婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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「大丈夫でしたか?」
「ありがとう、アルフ」

 母上の姿が見えなくなると、とりあえず私は助けてくれたアルフにお礼を言います。

「でも一体なぜここに?」
「いや、リリーを返してもらうならバートン家単独で言うだけでなく僕も一緒に言った方がいいんじゃないかってバートン伯爵に言われてその相談をするために来ていたんです」

 そうか、向こうが提案してきた和解案を蹴ったからリリーを返してもらうには普通に交渉しないといけないのですね。
 とはいえ、そう思うと一つ疑問があります。

「でも向こうはリリーをずっと手元に置いてどうする気なのかしら。交渉材料になるならともかく、ずっと抱えているとどんどん印象が悪くなっていくだけと思うけど。そもそも世間ではこの件をどう思っているの?」

 私は当事者だしこんなことがあったのに外のお茶会やパーティーに顔を出すほど図太くないので最近は周囲との関わりが全くありません。
 しかしリリーを帰すのが遅くなればなるほど印象は悪くなっていく一方のように思われますが。

「最初はパーシーの奇行として広まっていたんだけど、あまりの奇行っぷりに実はテイラー伯爵の陰謀なんじゃないか、とか、バートン伯爵家には何か闇があるに違いないとか逆に変な憶測が広まってたみたいですよ」
「あまりに狂人の行動をすると、逆に何か真の意図があるのではないかと思われた、と」
「そうみたいですね」

 そう言ってアルフは苦笑します。
 確かにそういうことなら、リリーを数日は攫ったままでも向こうはダメージがないのかもしれません。

「……それで、リリーを帰すよう向こうに言ったの?」
「はい、そういう手紙を書きましたが、すみません」

 そこでアルフは私がリリーに帰ってきて欲しくないと思っていることに気づいたのでしょう、申し訳なさそうに頭を下げます。

「いや、気にしないで! それは私の我がままだし、そもそもいずれは帰ってくるから! それにここまで噂が流れた以上、もう精霊を返しても遅いし」

 仮に精霊を返してリリーが魔法を使っても、周囲には「借り物で魔法を使っている」と思われるだけで余計にみじめでしょう。

「確かに……しかしミアさんがそれで母親にどうこう言われるのは大変ですね」
「ええ、まあ」

 そんなことを話しつつ、私たちはしばしの間雑談します。

 そんな時でした。ドタドタという足音とともに今度は家臣が駆け込んできます。

「大変です!」
「な、何?」

 すると家臣は慌てた様子で口を開きます。

「そ、それが、テイラー伯爵は『リリーは姉から精霊を奪った悪女であり、それを咎めようとしたら逆上して襲い掛かってきたのでやむなく応戦し、現在は屋敷で静養させている』と言っているそうで……」
「はあ」

 パーシーの狂人めいた行いにまさかそんな言い訳をしてくるとは、と思って呆れかけましたが、冷静に考えると前半はある意味当たっています。パーシーの行動の意図は真逆ですが、彼のおかげで私が精霊を取り戻せたのも確かです。

 そんなことを思いつつ私はアルフと顔を見合わせるのでした。
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