【完結】侯爵家の娘は、隣国へ販路拡大しに来ました!

まりぃべる

文字の大きさ
5 / 20

5. お見合い、ではなく

しおりを挟む
コンコンコン
「ミロシュです。お呼びですか?」

「あぁ、来たわね。入りなさい。」


 ナターシャが、言葉を繋げないでいると応接室の扉が叩かれ、男性が入って来た。黒い髪を短く切り揃えた、背の高いガッチリとした人だ。

「母上、どうしました…か?あ!お客様でしたか。すみません、出直します。」

 そう言ったミロシュは、入って来た扉へ引き返そうとする。

「ミロシュ、いいのよ。私が呼んだのですからね。早くこちらへ座りなさい。」

 イェレナはそう言い、自分の隣へと促した。
ミロシュは、ナターシャという見慣れない人物がいるのになぜ自分が呼ばれたのか?と一瞬だけ怪訝そうな顔をし、けれども表情を戻し、イェレナの隣へと座った。
 イェレナは、ミロシュが座ると二人を見てニッコリと笑いかけて口を開いた。

「ナターシャ、こちらが私の息子のミロシュ。どお?整った顔立ちでしょう?そしてミロシュ、こちらはナターシャ=テイラーさん。ナターシャは今日、私を助けて下さったの。優しい心の持ち主なのよ。だからね、あなたナターシャと結婚なさい。」

「は!?」

 ミロシュは表情を崩し、眉間にしわを寄せ、イェレナの方を向き、疑問を口にした。

「母上!何を言っておられるのです?僕は結婚しないとあれほど…!」

「あら。そう言って何年経ったかしら?あなたももう二十五歳よ?そろそろ結婚しないと変な噂も立ち始めてしまうわ。王太子と揃って婚約者すらいないなんて、って。」

「いえ、それは…!言いたい奴には言わせておけばいいのです!それに僕はまだ騎士団という仕事に誇りを持っていますから!」

「騎士団は大切な勤めよね。別にそれを咎めてはいないわ。将来きちんと公爵家を継いでくれるなら私は文句はいわないと伝えたはずよ。でも、騎士団に所属していても結婚している人はいるわよね?」

「それは…まぁ。」

「じゃあいいじゃないの!私、ナターシャにお礼をと思ったのだけれどね、よく考えたらとてもいいお礼だと思わない?」

「あのですね…、普通は金品をとか、食事に招待するとかそういうのがお礼なのではないですか?」

「あら!それじゃ詰まらないわ。ナターシャは最初お礼は必要ないと言ったのよ。そんな謙虚な子、あなたの妻にぴったりじゃない?」

「母上…詰まらないとかではなく!お礼は要らないと言われたのに、僕を押し付ける気ですか!?」

「フフフ、そうとも言うわね。けれどもそれだけじゃないのよ、謙虚で心優しいナターシャが嫁に来てくれたら、私の娘になるじゃないの。それって素敵じゃないの!」

「また気まぐれでそんな…。ナターシャ嬢もいきなりの事でしたよね、僕の母が申し訳ありません。」

「い、いえ…あの…」

 二人の成り行きを見ていたナターシャは、いきなりミロシュに話を振られ、公爵家に対してどう答えようか悩みながら口を開いたが、イェレナの言葉に遮られた。

「そうだわ!ミロシュ、庭でも案内してきなさいよ。二人で話す時間も必要でしょう?」

「全く…母上!父上は承諾しているのですか!?」

 ミロシュは、こめかみに手をあてて、引きつったような顔をしながらそう聞いた。

「あら、これからよ。だってナターシャと会ったのは今朝よ。さっき思い付いたのだもの。」

「………。では、この話は僕から話しますから。この話は一旦保留で。良いですね?では、ナターシャ嬢、少し案内しますから、こちらへ来ていただけますか。」

「え?え、ええ…。あの、連れも一緒に外へ出てもよろしいですか?」

「連れ?あぁ…君の使用人かな?もちろんだよ。僕達は未婚同士だからその方が都合がいいからね。」

 ナターシャは、公爵家の親子が言い合いをしているのを見て、どうやらイェレナが一人で思い付いたものだと知った。 
 見目麗しい男性と二人でなんて緊張するが、イェレナ抜きで話が出来るという事で、きちんと話が出来るのではないかと期待して付いていった。




☆★

 中庭を歩き、花のアーチをくぐった先に小高くなった四阿にミロシュとナターシャが腰掛けると早々に、ミロシュは話し出した。
 エドとキャリーは付いてきたが、少し離れた見える場所で待ってくれている。

「ナターシャ嬢、改めて挨拶をするね。僕はミロシュ=アレクサンダー。早速だけれどね。この話は僕、今聞いてちょっと動転しているんだが…。ナターシャ嬢は母からどう聞いたか分からないのだが、どうにも母は勝手に思い付きで大事な話まで進めてしまう気質で…迷惑を掛けたようで申し訳ない。」

 そのように公爵家の嫡男だろう男性から頭を下げられ、慌ててナターシャは言葉を発した。

「頭をお上げ下さい!あ、あの私は隣国から参りました、ナターシャ=テイラーでございます。イェレナ様には、今朝馬車がぬかるみに嵌まって抜け出せなくなっている所をお手伝いしただけです。ですから…お礼なんてとんでもないです!でも、どうしてもと言われてましたから、うちの絹で作ったハンカチを渡してそれを使っていただいて、もし良ければ購入してほしいと軽い気持ちで伝えたのですけれど…。」

