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テイラー伯爵家の使者Ⅲ

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「ああ、困ったことになった」

 使者と母上をどうにか別室に送り届けた後に父上はそう言って頭をかきます。

「父上的には今回の件はどうやって収めるのが理想なのでしょうか?」
「正直何とか穏便に収まってくれればいいのだが、このままではあれが絶対に収まらないだろう」

 父上は面倒くさそうに言います。
 前々から父上は母上に対して頭が上がらないところがあり、そのせいでうちでは母上が言うことが何でも通っていました。

「ではテイラー家の申し出は断りますか?」

 さすがに申し出を断ったからといってリリーが帰ってこないということはないはずです。
 もしかしたらパーシーの誘拐は悪くないという証拠を捏造してくる可能性はありますが。

「だが、応じればお金をもらうことも出来ると聞いた。それにリリーのことが公になるのはそれはそれで困る」
「それなら母上に、向こうの要請を飲んだ方がリリーのことが広まる確率は低いと説明しては?」
「それで納得するような人ならこんなに困ることはない!」

 父上の言葉に私は困惑しましたが、言われてみれば母上にはそういうところはあります。

「それならもう父上の独断で向こうの要請を受けてしまっては?」
「そんなことをしてリリーの件が広まればわしが責められるに決まっている!」

 父上は父上でそれはどうかと思いますが。
 要するに自分のことしか考えていない父上と、リリーのことしか考えていない母上ということです。そう考えると向こうの家臣の方がまだまともと言えるかもしれません。

 周りが皆こんな感じだというなら私も自分のことだけを優先して考えてよいでしょう。
 私としてはリリーが帰って来て母上に怒られることだけは避けたいです。
 もしこのままの流れでリリーが戻ってこれば、母上は私が精霊を取り返したことに対して絶対に激怒するでしょう。

「そういうことなら、いったんほとぼりが冷めるまでこの話の結論は待ってみては?」
「それは確かに。少し待って、もしもリリーの魔力の件が漏れれば向こうが悪いということになるし、大丈夫そうならその時に今の話を飲めばいいな」

 私の提案に父上は納得します。
 私としては、単にリリーが帰ってくると母上に精霊の件がバレるので先送りにしようと思っただけなのですが、父上は思った以上に喜んでいます。

「よし、その通りに伝えてくる!」
「えぇ……」

 私が出した案ではあるのですが、そこまで名案のように言われると逆に困惑してしまいます。とはいえ、そんな私の思いをよそに父上は使者を待たせている部屋へと走っていくのでした。

 その後、使者も先ほどの母上の態度を見て理性的な話をするのは難しいと思ったのかその先延ばし案に納得して帰っていき、母上も父上にうまく言いくるめられたのか、それ以降は大人しくなったのでした。
 私はひとまず安心するとともにこれからどうよう、と途方に暮れるのでした。
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