婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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「分かりました……アルフはちょっと待っていて」
「分かった」

 私が部屋を出て玄関に向かうと、そこには数人のメイドや執事に囲まれた母上とリリーがいました。
 母上は恐らくこれまで散々抵抗したのでしょう、今は疲れ切った様子で虚ろな目で俯いています。一方隣にいるリリーは暗い表情をしていますが、気は確かなようでした。

 ちなみにその場に父上はいませんでした。もしや母上に対して苦手意識を持っている父上は最後の挨拶も避けるつもりなのでしょうか。本当に最後までうちの家族は酷い関係です。
 そんな私を見た母上は最後の気力を振り絞ってすがるように言います。

「あの人に会わせて!」

 それが本当に純粋な気持ちなのか、それとも父上なら強く言えば何とかなると思ったのかはよく分かりません。

「それは母上が病気を治してからです。ですから出来る限り早く病気を治してください」
「私は病気なんかじゃないわ……」
「病気というのはえてして自分では気づいていないものです。でも、静かなところでおいしい物を食べてゆっくり暮らせばきっと治りますよ」

 気休めと言えば気休めですが、本心でもそう思っています。母上はリリーを溺愛しすぎるあまり正気を失っているので、リリーさえ立ち直れば自然とよくなるでしょう。そしてリリーはリリーで良くも悪くも図太い性格なのでしばらくしたら元気になるでしょう。

「と言う訳でリリーも早く元気になって母上を助けてあげてね」
「そんなこと本心では思っていない癖に」

 リリーは相変わらずリリーだったようです。

「じゃあ、もうずっと別荘で大人しくしていて欲しい、と言えば満足?」
「そうですね、変に気を遣われると逆に気持ちが悪いです」

 リリーは吐き捨てるように言うのでした。
 偽りの自分を演じて他人と接していた彼女だからこそ、私に上辺だけの気休めを言われても気持ち悪く感じてしまうのかもしれません。

「そういう訳ならもう行ってらっしゃい。あと、母上をよろしく。これだけは本心だから」
「……まあ気が向いたらね」

 そう言ってリリーは母上の手をとり、馬車に乗り込みます。
 そしてほどなくして馬車は走り出すのでした。
 私はそれを黙って見送ります。

 寂しいとか悲しいとかそういう感情はありませんでしたが、馬車が遠ざかっていくつれてこれでようやく解放されるんだ、という気持ちが増していくのを感じました。これからは本当に母上とリリーの呪縛から解き放たれて生きていくことが出来るのです。
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