「ナターシャ嬢…済まない。君は、隣国から来られたんだね。〝うちの絹で作った〟って、君は商家かい?テイラー…テイラー…あ!テイラー侯爵家のご令嬢かな?」

「は、はい。ご存じでいらっしゃるとはありがたい限りです。」

「購入…そうか。それもいいけど…そうだな。…あのね、済まないが僕は心に決めた人がいるんだ。だから申し訳ないけれど君とは結婚出来ない。その代わり…お願いがあるんだが。」

 そう言ったミロシュは、口にするのを躊躇っているようにナターシャには見えたが、その言葉を待った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】トリマーだった私が異世界という別の場所で生きていく事になりました。

まりぃべる
恋愛
私、大橋れな。小さな頃から動物が好きで、念願のトリマーの職に就いて三年。そろそろ独立しようかと考えていた矢先、車に轢かれたと思う。だけど気が付いたら、全く知らない場所で、周りの人達も全然違う感じで、外国みたい。でも言葉は通じるの。いやこれはどうやら異世界に来ちゃったみたい。 私はきっと前の世界では命を落としたのだから、ここで生きていけるのならと、拾われたエイダさんと共同生活する事になった。 エイダさんの仕事を手伝いながら、自分がやりたかった事とは多少違っても皆が喜んでくれるし、仕事が出来るって有意義だと思っていた。 でも、異世界から来た人は王宮に報告に行かないといけないらしい。エイダさんとは別れて、保護下に置かれる為王宮内で新しく生活をするのだけれど、いつの間にか結婚相手まで!? ☆現実世界でも似た名前、地域、単語、言葉、表現などがありますがまりぃべるの世界観ですので、全く関係がありません。緩い世界ですので、そのように読んでいただけると幸いです。 ☆現実世界で似たような言い回しの、まりぃべるが勝手に作った言葉や単語も出てきますが、そういう世界として読んでいただけると幸いです。 ☆専門の職業の事が出てきますが、まりぃべるは専門の知識がありませんので実際とは異なる事が多々出てきますが、創作の世界として読んでいただけると助かります。 ☆動物との触れ合いは少ないです。 ☆完結していますので、随時更新していきます。全三十二話です。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる
恋愛
王都から少し離れた伯爵領地に住む、アウロラ=フランソンは領地の特産物である馬を領民と共に育てている。 一つ上の兄スティーグは学友から、妹を紹介しろと言われるが毎回断っていた。そしてその事を、寮から帰ってくる度に確認される。 貴族で伯爵家の娘であるアウロラは、そのうちいつかはどこかの家柄の男性と結婚をしなければならないのだと漠然と思っている。ワガママが許されるのなら、自分の好きな乗馬は止めたくなかったし結婚はしたくなかったけれども。 両親は好きにすればいいと思っていたが、父親の知り合いから結婚の打診が来て、まずは会うだけならと受けてしまった。 アウロラは、『仕方ない…いい人だといいなぁ』と思いながら会い、中身を知ろうとまずは友人から始めようと出掛ける事になるのだが、なかなか話も噛み合わないし価値観も違うため会話も出来ない。 そんな姿を見てか相手からは清楚だなんだと言われていたが、相手がある女性を助けた事で「僕達別れよう」と一方的に言われることになった。 あまりの事に驚くが、アウロラもまたある男性と出会い、そして幸せになるお話。 ☆★ ・まりぃべるの世界観です。現実とは常識も考え方も似ているところもあれば、全く違う場合もあります。単語や言葉も、現実世界とは意味や表現が若干違うものもあります。 ・人名、地名など現実世界と似たもしくは同じようではありますが全く関係ありません。 ・王道とは違う、まりぃべるの世界観です。それを分かった上で、暇つぶしにでも楽しんでもらえるととても嬉しいです。 ・書き終えています。順次投稿します。

捨てられた騎士団長と相思相愛です

京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】異国へ嫁いだ王女は政略結婚の為、嫌がらせされていると思い込んだが、いつの間にか幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
オティーリエ王女は幼い頃は誰とでも分け隔てなく接していた心優しい少女だった。しかし八歳から始まった淑女教育や政略結婚の駒とされる為に様々な事を学ばされた為にいつの間にか高慢で負けず嫌いな性格に育ってしまった。常に王女らしくあれと講師の先生からも厳しく教育され、他人に弱みを見せてはいけないと言われ続けていたらいつの間にか居丈高で強気な性格となってしまう。 そんな王女が、とうとう政略結婚の駒となり、長年確執のあった国へと嫁がされる事となる。 王女は〝王女らしい〟性格である為、異国では誰にも頼らず懸命に生活していこうとする。が、負けず嫌いの性格やお節介な性格で、いつの間にか幸せを掴むお話。 ☆現実世界でも似たような言い回し、人名、地名、などがありますがまりぃべるの緩い世界観ですので関係ありません。そのように理解して読んでいただけると幸いです。 ☆ヨーロッパ風の世界をイメージしてますが、現実世界とは異なります。 ☆最後まで書き終えましたので随時更新します。全27話です。 ☆緩い世界ですが、楽しんでいただけると幸いです。

【完結】光の魔法って、最弱じゃなくて最強だったのですね!生きている価値があって良かった。

まりぃべる
恋愛
クロベルン家は、辺境の地。裏には〝闇の森〟があり、そこから来る魔力を纏った〝闇の獣〟から領地を護っている。 ミーティア=クロベルンは、魔力はそこそこあるのに、一般的な魔法はなぜか使えなかった。しかし珍しい光魔法だけは使えた。それでも、皆が使える魔法が使えないので自分は落ちこぼれと思っていた。 でも、そこで…。

処理中です...