婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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テイラー伯爵家からの使者Ⅱ

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「リリーの魔法の件?」

 その単語を聞いた母上の表情が一気に凍りつきます。
 これまで必死にそのことがばれないよう私や家の者に言ってきていたのですから。

「はい、どういった事情かよく分かりませんが、リリー様はなぜかミア様の精霊を借りて魔法が使える振りをされていたということですが……その件も隠した方がいいのでしょうか?」
「ちょっと、何でそのことを知っているの!?」

 それを聞いて激昂した母上がエバンズに詰め寄ります。
 そんな母上の形相にエバンズは少し困ったような表情をしました。

「何でも何も、現在魔力を持っていらっしゃらないようでしたので……」
「そ、そう言えばあの娘はパーシーに誘拐されたから……許せないわ!」

 今更ながらにそのことに思い至った母上は激怒しました。

「あいつのせいでリリーのことがばれるなんて、ありえない! やっぱりうやむやにするなんて許せない! ちゃんと処罰を与えないと!」
「お、落ち着いてくれ」

 そんな母上を父上が懸命になだめようとします。

「これが落ち着いていられるって言うの!? パーシーの愚かな行為のせいでリリーのことがばれるかもしれないのよ!?」
「いやそれは……」

 さすがの父上もそれには困惑してしまいます。せっかく話がまとまりそうだったのに、リリーのために滅茶苦茶になるのは父上としては困ることなのでしょう。

 しかも父上からすれば精霊の件は母上が無理にというので仕方なくそうしていたことであって、そこまで進んでやっていたことではないのでしょう。

「あのう、もし事態を誤魔化してもらえるのであればリリー様の件は可能な限り秘密にしますが」
「可能な限りって何?」

 激昂した母上は噛みつくように言います。

「いえ、すでに何人かの者に知れ渡ってしまっていて、人の口に戸は立てられぬとも言いますし……」

 エバンズは困ったように言います。
 後で知ったことですが、この時テイラー伯爵家では「何人かの者に知れ渡って」どころではなく、伯爵とリリーが揉めた現場に使用人が駆けつけて大騒ぎになっていたようです。
 それを知っているためエバンズは弱気になったのでしょうが、そんな態度に母上はさらに苛立ちます。

「何を無責任な! 元々そっちが全部悪いって言うのに! そんなことを言うのであればこんな話は受けられないわ!」
「それは困ります……」
「困るじゃないの! 誰のせいでこうなったと思っているの!?」
「しかしもしパーシーを断罪すると言うのであればこの件についても白日の元に晒されますが」

 エバンズは控えめながらしっかりした口調で言います。

「私を脅迫しようと言うの!? パーシーがパーシーなら家臣も家臣だわ!」
「まあまあお互い落ち着いてくれ」 

 こうなってはもう滅茶苦茶です。父上が母上をなだめようとしますが、母上はひたすら暴言を吐き続けるのでした。

 さすがにこんなことになってはまともな話し合いも出来ぬと思ったのか、その場は解散となりエバンズはもうしばらく我が家に滞在することとなったようです。
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