしおって! とりあえずお前はもう何もするな! 部屋で大人しくしていろ!」

 そう言って伯爵は怒りながら去っていくのだった。
 きっと彼もここまでの異常事態にどうすればいいのかよく分からないのだろう。

「ふう、父上もゆっくり休めと言ってくれたし部屋に案内しよう」

 全くそんな風には言ってなかったと思うけど。どれだけ物事を都合よく解釈すれば気が済むのだろうか。
 とはいえ、私はパーシーに抵抗することが出来ない。どうにか伯爵に気づかれる前に実家に帰って精霊を取り戻さなければ、と思いつつも仕方なく彼に抱えられたまま部屋に向かうのだった。
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