32 / 41
エミリー
しおりを挟む
そして前日のこと。その日は元々の仕事に加えて公開弁論対決の準備もあり、すっかり遅くなってから王宮を出て屋敷に帰るところだった。
遅くなってしまったが、明日に備えて早く寝なければ、などと思いながら王宮からの帰路を歩いていると。
不意に目の前に人影が現れた。
「誰?」
「私のことなどお忘れですか、レイラさん?」
「エミリー……」
確かにその声はエミリーのものだった。
よく見てみると、前より体が細くなり、瞳から生気が消えたエミリーの姿があった。以前の、オリバーにたかって人生を謳歌していた彼女とは別人のようだった。
それを見てお供の方々の表情にもさっと警戒が走る。
彼女は私の顔を見ると妖しく笑った。
「私のお兄様を酷い目に遭わせ、自分は殿下と仲良くなって人生ご満悦のようですわね」
「そんなこと……元はと言えばあなたがオリバーに何でもかんでもたかったのが原因じゃない!」
私はエミリーの勝手な言い分に怒りを覚えた。
確かに一番悪いのはオリバーではあるが、そのオリバーにあんなことをしろと言ったのはエミリーである。
彼女さえ無茶なことを言わなければオリバーがあんなことをしなくても済んだのだ。
だが、今の彼女にそんな理屈は届いていないようだった。
「ふん、他人を陥れておいて自分だけ王子と仲良くしようだなんて許せないわ。今回の件もあなたが裏で糸を引いていたそうじゃない」
「今回の件って……もしかしてあなたこそアンジェリカを焚きつけてこんなことをしたんじゃないの!?」
エミリーとアンジェリカが協力しているという話を聞いたことはなかったが、そうでなければエミリーがこのタイミングで私に因縁をつけてくるとは思えない。今回の対決も言い方は悪いが私が殿下の裏で糸を引いていたと知っているということはやはり関係者なのだろう。
「とにかく、これ以上邪魔をすると言うのであれば私が直々にどうなるかを教えてあげますわ」
「……一体何をすると言うの?」
エミリーはやたら強気だが、これ以上何をすると言うのだろうか。
今の彼女には打つ手が残ってないからアンジェリカを頼ってこんなことを仕組んだのかと思っていたけど。
が、エミリーは私の言葉に病的な笑みを浮かべた。
彼女はオリバーを財布のように扱っていたように見えたが、実のところエミリーはエミリーでオリバーに依存していたのかもしれない。
「今のあなたを捕えて人質にすればさすがの殿下も言うことを聞かざるを得ないですわね?」
「そんな無茶な!」
王都でそんなことをしてもすぐにばれて捕まってしまうだろう。
そうなればかろうじて存続しているローザン家も今度こそ終わってしまう。
「無茶でも何でも構いませんわ。あなたのせいでお兄様は一生消えない汚名を背負うことになりましたの! そして今はお父様もお兄様も皆廃人のよう。こんなことになった責任はとってもらいますわ!」
「そんな、元はと言えば全部あなたの我がままが原因のせいじゃない!」
「そんなこと、部外者のあなたに言われる筋合いはないわ! あんたなんかに私とお兄様の絆が分かる訳がない!」
エミリーが叫んだ時だった。
不意に私の周囲にたくさんの人の気配が出現する。
「しまった、囲まれました」
私のお供の表情が急に暗くなる。
確かに夜遅いが、まさかエミリーがこんな直接的な行動に出るとは思えなかった。確かに一時的に私を攫うことは出来るだろうが、そんなことをしてもオリバーの名誉が返ってくる訳でもない。
「やめて! こんなことをして何になると言うの!?」
「別に何にもならなくていいわ! ただ私はお前と殿下に復讐がしたい!」
エミリーが叫んだ瞬間包囲の輪がじりじりと縮まるのだった。
遅くなってしまったが、明日に備えて早く寝なければ、などと思いながら王宮からの帰路を歩いていると。
不意に目の前に人影が現れた。
「誰?」
「私のことなどお忘れですか、レイラさん?」
「エミリー……」
確かにその声はエミリーのものだった。
よく見てみると、前より体が細くなり、瞳から生気が消えたエミリーの姿があった。以前の、オリバーにたかって人生を謳歌していた彼女とは別人のようだった。
それを見てお供の方々の表情にもさっと警戒が走る。
彼女は私の顔を見ると妖しく笑った。
「私のお兄様を酷い目に遭わせ、自分は殿下と仲良くなって人生ご満悦のようですわね」
「そんなこと……元はと言えばあなたがオリバーに何でもかんでもたかったのが原因じゃない!」
私はエミリーの勝手な言い分に怒りを覚えた。
確かに一番悪いのはオリバーではあるが、そのオリバーにあんなことをしろと言ったのはエミリーである。
彼女さえ無茶なことを言わなければオリバーがあんなことをしなくても済んだのだ。
だが、今の彼女にそんな理屈は届いていないようだった。
「ふん、他人を陥れておいて自分だけ王子と仲良くしようだなんて許せないわ。今回の件もあなたが裏で糸を引いていたそうじゃない」
「今回の件って……もしかしてあなたこそアンジェリカを焚きつけてこんなことをしたんじゃないの!?」
エミリーとアンジェリカが協力しているという話を聞いたことはなかったが、そうでなければエミリーがこのタイミングで私に因縁をつけてくるとは思えない。今回の対決も言い方は悪いが私が殿下の裏で糸を引いていたと知っているということはやはり関係者なのだろう。
「とにかく、これ以上邪魔をすると言うのであれば私が直々にどうなるかを教えてあげますわ」
「……一体何をすると言うの?」
エミリーはやたら強気だが、これ以上何をすると言うのだろうか。
今の彼女には打つ手が残ってないからアンジェリカを頼ってこんなことを仕組んだのかと思っていたけど。
が、エミリーは私の言葉に病的な笑みを浮かべた。
彼女はオリバーを財布のように扱っていたように見えたが、実のところエミリーはエミリーでオリバーに依存していたのかもしれない。
「今のあなたを捕えて人質にすればさすがの殿下も言うことを聞かざるを得ないですわね?」
「そんな無茶な!」
王都でそんなことをしてもすぐにばれて捕まってしまうだろう。
そうなればかろうじて存続しているローザン家も今度こそ終わってしまう。
「無茶でも何でも構いませんわ。あなたのせいでお兄様は一生消えない汚名を背負うことになりましたの! そして今はお父様もお兄様も皆廃人のよう。こんなことになった責任はとってもらいますわ!」
「そんな、元はと言えば全部あなたの我がままが原因のせいじゃない!」
「そんなこと、部外者のあなたに言われる筋合いはないわ! あんたなんかに私とお兄様の絆が分かる訳がない!」
エミリーが叫んだ時だった。
不意に私の周囲にたくさんの人の気配が出現する。
「しまった、囲まれました」
私のお供の表情が急に暗くなる。
確かに夜遅いが、まさかエミリーがこんな直接的な行動に出るとは思えなかった。確かに一時的に私を攫うことは出来るだろうが、そんなことをしてもオリバーの名誉が返ってくる訳でもない。
「やめて! こんなことをして何になると言うの!?」
「別に何にもならなくていいわ! ただ私はお前と殿下に復讐がしたい!」
エミリーが叫んだ瞬間包囲の輪がじりじりと縮まるのだった。
202
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる