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リリー
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そんなことはあった私ですが、結局何食わぬ顔で元の部屋に戻ってくるとちょうど書類のサインも終わっているようでした。
「では、リリーを渡してもらいましょうか」
「分かった。少し待ってくれ」
少しして、テイラー伯爵家のメイド数人に連れられてリリーが杖をついて歩いてきます。屋敷にいたときは車椅子でなければ嫌だ、と杖での歩行も嫌がっていたのですが、パーシーは車椅子すらも用意してくれなかったようです。
その表情は屋敷にいた時の自信に満ちたものではなく、力のないもので、視線も床に向いています。
「……」
さすがにこんなことになった以上、彼女としても言うことはないようでした。
「まあ後は好きにしてくれ」
リリーと入れ違いに、テイラー伯爵はもう用は済んだとばかりにそう言って部屋を出ていきます。
「……すみませんでした、お姉様」
部屋に三人だけになると、リリーはぽつりと言います。
ちらりと表情を見ると、反省しているというよりは屈辱感に苛まれているといった方が正しい様子でした。
リリーはパーシーと違って馬鹿ではないので、こうなったらもうどうにもならないし、それなら素直に謝った方がいいと判断したのでしょう。
これまで十年以上怒らなかったのに急にここで声を荒げる気にもなれず、私は平たんな声で尋ねます。
「一応聞くけど、それは何に対する謝罪?」
「……ずっと精霊を借りていたことと、パーシーを焚きつけてこんなことを引き起こしてしまったことです」
「そう。別に改めて許すとか許さないとか言うつもりもないけど、事実が広まってしまったから今後白い目で見られながら生きていくことは分かってる?」
「……はい」
「今まで魔法が使えていた分の報いを受けながら今後はせいぜい頑張って生きることね」
「……はい」
私の言葉をどう思っているのか、リリーは言葉少なに頷きました。
こうなった以上もはや何を言っても無駄だと思ったのでしょうか。仮に言葉巧みに私を言いくるめて精霊を再び借りたとしても、すでに世間に噂が広まっている以上どうしようもありません。
強いて言えば私の精霊なしで魔法を使えるようになれば本当に魔法が使えた、と言えるかもしれますがそれもほぼ不可能でしょう。
私も精霊を奪われていた期間が長すぎて、リリーに対して燃えるような怒りを抱いている訳ではなく、沈黙が流れます。
そんな気まずい雰囲気を見かねた父上が口を開きます。
「ま、まああれだ、リリーは母さんと一緒にしばらく領地で休んだらどうだ。ついでにそろそろ足もきちんと治すといい」
リリーに甘い父上はフォローのつもりでそう言ったのでしょうが、裏を返せばしばらく表舞台を退いていろということです。
「……分かりました」
リリーは力なくそう頷きます。
こうして私たちは俯くリリーを連れて屋敷に帰るのでした。
「では、リリーを渡してもらいましょうか」
「分かった。少し待ってくれ」
少しして、テイラー伯爵家のメイド数人に連れられてリリーが杖をついて歩いてきます。屋敷にいたときは車椅子でなければ嫌だ、と杖での歩行も嫌がっていたのですが、パーシーは車椅子すらも用意してくれなかったようです。
その表情は屋敷にいた時の自信に満ちたものではなく、力のないもので、視線も床に向いています。
「……」
さすがにこんなことになった以上、彼女としても言うことはないようでした。
「まあ後は好きにしてくれ」
リリーと入れ違いに、テイラー伯爵はもう用は済んだとばかりにそう言って部屋を出ていきます。
「……すみませんでした、お姉様」
部屋に三人だけになると、リリーはぽつりと言います。
ちらりと表情を見ると、反省しているというよりは屈辱感に苛まれているといった方が正しい様子でした。
リリーはパーシーと違って馬鹿ではないので、こうなったらもうどうにもならないし、それなら素直に謝った方がいいと判断したのでしょう。
これまで十年以上怒らなかったのに急にここで声を荒げる気にもなれず、私は平たんな声で尋ねます。
「一応聞くけど、それは何に対する謝罪?」
「……ずっと精霊を借りていたことと、パーシーを焚きつけてこんなことを引き起こしてしまったことです」
「そう。別に改めて許すとか許さないとか言うつもりもないけど、事実が広まってしまったから今後白い目で見られながら生きていくことは分かってる?」
「……はい」
「今まで魔法が使えていた分の報いを受けながら今後はせいぜい頑張って生きることね」
「……はい」
私の言葉をどう思っているのか、リリーは言葉少なに頷きました。
こうなった以上もはや何を言っても無駄だと思ったのでしょうか。仮に言葉巧みに私を言いくるめて精霊を再び借りたとしても、すでに世間に噂が広まっている以上どうしようもありません。
強いて言えば私の精霊なしで魔法を使えるようになれば本当に魔法が使えた、と言えるかもしれますがそれもほぼ不可能でしょう。
私も精霊を奪われていた期間が長すぎて、リリーに対して燃えるような怒りを抱いている訳ではなく、沈黙が流れます。
そんな気まずい雰囲気を見かねた父上が口を開きます。
「ま、まああれだ、リリーは母さんと一緒にしばらく領地で休んだらどうだ。ついでにそろそろ足もきちんと治すといい」
リリーに甘い父上はフォローのつもりでそう言ったのでしょうが、裏を返せばしばらく表舞台を退いていろということです。
「……分かりました」
リリーは力なくそう頷きます。
こうして私たちは俯くリリーを連れて屋敷に帰るのでした。
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